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雨乞いダンスと泥まみれの祝福

サルダーンの空が、少しだけ曇った。


 それはもう、街中がざわつくほどの事件だった。


「雲が……見える……!?」「ほんとに? 嘘じゃない?」「違う、あれはホコリじゃない! 雲だ雲だ!!」


 年に一度あるかないかの、“降るかもしれない日”。


 そしてこの日、サルダーンでは恒例の祭りが行われる。


 その名も――


 《雨乞いダンス大祭》。


「ナーム、今年は前列ね! 昨年さぼったでしょ!」


「いや、あれは風邪……じゃなくて“風の祟り”だったって話で……」


「言い訳無用。ダンス衣装、渡すわよ!」


 祭り委員のスーハ姉ちゃんに、私は強引に半透明の布きれと、銀の鈴を渡された。


「……え、これ着るの?」


「そうよ。風に揺れる布と音が精霊のご機嫌をとるのよ」


「でもこれ、下着透けるレベルじゃん!!」


「神聖な儀式なのよ! 恥じらいは脱ぎなさい!!」


「脱ぐのは布じゃない! 心だよ!!」


 そして夜。


 中央広場の石舞台に、サルダーンの住民たちが集まり、

 小太鼓と笛のリズムに合わせて、思い思いの“踊り”が始まった。


「雨! 降れ! 精霊見てるぞ降れ〜〜〜!!」


「雲〜〜〜、こっち来い〜〜〜、砂じゃない雲来い〜〜〜!!」


 踊りというか、もはや叫びながらジャンプしてるだけの人もいた。


 その中、私は布をひらめかせながら、精霊に願いを込めて舞った。


「お願い、ちょっとだけでもいいから……水を、この街に……」


 そのとき。


 風が、ふわりと吹いた。


 空を見上げると、雲が割れて、月が顔を出した。


 ……次の瞬間。


 ぽつ、ぽつ、ぽつん……


「…………降った!!!!!!!」


 最初の一滴が私の額に落ちてから、

 雨は徐々に大粒になり、街の屋根を叩き、石畳に跳ね、

 誰かの水壺を満たし、祭壇の鈴を濡らしていった。


「うおおおおお! 雨だあああああ!!!」


「踊れ〜〜〜〜〜〜!! 濡れても気にするな〜〜〜〜〜!!!」


「泥だ! 泥が気持ちいいいいいいいい!!」


 そして私は、気づけば泥だらけになりながら、

 ラミカ婆とスーハ姉ちゃんと手をつなぎ、踊っていた。


 恥ずかしい? 疲れる? 髪がドロドロ?


 そんなの、どうでもいい。


 だって、年に一度の“空からの祝福”が、いまここに降ってる。


 こんな日くらい、はしゃいだって罰は当たらない。


 雨は夜半には止んだ。


 翌朝、街は少しだけ静かで、

 砂の色が、ほんの少し濃く見えた。


「……いい雨だったね」


 私の言葉に、空の雲が、ほんの少し笑った気がした。

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