13 閑話 盲腸の治療
「魔女の呪いだ!」
そう言って患者がギルドに運び込まれてきました
ギルド内は一瞬シーンとなりましたね
魔女の呪いというのはヒールでも治らない病気ですからね
ある日突然右の脇腹が痛み出します
そして痛みが段々酷くなり数日後には苦しみ抜いて死ぬ
それが魔女の呪いと呼ばれる病気です
ヒールも薬も効かないので死亡率100%
そりゃギルドが静かになるってものです
ご愁傷様
そう言う事ですね
もっともそれは他のギルドやヒーラーの話です
前世の記憶持ちの私は違います
十分に治る病気です
ギルド長がすかさず叫びます
「奥の部屋へ運べ!」
そして私とギルド長の腹心の部下二名が呼ばれます
私が魔女の呪いを治療できるのはギルド上層部だけの秘密ですからね
絶対に秘密を洩らさない腹心しか立ち会わせません
まあ腹を裂いて悪い所を切り出してヒールする訳ですからね
他の人間には見せられません
一発で異端者扱いされるか、気ちがい扱いでしょうから
もっともそれによって命が救われるとなればハイリスクを犯す価値があります
特に貴族とか、ですね
とにかく何をやっても良いから命さえ助けろ
権力者の言い分はいつの時代も同じです
そしてギルド長は貴族様に悪魔の囁きをする訳です
助けられますが如何します?
もちろん貴族様はイチコロです
かくしてギルド長の人脈というか貴族への貸しは増えていき権力が増す訳です
もっともいつも助けられる訳ではありません
だって私の前世は医者ではないのですから
どこかの漫画とか、それをドラマ化した場合は
『元医者だったから』
って設定でなんとかなります
まあ所詮は作り話ですからね
ところが実際に異世界に転生して手術をする場合、大変でしたよ
なにせメスすらないのです
最初は小刀で腹を裂いていたのですがもう大変でした
それにいくらポイズンスパイダーの毒で麻痺しているからと言って素人が腹を裂いて盲腸を見つけられるかというと無理でした
時間ばかり掛かってしまいましたね
まあ私とギルド長と腹心二名がああだこうだ言いながら最後には盲腸を見つけましたけどね
終わった時には汗だくでした
ドラマで「汗」とか言って看護師に拭かせる意味がようやく解りましたね
え?
最初はどうだったか?
ですか
もちろんギルド長が無理強いしてきましたよ
なにせ知り合いの貴族のボンボンが患者でしたからね
「何としても治せ」
とお貴族様に脅されてギルド長は真っ青でしたね
そしてそのしわ寄せが私にきました
「なんとしても治せ」
だから言ってやりました
「目に見えないところにヒールするのは無理です」
大嘘ですね
盲腸は切るしかないですからね
ギルド長に開腹させて盲腸を切り取らせ、その後にヒールしようという訳ですよ
もっともそのまま言っても信じて貰えないでしょう
ですから適当なことを言って開腹させました
そして
「魔女の呪いはどこでしょう?」
と言って盲腸を探しました
そしてすったもんだの末盲腸を見つけました
本当に大変でしたよ
内臓なんてどれも同じ色ですからね
盲腸も大腸も小腸も脂肪も腹膜もすべて同じ色
よく盲腸を探し出せたものだと思います
まあ盲腸を見つけてからは早かったですね
「呪いを切り取りましょう」
と言って盲腸を切りました
そしてヒールです
盲腸を切り取ったところも、開腹したところも一瞬で治りましたね
と言う訳で盲腸、もとい魔女の呪いは死ぬ病気ではなくなりました
とはいえ一度成功したからと言って次も成功するかの保証はありません
という訳で平民や冒険者に魔女の呪いが出る度にギルド長は権力を使って運びこませます
そして人体実験です
「小刀ではなく小さく切りやすい刃物の方が良いのでは?」
と言ってメスを作って貰いました
「戦場では傷口にお酒を吹きかけると治りが早くなるとか?」
と言って消毒用に強めのお酒を用意して貰えるようにしました
あとは一度開いたお腹というのは元に戻ろうという力が働きます
ですから傷口を広げる器具を作って貰いました
もちろん全員が助かったと言う訳ではありません
当然のことながら悪化しすぎて治療の途中で盲腸が破裂して死んでしまう人だっています
あ、あと、出血多量というのもありましたね
なにせ輸血できないですからね
そんな時はギルド長の出番です
治療したが間に合わなかった
そう言うとともに権力を使って遺族たちを黙らせました
・・・権力って素晴らしいですね