ダンジョンの主と恋バナ?
少しの連絡事項を残して倒した探索者をギルドに運んでいってしまったロサを見送りながら私たちは途方に暮れていた
「えっとどうします?」
「私とカラットだけで見回りを続けるってこと?とりあえず歩きはするけど無理じゃないかしら」
「その心は?」
「だって、ね」
先ほどまで横並びだった私たちはいつの間にかカラットを先頭にして一列になって話していた
「まあ、そうですよね」
カラットも現状を理解してるため悲嘆に暮れている
私たち二人ということは話しかける人がいないのだ。どうしよう。
どっちかが話しかければいい。ただそれだけのことが出来ない、私たち人見知りは知らない人に声をかけるのは橋の上から真冬の川に飛び込むくらいの度胸が必要なことだ。そんな度胸を用意して話しかけるのは時間がかかりすぎる。そんな理由で無理なのだ
「他の人もいたから声かけはその人たち中心でよかったのに」
「ロサちゃんの善意がまさかここにきて我々を苦しめようとはぐぬぬ」
本来ならクエストに参加した人たちをできるだけ等分にして見回りに当たらせるらしいが、他の人たちが探索者になって数日の人間なのと私たちが人付き合いが苦手だからという理由で私たちだけ隔離され、残りはベテランであるローザさんが受け持ってるらしい。
「でも。やらなきゃよね」
「仕事ですからね……」
二人そろってため息が出てしまった
見回りもとい散歩から少し経った
「ねえ、何か雑談でもしない?」
「見回り中ですよ、私語は慎んだ方がいいのでは」
「私たちだけだと見回りしてるって威圧感もないし今更じゃない?」
私たちの服装を眺める
新米の探索者らしい装いだ。私の装備はそこらで買えたものだし、カラットにいたっては私服の上に丈の合わないローブを着てるだけだ。二人の装備の値段の合計より声かけすべき探索者の装備の方が値段が高そうなのは誰の目に見ても明らかだろう。と、疑問に思っていたことを思い出した
「そういえばさ、なんでそんなに丈の合わないローブを着てるの?」
「言ったことありませんでしたっけ?これロサちゃんのなんですよ」
何でもない様子で窃盗を公言しないでほしい
「え、あなた好きな人のものを公然と盗む人だったの?」
「盗んでませんよ!?これはとりあえずギルドには魔術師として登録しとくからそれっぽいもの身に着けてって言われて貸されたから着てるだけですからね!公認です!」
安心した。友人が人の道を逸れても法の道は逸れてなくてよかった
「よかった、ロサのことだから盗まれても服の一着くらいいいかで済ませそうと思ってたし……」
「流石にそれはないですよ。確かにこれと同じようなローブは何着もありましたし一着なくなっても気にしなそうですけど」
「ええ……」
頭が痛くなる。流石にそれは年頃の女性としてどうなんだ?もう少し見た目に気を付ける気はないのか?
「あれ、前も話してたけどカラットの服も全部拾い物なんだよね?」
「ええ、そうですけどそれが何か?」
カラットはローブの下の私服を確認する。カラットが美人だから似合ってるのであってそこらの人が着ていたら服の選びがよくないなと思ってしまうくらいにはひどい。カラットも服に関しては色々ダメなのだ
「あなたたちには服に関心がないの!?」
カラットは自分も服の選びがよくない側なのだと言われ驚いた表情を見せる
「えっと似合ってませんか?私としては手持ちの服では気に入っている方だったのですが……レードちゃん、わたしたちの服を買うの手伝ってくれません?」
「やる。絶対やる。二人とも元がいいんだから服がよければ絶対もっとよくなるって!」
というかそうしてみせる私の威厳にかけて
「それに、カラットの見た目がさらによくなればロサだって恋心を得るかもしれないじゃない」
そういうとカラットの足が止まった
「ロサちゃんが……わたしに?ちょっと想像がつきませんね……」
困惑もしくは想定していなかったといった反応だった。カラットがロサに好意を抱いているのだからその気持ちを双方向にしたいと思っていたのだが
「想像がつかないって、カラットは両想いになりたくないの?」
「わからないんです。あっ誤解しないでほしいのですがロサちゃんのことは好きです愛してます。それは紛れもなく」
