ダンジョンの主と口論
ミードが仲間になってから数日。レードとの仲は改善の傾向がみられない気がする。
レードのモンスターへの対応を移動中にミードがそれの良し悪しについて指摘してレードが不満を言うといった感じだ。初めのころは私も二人の仲を取り持とうと考えたが……何度も繰り返されるので諦めることにした。
「だから!あなたはなんでいつもいつもロサさんたちの位置を確認しないの!?お二人が立ち位置を調整してくれてるからいいもののそろそろ前衛としての基礎は身につけてほしいんだけど!」
「別にそれで今までやってこれたんだし気にしなくていいじゃん!」
また始まった、ミードは私やカラットにはこんな感じには接してこない。なんならある種の敬意を持っているとすら感じるほど丁寧に対応してくる。
なのに、レードに対してだけはああなのだ。
「カラットはさ、あれ止めた方がいいと思う?」
「喧嘩するほど仲がいいって言いますしほっといても大丈夫だと思いますよ?」
喧嘩しているのなら仲は悪いと思うが、カラットが大丈夫というなら大丈夫なのだろう。それに、
「殴り合いに発展してないことを仲がいいって言うなら確かにそうなのかも」
探索者になる人間にもレードのように普通にこの街で生まれ育ったため職業の一つとして認識し、仕事として従事する人間も少なくはないが大半が街の外から来る人間だ。理由は様々だとは思うが大半は元々いた街に住めなくなるほどのことをしでかし、流れ着いた人間なのだ。そのため基本は犯罪者であることの方が多く、ギルド内での探索者同士の暴力沙汰は数日に一回は見聞きする。
「わたしも慣れてきましたけど何であんなに探索者同士で殴り合うんでしょうね?痛いだけだと思うんですけど」
「私はよくわからないけど己の力を誇示した方がいいパーティーを紹介してくれるらしいよ」
「あれ実益あったんですね……」
「あと殴り合ったほうが心が通じ合うなんて言う人もいるし」
亡くなった元パーティーメンバーもリーダーの男と前衛の男が親友になった経緯を聞かされたことがある。そんなことはあり得ないと思うが目の前の二人にはその素質があるのかもしれないと思った。
「男ですか?」
「え?」
唐突にそんなことを言ってくるカラットはいつの間にか視線を私の方に向けていた。
「ロサちゃんは男性が苦手だと思ってたのに男の知り合いがいたんですね」
「そりゃそうでしょ私がいた前のパーティーでは普通に男女混合だったし」
「前の……つまりもうこの世にはいないと?」
「そうだよ。それに私の探索者としての知識は彼ら譲りだからね。カラットも多少は恩恵を受けていると思うよ?」
「む。むむむ……そういわれると嫉妬するにもできませんね……」
「嫉妬?カラットって嫉妬するの?」
「するに決まってるじゃないですか。私ロサちゃんのこと大好きなんですよ?恋愛的な意味で」
「好きだから嫉妬するってどんな感じなの?言葉の意味としては分かってるんだけど私は経験したことがないと思うから教えてほしい」
「どんなって言われましても……こう、好きな人がよそ見をしていることに心の制御が効かなくなるって苛立ちがすごいですね。お腹がムカムカします」
「苛立ちって寝不足の時に感じるみたいな?」
「あーそれに近いかもです。というか何故そんなにわたしの嫉妬なんて知りたいんですか?独占欲ですか?」
「独占欲……そう言われるとそうなのかも」
私の口から出たそんな言葉にカラットは綺麗な目を見開かせる。そんなに意外だったのだろうか?
「ロサちゃんが私を独占したいんですか?」
「えっと……カラットの自由は保障はしたいし今日にでも例えば、レードさんの家に住みますって言ったら私からも頼みこむし、パーティーを抜けたいと言ったらそうなるよう手配するよ?」
おかしいな口から出る言葉は本心なはずなのに言い淀んでしまう。
「ごめんなさい!わたしが悪かったですから泣かないでください!」
「え?私泣いてた?」
頬をぬぐってみると確かに人肌の透明な液体の感触があった。なら私はカラットが私が言葉にしたことをされると悲しいらしい。
「大丈夫ですよ。これまで何度も口にしてきましたしこれからも何度だって口にすると思いますけど、私ロサちゃんから離れることなんて絶対ないですからね」
「そっか。なんか安心した」
「ねえミード。なんで私たちが喧嘩してたはずなのに仲裁にも入らずにくっつくネタにされたことについてどう思う?」
「特に何とも。私、他人の色恋とかにあまり興味がないのよ」
「あー私の愚痴仲間増えると思ったのにどうしてこんなやつが仲間になったんだー」