『一方その頃』守る意義
マイスター視点
〜少し前〜
「私を呼び付けるなんて、強引過ぎ。せっかく、弟子の修行を見届けようと思ったのに」
突然招集を受けた私は、不機嫌そうに愚痴を呟いた。
そもそも【魔女会】のメンバーは自分の興味のある物事でないと積極的に動かない。
当然私も例に漏れず、即座に話を切り上げ隙あらば〈テレポート〉でこの場を離れたいとすら感じている。
でも、そうしないのは呼んだ相手が【夜犬教会】教皇ドックラン、その人だったから。
彼は長年教皇としてこの街を守護してきた実績がある。
何度も面倒事を押し付けられてきたけど、それでも従って来たのな彼の人望と人柄に興味があるから。
要するに、ただのお節介。
「すまないな。度重なる問題故、今はそちらの都合に合わせる事は叶わないのだ」
「世辞は良いから、早く本題に入って」
「神権をお前さんに継承する」
「…………何ですって?」
私は耳を疑った。
あのドックランが、神権を私に継承すると言い出した。
それならもっと相応しい人が居るはず。
何故、私なの。
「何、ワシはもう年だ。もう生先は長くはない。ここ[ラナ]を更に強固にするには、これが一番だと思ったのだ」
「そうじゃないでしょ。私じゃなくて、ガードンやブライトに継承させるべき」
私がそう言うとドックランは乾いた声で笑いながら、近くの椅子に座る。
その姿は、あの神々しい教皇ではなく、ただの一介の老人のように見えた。
「ガードンは優し過ぎる。確かに人々を守る意義は素晴らしいが、それ故に自己犠牲がある。神権を持った状態で自分が死ねば、最も近しい者が継承される。もし脅威に継承されれば一巻の終わりだろう。その懸念により除外した」
「ブライトは、彼は【夜犬教会】でも信仰厚い者。実力も申し分ない」
「ブライトは厳し過ぎる。確かに魔物を狩るその手腕は素晴らしいが、それ故に守る意義を忘れてしまうだろう。月の神権は人々や街を守るためにあるのだ」
守る意義。
それは月の神獣である夜神様の意思。
月の神獣の遺言とも言えるそれを【夜犬教会】が特に重視している点だ。
そして、それは私も同じ。
私もこの街が好きだし、出来れば守りたいと思っている。
「そして、マイスター。お前さんが最も神権を使いこなし街を守ってくれるだろうと信じている」
「その根拠は」
「ワシは知ってるぞ。お前さんは神獣が生きていた時代――――神代の者だろう。そして、夜神様の使徒だった」
「………………」
…………流石は【夜犬教会】の教皇。
そこまで、知っていたのね。
そう、私は夜神様の使徒だった。
夜神様と会話し、夜神様を守り、夜神様に従っていた。
月の神獣の役目を終え、死の直前に夜神様は言った――――
「「外敵を通さぬ強固な壁を築き、月の光で平穏を維持し、魔の者へと反撃せよ。人々に月の祝福があらん事を」」
この言葉は【夜犬教会】の宣誓文であるが、その真の意味を理解する者はこの場に二人しか居ない。
夜神様は、遠い未来にこの世界が脅威に晒される事を理解していたのかもしれない。
だからこそ、その脅威に耐え、維持し、反撃しなくてはならない。
「これは、ワシの最後のワガママだ。この街を…………いや、この世界を守ってくれ」
「…………ズルい、私をハメたね。昔の事まで引き出して、君は頑なに世界を守ろうとする」
私は何かが、身体の中に入ってくる感覚がした。
顔を教皇ドックランの方へ向けると、そこには心地よさそうに眠っている老人のみが居た。
窓の光が老人の顔を照らし、満足気に、笑顔で眠っている。
私は彼の前で祈祷する。
「任せて、守るよ。絶対」
バンッ!!
「教皇様……?!」
「なっ……!!」
そこには、はち切れんばかりの顔をしたブライトとガードンが扉の前で佇んでいた。




