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夜空のバザールと空飛ぶ屋台

サルダーンの夜は、星が近い。

 砂の熱気が去った後の空は、しん、と静まり返っていて、まるで天幕に穴を開けたように星々が広がっていた。


 そんな夜にしか開かれない市場がある。


 「星灯ほしたバザール」――空に浮かぶ、幻の夜市だ。


「ナームさん、今夜のバザール、うちも出しますよ! よければ一緒にどうです?」


 そう声をかけてきたのは、空屋台屋のラサド。

 彼は空中に浮かぶ魔導屋台を操って、夜空に現れる市場で商いをする変わり者だ。


「え、出るって……あれ、ホントに飛ぶんだよね?」


「ええ! 今夜は気流も安定してるし、星の精霊も機嫌が良い。きっといい夜になりますよ」


「……地上で売った方が楽じゃない?」


「そりゃ楽でしょうけど、ロマンがないじゃないですか」


「……それ言われると弱いんだよね……」


 夜。私は店の商品を詰めた箱を抱えて、ラサドの屋台に乗り込んだ。


 この屋台は“浮力石”と“風精霊の魔導帆”で動いている。

 ふわり、と持ち上がった瞬間、私は思わず両腕で荷物を抱きしめた。


「こ、こわっ……!!」


「慣れれば気持ちいいですよ。あ、落ちないように靴底に魔符貼っといてくださいね〜」


「先に言って!!」


 バザールの開場は、街の真上、夜空の風道ふうどう

 浮遊する屋台が次々と集まり、提灯のような光が空に浮かぶ。


 香辛料の香りが風に流れ、空中を跳ねる音楽が流れ、

 屋台の間を子どもたちが滑空板で飛び回る。


 その光景は――まさに、星の街そのものだった。


「冷却石、三つねー!」


「この風除け布、夜でも砂入ってこないってホント?」


「こっちの魔導ランタン、星の色に変わるって噂だけど?」


 商品は飛ぶように売れた。


 なにせ“空で雑貨が買える”というだけで、客は上機嫌。

 しかも、地上より涼しい。虫もいない。最高の立地(?)だ。


「ナームさん、これ、いいですよ!」


 ジュフがどこからか持ってきたのは、星型の冷却石。


「これ、空の風で冷やす“星気冷石”っていうんですけど、バザール限定品らしいですよ」


「え、なにそれ可愛い! 一個交換!」


「スープ三つとなら!」


「高いわ!」


 終盤。風が少し強まり、屋台がわずかに揺れたとき。

 何かがぽーんと飛んでいった。


「あっ!? 私の試作品“自動飛行ランプ”が……!!」


 それは空をくるくると回りながら、高く高く、まるで星を追いかけるように昇っていった。


 誰かが言った。


「……あれ、月まで届くかもな」


 バザールの夜は、静かに、でも煌びやかに終わった。


 私はほとんどの商品を売り切り、ほかの屋台と一緒にゆっくりと地上へ戻った。


「……砂漠の夜空も、悪くないね」


 魔力が灯した星々が、少しだけ近く感じた夜だった。

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