季節の変わり目の帰り道の夜/ダンジョンの主とその友人
最近カクヨムの方でもこの作品をのせ始めたんですけど、序盤の本筋をなぞりながら書き直したら1~3話くらいまでが1話として圧縮されたりなんか初日の夜あたりの描写が生えてきました。あとロサちゃんの口調とか思考が今と違ってテンションが高いのでカクヨム版は修正しました。
レードがカラットを連れ帰ったため今日の帰路は私一人で歩いていた。ちょっと前まではこんな時間でもその日の打ち上げを行う探索者の笑い声が聞こえていた。最近だとガラの悪い連中が幅を利かせているとかで人通りも少なく静かなので考え事に集中しやすい。
「カラットを殺す感情かぁ……」
少なくとも今日まで彼女が感じていた感情ではないのだろう。それでは傷つけることすらできなかったのだから。
カラットはあの感情を愛情と呼んだ、だからきっと名前をつけるなら愛情になるのだろう。
「というか」
今更なのだがカラットは自身が死ねないことを呪いと呼んでいた。呪いというのだから普通は解呪できない造りになってるはずでそう考えると、対象を傷つけないであろう人物しか傷つけることができない呪いというのは呪いというものをよくわかっていない私でもよくできた構造だと思う。
「そっか、呪いかぁ……」
ほんの少し傷の治りが少し良くなったりほんの少し息がもったりするお呪い程度なら私も知ってはいる。だけど他人を害する類の呪いはきっと存在はしているのだろうが具体的なものは見たことも聞いたこともない。それでもこの都市なら一つだけ可能性が増える。
「マジックアイテムならもしかして?」
これまでどんなマジックアイテムが出てきたかは興味がなかったので気にしたことはない。もしかしたらカラットに通用するのもあるのかもしれない。
「それなら深く潜るなら準備しないと……」
彼女の希望に沿うならば私がカラットを感情をこめて殺すことなのはわかってる。だけど私がその感情を持つことができなかったら?カラットは約束は果たされず、彼女が死ぬ機会は遠のくことになる。それにしても
「私以外がカラットさんを殺す場合……か」
できないかもしれないができるという前提で考えてみよう。そうなると彼女の願いの比重としては私に殺されることと結果として死ぬことどちらが重要なのだろうか?
「私じゃなくてもいいならなんか……嫌だな」
考えるのはやめよう。明日になって彼女に相談すればいい話なのだ。それでもし彼女が結果さえよければいいと考えているならそれでいい。私という過程を重要とするのなら今後一切別のアプローチを考えなければいい話で、それでおしまいのはずだ。
そう結論付けて思考を止める
季節の変わり目なのか風が強くて冷たい
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「カラット、ちょっと手狭かもしれないけど我慢してね」
家についたのでとりあえずベッドに彼女を座らせる。ロサが急にナイフを取り出し斬りかかってきた時はまだいくらか喋れていたのだが彼女と別れ店を出るころには話さなくなっていた。
ここまで傷ついた人を見たことがないため私にできることで何があるのか皆目見当がつかない。
「何かほしいものとかある?」
「…………」
無言。家に帰るまでの道中何度か話しかけてみたが今みたいに反応が返ってこなかった。
「嫌なことはちゃんと口や行動にしないとわからないからね」
しかし、わからないならわからないなりに彼女の介抱をするしかない。
「カラット牛乳飲む?」
とりあえず聞くが反応は当然返ってこない。しかしそれは予想していた通りの反応なので準備をする。
「熱いから気を付けてね」
温めた牛乳を渡す。
ここまで歩いてこれたのだ目の前のものに対して反応が消えたわけではない。一拍の後目の前のものが何なのか理解したのか口にする。
「熱っ」
彼女は今更熱いことに気が付いたのか驚いた拍子に手からコップを落としてしまい中身が床にこぼれてしまった
「ごめんなさい……」
静かな夜だからなんとか聞こえた小さな声で謝罪の言葉を口にする
「いいんだよカラット謝らなくて私が温めすぎただけだから、それとも温めなくてもよかった?」
「いえ、あったかいのでお願いします」
「今日は冷えるからあったかい方がいいよね」
