今日も砂が入ってくる
朝起きたら、まず砂だった。
……いや、目覚ましの鐘より先に、口の中に砂が入って目が覚めた。これがサルダーンの日常だ。
「……ぺっ。今日も快晴だなあ」
この街に雨が降るのは年に一度、降ったらお祭り騒ぎ。
それ以外は毎日が快晴。砂と風が挨拶代わりだ。
私は《ナームのなんでも屋》の店主、ナーム・マズナ。十七歳。
祖父の代から続く雑貨屋を継ぎ、砂と共に今日も元気に生きている。
店の入り口に張った“砂除け布”は、どうやら今日も役に立たなかったらしい。床一面、薄い白砂がふわりと積もっている。
「東風がちょっと強かったか……風読み板、調整しないと」
ぶつぶつ言いながらほうきを取る。掃き出しながら、今日の品を並べる。
・風除け布(新作)
・冷却石(少しヒビありで特価)
・水精霊の祝福を受けたスプレー(残量わずか)
・“魔力で動く日傘”の試作品(まだ回る)
「はい、なんでもあります、たぶん壊れてないよー」
通りを歩く住民に向かって声を張る。すると、向かいの氷屋からラミカ婆が手を振ってきた。
「ナーム、風除け布、またズレとる! 東風がちょい右に曲がったの、感じんか!」
「えっ、またぁ!? 昨日貼り直したばっかりなのに……」
「風は生き物じゃ。昨日と今日で同じ向きなわけなかろ!」
婆の雷のような怒号に、慌てて風向き調整用の魔符を取り出す。
うっすらと光る青いルーンが、くるくると方角を示している。
東風、ほんの一度、南寄り。
「……くっ、やられた……」
「まったく、若いもんは体で風を感じにゃあな……ああ、氷一つ頼む!」
婆はどかりと腰を下ろし、うちの試作品「持ち歩き冷却石」に腰を当てた。
「婆ちゃん、それは売り物です!」
「使ってみなきゃ売れんだろ!」
「雑だなあ……」
そんなこんなで、今日も砂と婆ちゃんと、風まかせな街の一日が始まった。
店先には子どもたちの笑い声、遠くの通りではトカゲ型の空便屋「ドンピシャ丸」が空を滑る。
気温は四十五度。湿度は一桁。
でも、今日もサルダーンは平和だ。