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5 子爵様、ヒーラーを確保しろと怒鳴る
「さっさと捕まえてこいっ!」
子爵は執事に怒鳴っていた
それは当然のことであった
なにせどんな傷でも治せると評判のヒーラーが自分の町に来ているのだ
それもギルドへの不満を盛大に垂れ流しながら、である
その不満がいつ子爵の方に向くかと思うと不安で仕方がなかった
いや絶対に向くだろう
そんな確信があった
なにせこの町には他の貴族の息のかかった人間がいるのだ
商人しかり、旅人しかり
いやヒーラー本人の気まぐれというのもありえる
なにせ市場でキャベツをそのまま齧っていたそうだ
世の中すべてのことに不満なことだろう
そしてさしずめ強大な力を持つギルドや貴族にその矛先が向くのは時間の問題だろう
そう考えるだけで眩暈がしてきた
「すぐにでも引っ張ってこい!」
と怒鳴ったのも当然であった
・・・最悪な事態を想像すると案外そうなるものだというテンプレが発生するのはこの後の話