「そうですね。こんなに寒いのは今日が最近に比べて寒いからですよね……」
「掛け布団いる?」
ベッドの隅でまとめられていた掛け布団を彼女の肩にかけてあげる
「ありがとうございます……」
入れなおした牛乳を再度渡してみると今度はフーフー息を吹きかけてとちゃんと気をつけて飲むことができた。
「美味しいです」
「そっか」
そうして頬を緩ませる彼女は普段通りに見えるが違うのだろう。
「カラット、今日は泊まっていきなよ」
「いえいえ、そこまでお世話になるわけでは……」
そういって立ち上がろうとするので肩を掴んでおさえつける。どうみても空元気な彼女をほっとくわけにもいかない。
「最近治安が悪いって聞くし夜道を女性一人で歩かせるわけにもいかないよ」
「これでも私ダンジョンの主でそこらの人より強いんですよ?」
「今こうして押さえつけられているのに?」
彼女が抵抗しようと何度か立ち上がろうとするが状況になんの変化も起きない
「ま、魔術を使えば大丈夫ですし……」
「街中では人に害をなす魔術は禁止されてるから後から絶対問題になる」
「じゃあどうすればいいんですか……」
「ここにいなって!」
思わず力がこもってしまい彼女を押し倒す形になってしまった。
「レードちゃん?」
「あんなことされたら泣くのが普通なの!それをカラットは泣かなかった偉いとは思うけど間違ってる!」
今まで思っていた言葉が口から飛び出しいつの間にか目が潤んでぼやけて見える
「だって、大好きで……大好きで毎日ずっと一緒だった人に殺すために一緒にいたって言われるんだよ!私には耐えきれない!ロサもロサだよなんであんなに楽しい食事だったのになんで急にナイフを取り出してくるわけ!?前々から周りのこと見てないなとは思ってたけど時と場所を考えてほしいよ!それと愛がわからないってなんなのあの子!そんなもの10歳になるころにはみんな知ってる!あーもうなんかロサのあらゆる点に腹が立ってきた!あのちびっ子精神年齢幼女!なんで同じものを何着もしかも真っ黒で統一してるわけ?バカじゃないの?!あと毎回じゃがバターばっか頼んでその間は人の話聞かなくなるし子供か!ああ子供ですよね!お酒も弱いから毎回潰れてるしちょっとは学習しなよ!子供だからわかんないのかな!?あと人に好意向けられるのが苦手って何?普通好きって言われたら誰でも嬉しいもんでしょ!それを怖がるって何なの相手に失礼だよ!断るにしたってちゃんと面と向かって言いなよ!」
一度に沢山の言葉を吐いたため息切れを起こす
「レードちゃんそこまで言わなくてもいいじゃないですか!前も言いましたよねロサちゃんを侮辱したりバカにするのは許しませんって!」
「あの子はこんなことじゃ怒りもしないでしょ!想像できる?ロサが彼女自身のために怒るところ」
「っだからって好きな人があれこれ言われるのは嫌なんです!」
「ねえカラット、ロサのどこがいいの……?あなたの呪いの条件だってロサである必要はないんだよ!あなたが好きになりさえすればさあの子じゃなくたってさ……ほかにもいい人沢山いるって!」
「ダメなんです!」
「え?」
「ロサちゃんじゃなきゃダメなんです。例え他の人も好きになってその人が条件を満たせて殺しにきても嫌なんです」
「……どうしてそんなにロサに固執するの?」
「わかりません、わかんないですけどロサちゃんしかいないんです。私を傷つけていいのも私を諦めてもいいのも私を殺してもいいのも全部ロサちゃんの手で行われたい」
彼女の紫色の瞳には強い意志を感じる
「死んじゃうのに?死んじゃったらロサと一緒にはいられなくなるんだよ?」
いつの間にか私の声は涙ぐんでいた
「それでも死ぬ瞬間を好きな人の目の前で死ねるんですよある種の幸運です」
「そっか」
彼女の言葉には納得できる点は多くはない。だけど今日のところは根負けだ
そう思った瞬間張りつめた糸が切れるように力が抜け押し倒してたカラットに覆いかぶさる
「レードちゃん!?」
「今日のところは私の負け……だから私は倒れるし帰りたいならカラットは私の体をどかしていけばいいよ」
「どかしてって……この体制だと力が入らないんですけど……」
「じゃあ諦めて私を布団にでもすればいいんじゃないかな人より体温高い自信あるしあったかいよ」
「……そうするしかありませんよね」
風が吹き荒れたけど暖かい夜を過ごした。