ダンジョンの主の人付き合い
おにぎりを売っている屋台につくと前に訪れたときと違い、屋台に看板が置かれておりメニューを確認できた。確かに鮭や卵といった見慣れた食材もあり私も味の想像がしやすいものが多かった。
「さっき話題にした鮭もよさそうだけど以外と馴染み深い具材も取り扱ってるのか……」
「そうなんですよ!そういうところがいいんですよね。あ、店主さんいつもの二つと鮭のおにぎり二つください」
私がメニューを眺めているうちにカラットが慣れた手つきで注文を済ませて私の分のおにぎりも買い渡してきた。
「はい、ロサちゃんの分も買っときましたよ」
「ありがとう。それにしてもカラットさんも買い物に慣れたよね。最初のころは私と一緒じゃないと知らない人と話すの嫌がってたのに」
「わたしのこと4歳児かなにかだと思ってます?これでもロサちゃんよりずっと長く生きてるのでお姉さんなんですよ」
「カラットさんって別に年上って気がしないよね……レードさんの方がまだ大人びているというか」
「あの、もしかして今日一緒についてきたのってわたしが一人で買い物もできないような人間だと思ってたからですか?」
恐る恐るといった表情でしてきた質問は返答に困った。正しくあの時の感情を表現できないが、ただ一人で部屋にいるのがなんとなく嫌だっただけで、それを正直に話すのもどこか気恥ずかしいのでごまかすことにした。
「そうだよ。カラットさんまだ人間社会10日も経ってないでしょ?なら人との接し方は子どもと変わらないよ。それにカラットさん私のこと好きでしょ。なら一緒の時間は多い方がいいんじゃない?」
そうして彼女に少し近づく、カラットは何か言いたそうにしたが呑み込んだらしく「では、ギルドで待ってますね」と言い残して早足でギルドに向かってしまった
「好きな人とは一緒にいたいと思うのは普通なはずなのに何か間違ったかな」
私に誰かを好きになる経験がないので何とも言えないが、街を眺めれば愛し合うものどおしの距離感はそれ以外の関係性に比べて近いのは確かだと思う。好きという単語でそういえばと思い出す。
「カラットとの初対面時に私に好きな人がいるって言ったの訂正し忘れたな……」
そんな人間は私の前にまだ現れたことがない。全滅前のパーティーにその手の話が好きな女の子がいたから色々聞いていたが所謂告白というのは愛し合う男女ではない限り断る場合が多くその文言も定型化されているらしく、私がカラットを最初?に断ったのもその定型文の一つらしい
「それにしても好きじゃないから交際はできないって謎だ」
人間の印象は好き嫌い以外にもどちらとも言えないもあるはずで、それは好き嫌いよりも多くの場合で使う表現だ。それを切り捨てるのなら真に愛し合う男女なんてものはほんとにいるのだろうか……
好きについて考えながら着替えのために一旦部屋に戻ってきた私は、玄関の扉の前で行ったり来たりしているレードを発見した
「あれ、レードさんなんでここに?集合は普段通りギルドのはずだけど……」
疑問に思いながら彼女に近づくとあちらも気が付いたようで挨拶をしてきた。
「あ。ロサおはよう」
「おはようございますレードさん。どうしてこちらに?」
「普段はロサが起こしているって聞いてたし、ロサがいないなら寝坊するんじゃって思ったから来ただけ」
「カラットさんならちゃんと起きてもうギルドに向かってましたよ」
「あ。そうなんだ、なら私もギルドに行くね」
「せっかく来てくださったんですし一緒に行きませんか?ちょっと着替えてくるので部屋の中で待っててください」
「え。あ、はい」
少し強引に誘ってしまったがカラットも一人で話すのが苦手らしいし、人見知りのレードになにかアドバイスでも聞いてみよう