普段の大げさにも見えるあふれんばかりの感情はなりをひそめ落ち着いた口調彼女は語り始める
「でも、彼女が私に恋をして、愛してくれる姿が、情景が未来が想像できないんですよね。本来、両想い恋が叶う、それは人生の中の幸福で1,2を争うことだと思います。だけど私はそれを想像すると心がモヤモヤしてしまう。未来を想像することに不安を感じてるわけではありません。何をしてもしなくても明日は来るということを他の人よりは肌で知っていますから。ただ、そう……私の隣に彼女が歩いてそして笑って日々を過ごしていくそれが想像できないんです」
「そうなんだ……」
気まずい雰囲気を作ってしまった
「あ!」
「なに!?びっくりしたぁ……」
「そもそも、わたし殺してもらうのが目標なのでありえもしないこと想像しても意味ないじゃないですか!」
「いや、別に両想いになって幸せに過ごした後殺してもらえばいいでしょ?」
幸せになって彼女のややこしい自殺を止められないかと思ったけど無理そうだ
「というか、わたしを殺すためのロサちゃんの感情が恋とか愛じゃない場合私死ねなくなるじゃないですか!」
「あれ?そうだっけ……いやそうだわ」
カラットの感情は愛らしいがロサが感情持つべき感情について私たちは何も知らないのだ
「ということはこれまでの会話ほとんど無駄だったのでは?」
「別に無駄ではないわよ、カラットの心を軽くするのも友人としては普通のことでしょ」
「なんだかそう言ってもらえると少しばかり照れくさいですね」
「それと一応得たことはあるでしょ」
「というと」
「ロサ側の感情が愛や恋じゃない場合もあるっていうこと。カラット側の感情がそっち方面だったから同じと思ったけど違う可能性も十分あるってことよ。」
「それ今さっきでた話じゃないですか……」
「というかカラット、あなたのその呪い後天的なものなんでしょ。なら、かけられた理由とかないわけ?そこから解呪方法もわかりそうだけど。そもそも死ななくなる呪いとか誰でもまずは自分にかけるものじゃない?」
そう聞くとカラットは困ったように眉をひそめた
「えっと……わからないです」
「わからないってことはないでしょ、呪いだとしてもそんな強力なものなんの準備もなしにできるものでもないし、呪うのだって遠くからなんてもってのほか超至近距離じゃないと無理そうだから少なくとも顔見知りではある相手なんだから」
「なんか呪いについて詳しくありません?」
「変なところは指摘しなくていいわ」
「あっはい」
14のころに呪いって響きがかっこいいと思って貸本屋で色々調べたおかげで詳しくなったとは言えない
「それで?実際呪いをかけられた瞬間とか覚えてないの?」
「覚えてないんですよね。ある日目が覚めたら自分は何かを失ってそれでその呪いを貰ってしまったぐらいの感覚を持ってたような気がします」
強力な呪いほど相手と密接であるのが条件なはずだ。それを覚えていないのはとても信じられない話だが彼女の瞳は噓をついてるようには見えなかった
「それじゃあ死ぬための条件ってどうやって知ったのよ」
「それはなんとなくとしか……いつの間にか確信がある情報として頭のなかにあったので……」
「それ信憑性ほとんどないじゃない……」
「あの……」
耳に覚えがある声がしたので私たちは振り返るそこにはギルドに向かっていたはずのロサがいた
「あれロサどうしたの帰ってくるには早いけど」
「途中で姐様にあったのでまとめて運んでもらうようお願いしたんですよ。それと二人ともこんな街中で殺すだの物騒なこと話し合わないでもらえます?私たちも探索者なんですから治安が悪そうな言葉は控えてください」
「えっと……どこまで聞いてました?」
カラットが顔を赤らめてそう尋ねる。さっきまでロサへの気持ちについて考えていたのだ実物に会うと恥ずかしさがあるのだろう
「なんの話です?今来たばかりなので発言の対象までは聞いてませんが物騒な話ですか?」
そうっ聞き終えるとカラットは安心した笑顔でいった
「いえいえわたしたちについてですなので物騒ではありません!ある意味素敵な話じゃないですか!」
「いや、それでも物騒じゃない?」
ロサはちょっと困惑した




