ダンジョンの主と服を買いに行く理由
大晦日なので今年最後にいちゃいちゃしてもらった
夜が明け今日はレードに連れられて服を買いにく日だ
先に起きていたらしいカラットが部屋の窓を開ける
「ロサちゃんおはようございます」
「おはよう」
「いい天気ですねー」
「日差し、入ってこないけど」
「無粋ですよ、こういうのは休日に晴れていることが大事なんです」
「そうなの?」
「そうです」
そうなのか……それよりお腹が減った
「朝ごはん……家になにかあったけ……」
「一昨日ぐらいにパンを買ってませんでしたっけ」
「じゃあそれで……お願い……」
「わかりました」
少し経つと香ばしい匂いがしてくる
「いい感じに焼けましたよー。はいあーん!」
そういって私の口元にパンを持ってくる、私はそのままパンにかぶりつく
熱が私の唇に伝う
「あっっ!」
思わずパンから口を離して目を開ける
「カラット……さん……おはよう」
「えっと、ロサちゃんもしかして今目が覚めました?」
「うん、そうだね……今目が覚めたよ……」
「せっかくロサちゃんがあーんを素直にしてくれたと思ったんですけど……寝ぼけてたならノーカンですかね」
「死にかけでもないのに口まで運んでもらわなくていいから」
そういってカラットからのパンを受け取って今度は熱さに気を付けて慎重に口に運ぶ
おいしい、カラットが焼くと焦げも美味しく感じる。パンに埋められているレーズンの酸味も朝の目覚めにはちょうどいい
「いい食べっぷりですねーもう一個食べます?」
「大丈夫、それと後片付けは私がするから」
身支度を整え待ち合わせに向かう準備をする段階で気づいた
「カラットさん……服を買いに行く服ってどうすればいいの?」
「……?服を買いに行く服に指定があるんですか、今の時世ではそうなんですね」
「いや、知らないけど。少なくとも私の服を選ぶ感覚が普通とはちょっとずれてる認識はあるから……レードさんと一緒にいて恥ずかしい思いはさせたくないし」
「あ、その認識あったんですね。ただの黒ローブマニアなのかと思ってましたよ……」
そういってカラットが私の服を入れている収納の中を眺める
それにつられて私も確認してみる。見事なまで黒いローブしかない。下を覗き込んでも明るい色とは無縁な暗い色のものしかない
「流石に世の中に他の色の服が多数を占めているのはわかってるつもりなんだけどね……黒は自分の髪の色として身近だし、ダンジョン探索の時もクエストの時も色々利点だってあるんだよ」
「利点ってなんです?」
「ダンジョンの中だと夜目を効く相手にも視認されづらくなって不意打ちが決まりやすいし、クエストの時は……」
そこで言い淀んでしまう、カラットにはあまり知られたくない私の一面だと気づいたから
「時はどうなんです?」
こちらの事情を知らないカラットは詰め寄る
「クエストの時は……返り血がね……目立ちにくい……」
言ってしまった……
「ロサちゃんらしい回答ですね」
カラットの反応は私の想像とは真逆といってもいいほどのものであった
「えっと……私らしいって?」
「ロサちゃんらしい効率と機能性を重視した理由だなって」
「カラットさんは私がクエストで返り血を浴びるような人間だと思ってるの?」
「でもそうですよね?」
「うん、そうだけど……」
「ちなみに、ロサちゃんはわたしにどんな反応が返ってくると思ってたんです?」
「えっと『ロサちゃんの初めての人の返り血はわたしじゃないんですか!?』とか?」
「うっかわいい……そうですね、ロサちゃんに浴びせられる返り血のこととか考えたことありませんでした。新たな視点をどうもありがとうございます」
「それで、私としては普通に流血沙汰にするような一面を持ってるって知られていないと思ってたのだけどそんなに私って雰囲気ある?」
今後のクエストに支障をきたさないようにするためここでカラットに聞いておこう
「黒いからですね」
「黒いからって?」
「ロサちゃん小柄なのにローブで顔を隠してるので不気味なんですよ、なんなら普通に腰にナイフを常に装備してるじゃないですか、それが暗殺者のような装いに見えてしまいまして……夜中にすれ違いざまに腹部を刺しそうって感じがして……」
ボロボロに批評された……私の装いって暗殺者だったの?
