黒い霧の激怒
ミストは”インフル”と呼ばれる種族であり、常に体内から身体の成分を放出する〈分散〉の種族能力を持っている。
それ故に自身を維持する為に通常はかなりの労力を要する程の脆弱な種族である。
しかし、このミストはその〈分散〉をもコントロールする事で、自らを霧として〈分散〉させる事を可能とした。
その霧を敵に吸わせて体内に侵入し暴れる事で行動不能に陥れる事だって可能だろう。
俺はこの強靭な肉体があるから腹が痛い程度で済むが、今はアカツキも居る。
下手な真似は出来ないぞ。
「どうやって、ここに侵入出来たんだ?」
「何、この結界を破る伝手があっただけに過ぎない。俺様の大切な仲間さ」
――――――他にも協力者が居る………ね。
これは困った、こいつ普通に強いから協力者に伝わる前に始末とか絶対出来ないだろう。
「そりゃ有り難い話だな。どうだ、少しばかり情報交換でもするかい?」
「勿論だとも。この不気味な空間から脱出するぞ」
俺はミストに従って〈トゥルーハウス〉から脱出した。
ある者に目配せしつつ。
◇◇◇◇◇
「このぐらいで良いだろう」
ここは[ラナ]から、かなり離れた見知らぬ森だった。
植物が活発に生い茂るが、それと同時に見知らぬ魔物も大勢こちらを睨みつけて来る。
「動物園にしては少し凶暴過ぎないか?」
その魔物達は所々身体の構造がおかしい者ばかりだった。
本来あり得ない場所に腕を生やしている魔物や、身体中に複数の眼球がある魔物、金切り声のような鳴き声を上げる魔物だって居る。
こんな真似出来る奴なんて、俺の知る限り一人しか居ない。
「凶暴だって? 馬鹿を言うな、僕様好みにアレンジしたと言ってくれよ」
スライムのように不定形の身体をした宇宙人が、俺の発言に異議を申し立てる。
同じく【宇宙帝国ルルイエ】の先遣隊の隊員、オペだ。
オペは”モッド”と呼ばれる種族で、あらゆる物質を〈改造〉出来る種族能力を持つ。
あの悪趣味な魔物達も、その〈改造〉によってお互いの身体を接着し合っているのだろう。
「さて、話の続き――――と行きたい所だが」
「どうした、俺をジロジロと見て……見惚れたか?」
「違うわ!! ……リィム、お前に二つ聞きたい事がある」
なんだ、違うのか。
てっきり、俺の魅惑のレッドボディが格好良すぎるあまり一瞬思考停止したのかと……冗談だって。
「まず一つ、その小生物は何だ?」
「孤独な俺を癒す為のペットだ。名前はアカツキ」
「………………」
妖精のアカツキは周囲が怖いのか、頑なに俺から離れようとはしない。
ブルブルと震え上がって、今にも泣き出しそうだ。
「ほら、根暗な霧と悪趣味な魔物のせいで怖がってるじゃないか。こいつの心にダメージを負ったらハラスメントで訴えるぞ?」
「え、むしろ、何でお前に懐いてるんの?」
「は?」
オペ、お前それどういう意味での発言だ?
どこをどう見たら、俺が小生物にすら恐怖される宇宙人に見えるんだよ。
何度会っても失礼な事しか喋らないな全く……。
「…………まぁ良い。一つ目の質問は個人的に気になってたから聞いてみただけだ。本題は二つ目だ」
それを言った途端、周囲の黒い霧が即座に活性化した。
まさに「言葉を間違えれば殺す」と言わんばかりに。
「お前…………今、どっちだ?」
「……………………」
まぁ、バレてるよね。
周囲を見渡してみると、それぞれ騒ぎ立ってた魔物達も既に戦闘態勢へと入っている。
即座に殺さないのは、同僚に対しての最後の警告と情が入り混じってるからだろうか。
「今の俺の雇い主はマイスターだ」
「そうか、死ね!!」
その瞬間、黒い霧は瞬時に重くなる。
まるで突如として、そこの重力がのしかかったかのような圧力によって、その場所はクレーターと化した。
「おいおいキレすぎだろ。俺は傭兵だぜ? 当然、労働環境が良い方に行くに決まってるよなぁ!!」
一方、俺は森の上空に逃げていた。
イコールの身体能力は宇宙全体でも上位、能力発動前にその場を離れるなんて造作もない。
「この尻軽野郎が!!」
ミストは〈分散〉で身体を霧状にして浮遊、そのまま俺を追撃しようと追いかけて来る。
だが残念だったな、救援はもう呼んであるぜ?
「後でちゃんと説明して貰いますからね!!」
突如として、シェーラが現れて俺をキャッチした。
ミストが〈トゥルーハウス〉を破った時から、こっそりと会話を盗み聞きしてたんだよな、この狸女。
多分師匠の命令で監視してたんだろうけど、それが帰って功を奏した形って訳だ。
「〈テレポート〉」
「あばよミスト、次会った時は敵同士だ」
俺はブチギレたミストを見ながら、この場を去った。
一人称が俺様なのがミストで、一人称が僕様なのがオペです。
どちらも先遣隊の者ですが、ミストは単純な戦闘能力が洗練されていて、オペは科学者のようなヤバさを持っています。




