一人の時間を過ごす早朝
今日の朝はカラットがいない。
普段彼女は朝起きたら窓を開けるが私だけだし面倒だし開けなくてもいいか。朝食を済ませ身支度も終えて気がつく。
「なんかあっさりとした朝だ」
何か大事なことをしてないような焦燥感に駆られ持ち物の確認をする。
いつもの真っ黒のローブは着て、服も探索用の身軽で動きやすいものを。杖は右手に持ってるしナイフも腰に付けてある。素材を入れるための袋も背負ったところで気がついた。
「昼食買ってない……」
普段はカラットのためにも今から買いに行くべきだろうが面倒くさいので朝食べ残したパンを詰め込む。
「これでよし」
もう一度持ち物を確認する。全て問題ないのにまだ忘れてる気がする。
「カラットがいないこと以外で何か焦る要因は……」
ない、そう確信が持てたので家を出ることにした。
カラットに会えさえすれば問題ないと思って。
「いつもより早く着いてしまった」
回りを見るが普段見かける探索者は少ない、しかし装備がしっかりしたものが多いため日帰りでより深く潜るために早く集まったのだろう。話しかける相手もいないし手持無沙汰だ
早く着いたなら途中でお昼ごはんを買ってきてもよかったと少し後悔する。
「あれ、ロサさんお早い時間ですね」
「パルラさん、おはようございます」
私を着せ替えしたいらしいパルラさんに対してはあまり気にしないことにした。カラットたちの初めての休日の日のことをよくよく思い返してみると一言もスキとは言われていないのだ。なら私が彼女を避ける理由はない。ただ私のために服を用意して服を着させたいと言ってるだけなのに私は自分に好意を向けられたと勘違いしていた恥ずかしい。
「カラットさんが一緒じゃないって珍しいですね」
「今日はレードさんの家に泊まってるんです」
「そうなんですか」
最近はダンジョンのどこで活動しているかなどの世間話をした
「では、私はこれで。よかったら今度うちに来て色んな服着てくださいね」
「わかりました。私なんかによくしてくれてありがとうございます」
「ロサさんはかわいいから贔屓にしてるだけですよ」
「そうなんですね」
職員が個人を外見で判断していいものなのかと思うが悪びれてる様子もないし問題ないのだろう
カラットたちが来るまでまた暇になってしまった。
「ロサこんなところで突っ立ってなにしてんだ?」
「姐様!おはようございます!」
「応!いい挨拶だ!」
そうだ姐様ならこの焦燥感についても相談できるのではないか
「姐様ちょっと相談いいですか?」
「ロサが私に相談なんて珍しいな。なんでもいいぞ!」
そうして私はカラットがいないことはふれずに相談した
「あーつまり?朝起きてから何かなくしたような気がするけど何もなくしていない場合どうしたらいいかってことか?」
「概ねそんな感じです」
「知るか。なくしてないならいいじゃないか。なくしそうなもんはちゃんと全部あったんだろ?」
「はいそうなんですけど……」
「ちゃんと探して問題ない場合はたいていなくしたものが存在しないか、なくしたものはあっても元から要らなかったものなんだよ。それでもロサがなくしたっているならそれはちゃんと存在するしちゃんとなくしてるってことになる」
「じゃあやっぱり私は何かなくしたんですね……」
「頭痛くなってきたな……つまりはそうなんじゃないか?」
「ありがとうございます姐様」
「いいってことよ。それよりロサ、いつもの二人はどうしたんだ?」
「私がちょっと早めに起きてきただけなので多分二人とも後から来ると思いますよ。あ、昨日の別れ際怒らせちゃったので今日の予定は謝罪からですかね」
「怒らせたぁ?まぁ、ロサはたまにとんでもないこと言うからな。で、今回はどんな失言をしたんだ?」
「えっと失言?はしてないと思うですけど」
「いいからいいから、とりあえず当時の状況を説明してみろって」
私がカラットさんとの約束を守るために彼女をナイフで切りつけたが急にレードさんが怒り出したことを説明した。
「うーん。どこからつついていけばいいのかわからんのだが、何でカラットを切った?」
「カラットさんとの約束だからですね」
「そっか……とりあえず一旦置いておくとしてロサはレードって嬢ちゃんが怒った理由についてはわかってるんだよな?」
「えーっと……なんでなんでしょうね?さっぱりわかりません」
「それでよく謝罪しよう何て思ったな」
「でも謝罪は気持ちを込めれば問題ないですよね?姐様も前言ってましたし」
「確かに言ったが時と場合によるだろそんなもん。形式だけ謝ればいいのと友達怒らせたときに謝るのじゃ全然違う」
「時と場合ですか……」
学のない私にとって苦手な言葉の一つだ。ダンジョン内の魔物相手であれば結果さえよければ手段は二の次になる方が多い、だから決して善い行いと言われるものではなくても結果さえ伴えばどうにかなる。しかしこと対人に関しては過程というものが重要視され善い行いというものでなければいけない、しかし基準が時と場合によって変わってしまうのだ。なんとなく察せるなんて言われても私は察せないのだからどうしよもない。
「その様子だとまだ苦手なのか?時と場合で動くの」
「だって、人の思考なんてだれにも分からないんですよ?それを理解して行動できるのはみなさんがすごすぎます」
「そりゃロサが単純に経験が足りてないだけじゃないのか?」
「私だってこれまでなんどかパーティーを出入りしてそういうこと学んだつもりなんですけど」
「だって、だってって子供かお前は。私らみたいなのは経験で成長するしかないんだよ」
「うう……はい」
本当に苦手なことだが姐様にも説教されてしまった以上真面目に克服しなければならないのだろう。
「わかったならよろしい。あと夜中に人がいないからって道端で呪殺とかなんとかつぶやくんじゃないぞー」
去り際にそんなことを言い残して姐様は仕事に向かっていった
本日三度目の一人だ。私と交流がある人間で積極的に話しかけてくる人物ももういないだろう。ここにカラットがいれば今日の夕飯を何食べるかとか話すことができたはずだ
「カラットさんまだかなぁ……」