うん、決めた
「カラットさん今日は本気で服を選びに行くよ!」
「ロ、ロサちゃん?」
「流石に私だって傷つく、私だって普通で目立たない方が嬉しいし他人を無意味におびえさせる服装はいやだ」
「なるほど、私も微力ながらお手伝いしますよ!」
カラットさんが手を握ってくる暖かい
そうしてローブを着ずに私とカラットさんはレードとの待ち合わせ場所のギルド前に向かった
待ち合わせ場所にやってきたがレードはまだやってきてはいなかった
「レードさんはまだ来てないね」
「昨日は時間の指定はありませんでしたから探索に行く時と同じ時間にしたんですけどね……」
「しょうがないよ、気長に待とっか」
「邪魔になりそうですしギルドの隅っこで待ちましょうか」
「そうだね」
ギルドの中に入ると視線を浴びる、カラットの顔がかわいいからなのだが最近ではやっと慣れてきた
「いつも通り視線を感じますねー」
「カラットさんがかわいすぎるからだと思うけど……」
「え!?」
「どうしたのカラットさん急に驚いて……」
「ロサちゃんがわたしのことかわいいって言ってくれたんですよ!これが驚かずにいられますか!?」
「あれ、言ったことなかったっけ?」
「ありませんよ!?わたしロサちゃんにわたしの顔好かれてないんだろうなーってずっと思ってましたもん!」
カラットに釣られてか周りの声も普段より大きくなり始めた
「カラットさん!一旦落ち着いて、周りも騒がしくなったから隅っこに移ろう」
そうして私たちはそそくさと隅に移動し一息つく
「お二人とも今日は非番のはずですが、何かお困りごとでも?」
パルラさんが話しかけてきた
「今日はわたしとロサちゃんの服を買いに行こうってなったんですよ。それで待ち合わせ場所でここにレードちゃん待ちです」
「うっ羨ましい……私だってロサさんの全身の服を見繕いたいですけど……」
パルラさんがそのまま血がでるのではといいう勢いで唇をかんでいる、付き合いの長いこの人に今までの私の服について聞いておくべきだろうか?
「あの……パルラさん」
「はい?なんでしょうか」
「私のクエストの時の服装の印象ってどう思ってました?」
「かわいいと思いますけど?まさか……そこの女がロサちゃんのスタイルをやめろって言ったんですか?」
パルラさんはなぜこんなにカラットさんを目の敵にするんだろうか?私としては平和が一番なのだが
「いえ、ずっと黒一色だと威圧的な見た目になるんじゃないかと思いまして、そのための普段着が欲しかったのもあり……」
「服なら私からいくつか差し上げることできますけどどうです?」
確かに先日パルラさんの家で着させてもらったのは私の体型にピタッリだった。もらえるものならもらっておくべきだろうか
「あなたの体型だとロサちゃんにとってブカブカになるじゃないですか、何を言ってるんですか?」
それはそうだパルラさんの体型は私よりカラットさんのようにスラっとしてるどうして新品同様の私サイズの服が合ったのだろうか……
「いつかロサさんにお渡しできたらなと思い買ってあったやつですよ?」
想像してた返答から斜め上の答えを言われたため怖くなって思わずカラットの後ろに隠れてしまった
「えっと……いらないです……」
カラットが私をギュっと抱きしめる。彼女の包まれているとどういうわけか安心する
「というわけなんであきらめてください!見てくださいよわたしの中で縮こまるロサちゃん!良心の呵責とかないんですか?」
「かわいいですね」
「かわいいのはそうですけど!もう今日のところはお引き取りください!」
「そうですね私も仕事がありますし……ではお二人ともよき休日を」
「さっきまでの態度からすぐに仕事モードになるとはお役所仕事の人はすごいですね……ロサちゃんもう大丈夫ですよ」
私が立ち直るために少しの時間がかかった