ダンジョンの主と新たな出会い
「一応確認するけど二人とも仲直りしたってことでいい?」
「はい……多分……」
「わたしたちは仲良しですよねー!」
「見ればわかるわよそんなにべったりくっついちゃって……すごい動きづらそうだけど大丈夫?」
「わたしは問題ないですよ?」
「カラットじゃなくてロサに聞いてんのよ」
「正直に言えば動きづらいといいますか……」
現在私の左腕はカラットに抱きしめられており動かそうにも動かせない。せめてもの救いは利き腕ではないところだろうか。まあ離れられるよりはずっとマシなので私としては困ることはあっても邪魔だとは思っていない。
「ほらロサもそう言ってるんだし離れないってば!」
「いーやーでーすー!もう絶対に離れないって誓ったんですよ!」
「そんなこと言ってないでしょ!いいからあんたらがくっついてるとダンジョン探索がまともに進まないでしょ!カラットはともかく普通の後衛のロサはモンスターの攻撃をまともに食らったら危ないんだからね!」
現在ダンジョン九階層目。
探索者の間で大雑把に区分けされている上層、中層、下層のうち上層と中層のどちらに区分すべきか分かれる場所だ。私たちのパーティーでくるのは初めてであり慎重を期すべきところだがカラットがさっきからこの通りなので攻略速度はだいぶ遅い。
「最悪わたしが盾になるから大丈夫ですって!私を傷つけられるのはロサちゃんだけなんですから!」
「カラットそれはダメだよ。不可能だってカラットが思っていてもモンスターの中にカラットを傷つける可能性があるやつだっているかもしれない。だから私なんかのために盾になろうとしないで」
「ロサちゃん……」
「悲しそうな顔をしないで、カラットが傷つくのが嫌な私のわがままなんだから」
「二人の世界に入らないでもらえる?どっかからモンスターの足音聞こえてきてるんですけど!」
レードが声を上げたことでハッとする。確かに前方の方からモンスターが……五匹接近してきている。
「正面の曲がり角から来ます!」
「わかった!」
そう応えるとレードは先手をとるために剣を振り上げて待機する。聞こえてくる足音的に先頭のモンスターを倒せれば後ろのモンスターもそれに足を引っかけるつもりか。
曲がり角から何かが飛び出してきた。それに合わせてレードが剣を振るおう。
「あ、モンスターから逃げてる人が先頭なので気を付けてくださいね!」
レードも足音を聞き分けているだろうが一応伝えておく。
「え!?」
レードは気づいていなかったのか。先頭へ向けて剣が振り下ろされる……いや、彼女はすんでのところで軌道を変え剣の腹の部分をモンスターの先頭にあてた。
予想通り先頭のモンスターがバランスを崩したことで後ろのモンスターがつっかえ綺麗に倒れこむ。
逃げていた人物とレードがモンスターと十分な距離を取ったことを確認するとカラットはよく使う魔法をモンスターに当てる。大きな音と光が収まるとモンスターたちは無事原型をとどめたまま死んでいた。出会ったころの彼女ならモンスターを素材として使える部分もろとも消し飛ばしていただろう。しかし何度も繰り返し使ったことで彼女にも手加減というものができるようになったらしい。
彼女は自身の肉体にはなんの変化もないと言っていたが技術面ならばしっかり成長している。普通なら喜ぶべきなのだろうけど彼女の心も私から変わっていくかもしれないという可能性が突き付けられたような感じがして少し気分が暗くなる。
それよりも、だ。爆発の余波で吹き飛ばされてきた人物。多分女の人であろうこの人を介抱すべきだろう。人命は優先すべき事項だ。
私よりも近くにいたレードが声をかける。
「あの、大丈夫?」
「はい……大丈夫……です」
「レードさんその方の介抱お願いしていいですか?私は周囲の安全確認してくるので」
「わかった!」
「ロサちゃん私はどうすれば?」
「カラットは私と一緒に来て私の魔法だと心もとないから」
「了解しました!」
「行っちゃった……あれなんで私一人で残されてるの?」
「ここ一帯の安全が確保しているからではないですか?さっきの攻撃魔法の音が響いてもモンスターの寄ってくる音も聞こえませんし」
「あ、なるほど」
「中層に来る冒険者ならすぐに察しがつくと思うんですけどもしかして今日が初めての中層だったりします?」
「恥ずかしながら……」
「でしょうね。人間の足音が聞こえているはずなのに私の頭狙ってきた時点でそうじゃないかと思いましたよ」
「う、うん。うん?」
「とっさに真後ろのモンスターを狙ってましたけど、あれそちらのリーダーさんの声かけがなかったら軌道を変えることできましたか?」
「あれより遅かったら無理だと思うわ」
「自覚してるならいいんですけど。というか介抱する気があるなら水を分けてもらえません?逃げるためにずっと走りっぱなしだったので」
「はい」
「……っはぁ。生き返ったわ。ありがとう」
「ねえ……」
「何?荷物持ちさん」
「だ、誰が荷物持ちよ!?」
「あなたたち三人のうち一番沢山荷物を持てそうだからそうだと思ったんだけど違うの?」
「私前衛で役割はタンクなのよ!?」
「え、冗談でしょ?今まであなたたちよく生きて来られたわね……」
「二人が帰ってきたら聞いてみなさいよ!私たちのパーティーで前衛は私だけだって!」
「いやだってあなたたちのパーティーは……」
目と耳を使い周りのモンスターを確認してみたがとくに先ほどの地点に向かう個体はいなかったため、カラットと手をつなぎ戻るとレードが要救助者に泣かされていた。
今日一日ずっと使っていた頭が完全に停止した。
今更なんですけどなんでこの作品タイトルにダンジョンって銘打ってるのに戦闘シーンがロクにないんですかね?