ダンジョンの主とすれ違い
おかしい……
そろそろ私たちが普段ダンジョンに行ってもよいころだ。それなのに二人ともやってくる気配がない。寝坊なのだろうか?
しかし起こしに行こうにも私はレードの家の場所を知らない。たまに私のところに来るのだからそれほど遠い所に住んでるというわけでもないのだろうけど。こんなことならレードに迷惑をかけてるわけだし二人用の昼食を買ってきてもよかったのかもしれない。
……それよりも朝の早い時間からずっと居座ってるから流石に周りからの視線が少し気になってきた。やっぱり昼食を買うがてら少し外をうろついてこよう。
私が家を出たときに比べ日が昇り街は活気にあふれていている。昨日の夜道と比べるとやっぱり街は活気にあふれていた方がいい。
二人の好きなものは何だろうか。カラットはおにぎりで……いいはずだ。おにぎりを食べてるところをよく見るし何度も勧められてきた。レードは……わからない。そこそこの付き合いをしてきたと思うのだが私は彼女について何も知らない。姐様にも言われてるし……いいやダメだ。姉様に言われたからで行動しても意味はない。
私自身の意思として行動を起こすべきだ。レードについても観察して好みや家の場所を知っていけばいい。
考えながら歩いているとカラットが足繫く通うおにぎり屋についていた。
「すいませんおにぎりください」
「おう!らっしゃい!ってロサの嬢ちゃんじゃないかなんで来たんだ?」
「なんのことですか?」
「ありゃ入れ違いかい?カラットが嬢ちゃんの分までさっき買ってたぞ」
「そうなんですか。ありがとうございます。では」
「そういやカラットは赤毛の子を連れ歩いてたが喧嘩でもしたか?」
赤毛……おそらくレードのことだろう。二人で買いに来たということは私がここに来たのは無駄足あったわけだ。
「喧嘩……はしていないと思います」
「じゃあなんでカラットが嬢ちゃんから離れて他の女と行動してるんだ?あーいや、他人が口に出すべきことじゃないか」
「いえ気にしないでください。昨日ちょっとレードさんを怒らせてしまいまして……原因が私なのでカラットを連れて行ってしまった感じですかね」
「そうなのか。てっきり嬢ちゃんがカラットに愛想つかしてカラットが他の女に乗り換えたと思ってたんだが勘違いか」
「そんなことっ……」
ないと言える自信がない。
私以外の手でカラットを生死を決められたくない。たとえレードであろうとそこには絶対に踏み込ませない。
だけどどこまで行ってもそれは私の自己満足でしかない。
しかし店主に言われて気づいた。カラットが私以外を好きになるという点だ。
カラットが私以外を好きになるなんて想像しなかった。いや、想像できなかった。他人の感情が水物であることは私だってよく知っていたはずなのに。なぜ私は彼女の心がずっと自分に向いていると思っていたのだろうか。
呼吸が荒くなる。
彼女の呪いを解く条件はあくまで彼女が愛した人物だ。
それは私である必要はないのだ。彼女が愛するならそれこそレードでもいい。
嫌な考えが頭によぎる。
レードは私と違ってカラット純粋に仲がいい。なら彼女がカラットの好意の対象になったら?レードの感情がカラットを殺すことが出来るとしたら?
嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
吐き気がこみあげてくる。目の前が涙でかすむ。
「おい、嬢ちゃん大丈夫か?」
「はい。大丈夫です」
「大丈夫じゃないだろ……これ食って元気だしな」
おにぎり屋の店主が鮭のおにぎりを差し出してくる。
くーとお腹がなる。朝ごはんが足りなかったのだろう。おにぎりにかぶりつく。
おいしい。
涙が溢れこぼれそうになるがそれを我慢する。カラットたちがいるであろう場所に向かわなければならない。
カラットが私からレードへ移り気しないうちに。
「ありがとうございました」
ペコリと礼をし一応お代を置いてその場を後にする。
駆け足で彼女が待つであろう場所────ギルドに着いた。
扉を開ける。
ギルドに着いたがロサがいない。
彼女はいつも私より先に来ていた。今日だけ別というのもありえないだろう。
隣に並ぶ彼女のことを考えると昨日何かあったのは違いないのだが如何せん昨日の夜の記憶が抜け落ちているので察することが出来ない。
「ねえカラット今更なんだけど、昨日飲んでからの記憶がないんだけど何で私の家に泊まってたの?」
「えっと……覚えてないませんか?昨日ロサちゃんが……うっうう……」
「ちょっとまって、なんで急に泣き出すの?ロサが?ロサがどうなったの!?」
とりあえず嗚咽混じりの説明を聞いてみると昨日いつも通り三人でご飯を食べていると急にロサが斬りかかってきたとか。
それでそのことに腹を立てた私がロサを連れ出したと。なるほど。
「よし。なにもわからないからとりあえずなんでロサは斬ったのかを考えよっか」
「なんでも何も本当に唐突だったからわかんないですよ……」
「ロサが理由もなくカラットを傷つけたりしないってカラットが一番わかってることでしょ?大丈夫私も一緒に考えてあげるから」
「うぅ~レードちゃん大好きです~」
カラットが泣きながら抱き着いてくる。こんな形になったが頼られるのはとても嬉しい。
感傷に浸るのもつかの間ギルドの扉がものすごい勢いで開けられる。
「あ」
この言葉を口にしたのは私なのか彼女なのかわからない。




