神隠し
「今回の任務は[地球]の調査だ。どんな些細な出来事でも良い、レポートに纏めて提出してくれ。では、幸運を祈る」
ツーツー
「はぁ……とんでもない事になっちまった」
現在、俺は[地球]に降り立ち誰にも見つからないよう隠密しながら行動している。
最重要事項は先遣隊の行方不明の原因解明だ。
こいつを明らかにしなければ自由には動けない。
原住民に始末されたのか、この惑星自体の災害によって命を落としたのか、それによって動き方も変わってくるだろう。
俺の種族、イコール特有の種族能力で〈寄生〉と言うものがある。
〈寄生〉とはあらゆる物や存在に入り込み身体の操作を奪うというものだ。
例えば死体に〈寄生〉したら死体を動かせるし、生物に〈寄生〉したら意識を失わない限り操作権は俺のものになる。
原住民を〈寄生〉出来れば、仲間だと誤認させて潜入捜査も楽になるだろう。
「おーい、里奈〜!! どこだ〜!!」
何処からか声がした。
急いで近くの草むらへと隠れつつ様子を伺うように、少しづつ声の主に近づいていく。
俺の耳に装着してある《言語翻訳モジュール》のお陰で、あらゆる知的生命体の声を変換して自分でも意味が分かるようにしてくれている。
過去に持ち金叩いて買った甲斐があったぜ、これ結構高級品で、更に俺の声も相手に伝わるような機能まで付いて――――ってそんな事考えてる暇無いんだった。
「もう夜遅いというのに、一体どこに行ったんだ……」
文章から察するに何者かを探しているのか?
しかし、周りには誰も居ない。
その里奈とやらを見つける前に〈寄生〉しちまうか。
ザザッ……
「だ、誰か居るのか?」
あ、つい音出してしまった……仕方ない一芝居打つか。
「げっ、誰か来たのか」
俺の作戦、それは敢えて相手と会話する事だ。
今、俺の立場としては、姿を見せない無茶苦茶怪しい奴だ。
だからこそ、姿見せない理由を話して納得させればいい。
「あの……そこで何して――――」
「待て、それ以上近づくんじゃねぇ。俺は大便してるんだ」
え、建前として汚すぎるって?
仕方ないだろ、思い付いたのがこれしか無かったんだ。
流石に野糞してる奴を見に来ようとは思わんだろう。
「えぇ……あ、すみませんでした。それじゃ、僕急いでますんで……」
何やら物凄い引かれた気がするが、プライドなんて知った事ではない。
何故なら――――これで背を向けてくれるからなぁ!!
「隙あり!!」
ゴボッ
「がぁっっ……!!」
俺は背を向けたこの原住民の身体の中に潜り込み〈寄生〉する事に成功した。
一瞬視界がぼやけるが、直ぐにこの身体に馴染むように視点を調整する事が出来た。
この身体に〈寄生〉した感覚で言うと、そこまで強い身体ではないというのが俺の感想だ。
軽く動かしてみるが、そこまで素早く動ける訳でもなく、だからと言って動体視力などが優れている訳でもない。
視界はこの身体に依存せず、元々の本体を通して見た方がよっぽど見えやすい。
唯一優れている点はこの身体だと、思考が鮮明になっているという事だろうか。
きっと頭の回転が早く知恵がある種族であり、それで身体の弱さを補っている生態なのだと推測する。
しかし多少知恵がある程度で、果たして先遣隊を始末出来るのだろうか。
先遣隊も捨て駒であるだろうが決して弱くはない。
俺の知らない高度な技術力があると考えるか、それとも他の原因があると考えるべきか。
「今あれこれ悩んでも仕方がない。里奈と言ったか、身体の持ち主はその者を捜索していた。ひとまず、そいう体で捜索を続行しつつ情報収集だな」
今は太陽の光が当たっていない時間帯なのだろうか、辺りに暗闇が満ちている。
ふと、その暗闇に一筋の光が現れた。
あれは――――蛍だ。
身体の持ち主の記憶には、あれは蛍と呼ばれる小生物で夏の熱い時期に出てくるらしい。
宇宙を見渡せば光を発する小生物は少なくは無いが、暗闇に淡く光る演出は神秘的に感じるものだな。
少なくとも、この身体の――――いや、勇輝はそう思っているらしい。
この〈寄生〉を使用するメリットの一つは、こうして身体の持ち主の記憶を共有されるというものだ。
しかし同じくデメリットとなる場合があり、その者の嫌な記憶も共有されるという事。
俺は大丈夫だが、イコールの中には記憶の共有が不快に思う者も居る。
気持ちは分からんでもないが、知識が増えるのは良い事だと俺は思うがな。
「これは……鳥居?」
森を歩いていると、鳥居と上に続く階段があった。
そして、その下にリボンが落ちていた。
このリボンは、里奈の物だ。
里奈が付けていたリボン、これは勇輝が里奈に対して贈ったプレゼントだった。
つまり、この先に里奈が居る。
「俺自身は興味無いが、勇輝の記憶から行けと言われてる気がするな」
安心しろ、どちらにせよ行かない選択肢は無い。
俺の目的は地球の調査、この上に何があるのかもちゃんと調べておかないとな。
◇◇◇◇◇
鳥居をくぐり、長い階段を登っていく。
一歩、また一歩と暗く長い階段を登り続ける。
◆◆◆◆◆
しかし、どれ程登ったとしても先が見えず、つい足を踏み外して転げ落ちそうな感覚がする。
◇◇◇◇◇
俺は変な感覚を耐えながら、足を踏みしめつつ永劫の時のような軌跡を歩き続ける。
◆◆◆◆◆
危うく意識が飛びかけそうになる頃、やっとこの道の終点が見えてきた。
目の前には社があり、狐の像が祀られている。
「こんなに歩かせるとは良い度胸してるじゃねぇか」
さて、里奈はどこに隠れているんだ?
ここに居るらしいが、特に痕跡らしい物は――――――
コン
社の目の前、突如という言葉が似合う程に狐が出現した。
先程まで、そこには空虚しかなかったはずだ。
まるで、突然現れたかのような――――
コン
◇◇◇◇◇
「………は?」
瞬きをした、その一瞬。
そう、その一瞬で眩い光がこの空間を包んだ。
まるで太陽の光のような――――――
「…………どこだ、ここは」
いつの間にか、全くの別空間が広がっていた。
エイリアンと言ったら相手の身体に入り込むやつだよね(偏見)
あと括弧によって、それが何なのか判別しやすいようにしました。
「」・・・会話
〈〉・・・能力や技名
《》・・・アイテム
【】・・・組織名
[]・・・地域、街、店などの名前
など
もしかしたら増えるかもしれないし、特に増えないかもしれない。




