見習い魔女さん、結局寝てない
早朝。
あれからハルピィは一睡もせずに、ライトの魔法で作り出した明かりを頼りに、本に齧りついて読み進めた。
「なるほど。
鳥類の中には哺乳類のように、乳で子育てする種もいる。
だけどその生まれは卵生。このことから鳥類は哺乳類よりも、爬虫類に近く、またそれ等と祖を等しくすると考えられていると。
と言うことは、私のこの姿も先祖返りとして考えれば、ある意味理にかなっている…と。
理…と言っても問題ないのかしら」
どうも思考がふんわりとして、考えが上手く纏まらない。
気を緩めると、ライトの効果も霧散してしまいそう。
ふと顔を上げ、ガラス窓の外に目を向ける。
山の向こうに日の出を見付け、ハルピィは欠伸を噛み殺す。
「もう、あふぁ。
あー。
いつの間にか関係ないことまで調べてた…」
言って、本を閉じ、机に置いた。
ぼんやりと外を眺め、息を吐き出した。
そうしてしばらく。
「私、男だったのね…」
ぽつり呟き、腕を枕に机へ伏せる。
「まあ、事実が明らかになったからって、昨日までの過去が無かったことになるわけでなし。
男か女かなんて些細な問題でしかないんだけど。
むしろこれまで誰にも気付かれなかったってことは、私は女の子として生きるほうが性に合ってるっていう何よりの証明じゃない。
まあ?母さんには何かしら気付きがあったからこそ、図鑑を読んだのかもしれませんけど。親と張り合っても仕方ないし。
それに、じゃあ仕方ない。今日から男として生きます。髪も短く切って、服も全部買い直します。なんて思い切りよく言い出せるほうが頭どうかしてんのよ」
最後に大きくため息をつき沈黙。
その時。まるでハルピィの謎語りに同意するかのように、お腹が『きゅー』と可愛らしく鳴いた。
「うう。
そういえば、昨日は結局何も食べずじまいだったっけ。
昨日のオムライス、まだあるかな」
「だけど寝る前に食べるのは、ね。
はあ…でも食べずには寝れそうにないし、背に腹は代えられないか。
脂肪がつくなら背やお腹じゃなくて胸に…って、なんの話をしてるんだろ。
ほんともう、寝ないと…。
まあ、一皿まるごとは問題だけど、一口、二口つまむくらいなら…いいよね」
立ち上がり、フラフラとした足取りで歩き出す。
茶の間へ向かおうと、扉を押し開いて部屋の外に出た。
すると部屋を出てすぐ左。足元にバスケットが置かれていた。
「何これ」と、上に被さるハンカチを取って中を覗くと、その中には可愛らしいお弁当箱がひとつ。
蓋を開けると、中身はオムライスだった。
「…なんだかなぁ。こうまで用意周到にされると、誘導されてる気さえするの」
ハルピィはバスケットを手に部屋に戻る。
そうして食事を摂り、陽が昇りきる前に、ベッドに潜り込んだ。
まぶたを閉じてから、寝息が立つまでに、そう時間は必要としなかった。