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11 閑話 葬式

「あああああっ、なぜあの子が死ななければならなかったの!」


雨が降る中行われた葬式で、貴族の夫人が黒のベール越しに嘆きの声を上げていた





夫人を抱えるように抱く夫


その胸に縋るように倒れ込む夫人


親族がその周りを囲んでいるが誰も声を上げることはなかった





事の起こりはありふれた腹痛だった


「お腹が痛い」


子供がそう言って右側のお腹を押さえていた




この世界、治癒魔法があり、大抵のことは治る


もっともそれなりのお金が必要になるので貴族や裕福な平民に限れば、の話である




それに近年、辺境の町でなんでも治す治癒魔法使いが現れた


ギルドに所属していて、誰でも利用できるという優れもの


もっとも人気があり過ぎて順番待ちという欠点がある


まあ貴族であればそれなりの融通が利くので問題はない




ここまで来たら子供の腹痛程度は何の問題もないはずであった


件のギルドが治癒魔法使いをこき使った上に、上前を撥ねなければ、の話である


そして逃げ出した後でなければ、の話でもあった





子供が痛いと言ったのでまずは領内のギルドに治癒魔法使いによる治療を依頼した


それでなんとかなるはずだった


だがなぜだか治癒魔法は効かなかった




いや最初は効くのである


治癒魔法を使うと痛みが消えた


ホッとしたのもつかの間、すぐに痛み出した






「一体どうなっているんだ」


もちろん貴族の父親は治癒魔法使いに文句を言って責めた




「わ、判りません・・・」


治癒魔法使いも判っていなかった




とにかく痛み出したら治癒魔法


それで今までなんとかなってきたのだ




手や足の骨折だとか、お腹の傷跡だとか、の話である


もちろんお腹が痛いという患者を治癒魔法で何度も治したこともあった


その時はどれも一度の治癒魔法を使っただけで完治した


そして感謝された




それなのになぜ今回は治癒魔法が効かないのか?


治癒魔法使いにも判らなかった




だからと言ってそれが許される訳はない


なにせ子供の命が懸かっているのだ


・・・腹痛で命というのは言い過ぎであるが親にとって子供とはそういうものである





という訳で治癒魔法使いを通り越してギルドに文句が行った




ギルドだって文句を言われて困った


治癒魔法で治せないなんてありえないからである




ギルドもメンツがあるので他の町のギルドやギルド本部、はてはギルドメンバー同士の私的な交友関係を使った情報交換が行われた


その結果判ったことがあった





たまに治癒魔法が効かない腹痛がある


そして辺境の町のギルドの治癒魔法使いだけが治療できる




もちろんギルドは即行で貴族に教えた


厄介事は他のギルドに押し付けてやれ


そういう気持ちがあったのは否めない


なにせ判るまで貴族から責め捲られたのだ


もういい加減にしてくれ


そう思うのも当然である




まあ当事者の貴族にバレたら報復は間違いなしであるのだが・・・




幸いなことに貴族は子供の事で頭が一杯だったのでそこには気が付かなかった




早馬が仕立てられ、辺境の町に伝令が駆けて行った


もっともその時、件の治癒魔法使いはすでにギルドを辞めていて行方不明であった。





・・・伝令はそれを聞いて途方に暮れたのは別の話




しかし伝令は優秀であった


言われたことだけをするような無能ではなかったのがよかったのか悪かったのか


すぐさま町を支配する男爵家に駆け込んだのだ



そしてすぐさま協力を取り付け治癒魔法使いが隣町にいることを探し出した






やれやれ


これで一安心


そう思って伝令が再び途方に暮れるのもこれまた別の話




すったもんだの末に隣町の子爵家に滞在していた治癒魔法使いに会い、治療を頼んだところ速攻で拒否された


そこで下がっては坊ちゃんの命が危ない


という訳で伝令は頑張った





懇願し、脅し、同情を買い、報復の手伝いをすることを誓いと、いろいろ手を尽くした


そして全滅した





もちろん伝令は一人で頑張ったのではない


雇い主である伯爵様に事あるごとに手紙を書いていた


その結果伯爵様本人は来れないが、全権代理人ともいえる親族や執事など口が上手い人材を次々に投入することとなった



そして伝令と同じように全滅した



治癒魔法使いが頑ななだけに時だけが過ぎていくことになった


そして病にとって時は敵である


結果として坊ちゃんは痛みに苦しみぬいた末に亡くなった




そして葬式が行われた


それが冒頭である




かくしてギルドに恨みのある貴族が誕生し、そして一人息子を亡くした両親からの報復は熾烈なものとなった



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[一言] 手段の2手目が脅しの時点でアウトじゃろw
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