見習い魔女さん、男である可能性を示唆される
見習い魔女のハルピィは、人の身に爬虫類と鳥類の特徴を、わずか併せ持つ。ほぼ人にしか見えない亜人である。
この日昼頃。ハルピィは師でもある母に、薬用植物の採取を命じられ、その帰りは夕暮れ時になった。
森の中にぽつんと立つ、お化け屋敷然とした家の扉を開き、外よりも暗い家の中へ一歩を踏み入れる。
入ってすぐ。
左右の壁に備えつけられたロウソクがともり、ぼんやりとした光の中、床で何かが動いた。
「ただいま、母さん」
言ってハルピィは下に目を向ける。
その視線の先には座り込む一匹の黒猫。
黒猫は頭を持ち上げ、ハルピィの右手に目を向け口を開く。
「お帰りなさい。ハルピィ。
立派なマンドラゴラね」
「うん。
でもね、ごめん。大物は収穫出来たけど、頼まれたものの中で、オトメーの花の蜜だけは、どうして手に入らなかったの」
「それは、あればいいなくらいに書いたものだから、あまり気にしないでいいわ」
「え?うん」
時に厳しく、時に気儘な母のことだから、何かしら小声があると覚悟していたハルピィは、肩すかしをくらう。
「それよりも。それらは私が片付けておくから、あなたは手を洗ってらっしゃいな。すぐに夕ご飯にするわ」
「あ、うん」
「なあに?そんなところに突っ立って。早くなさいな」
「う、うん」
ハルピィは照明の魔法を唱え、ブーツのまま家に上がる。
灯りを伴い、廊下を進んで、中程へと進む。
そこで左手に曲がり、洗面所へと入ると手洗い、うがいを済ませた。
カゴの中から手ぬぐいを一枚取り、それを水に濡らして絞り、頬と首筋と。体についた汚れを簡単に拭う。
そうこう身だしなみを整える内に、卵が焼ける甘い香りが漂い、ハルピィの鼻をくすぐる。
「できたわよー」
と、洗面所に置かれたコップより、母の呼ぶ声が聞こえ、ハルピィの背がピンと伸びた。
口に見立てられるものに、自分の言葉を語らせる。通知の魔法だったか。
まったく。心臓に悪い。
ハルピィは苦い顔で、茶の間へ向かう。
◇
入ってすぐ。テーブルにドンと置かれた、大盛りのオムライスが目に飛び込む。
ハルピィは好物を前に目を輝かせ、足早にテーブルに進む。
……のだが、その歩みは席につく手前でピタリと止まる。
「どうしたの」
と母が問う。
見ればニヤニヤと笑っている(ように見える)。
「いや、どうしたのって、これ」
ハルピィは母を見おろしオムライスを指で差す。
それにはケチャップで『孫の顔が見たい』との、メッセージが書かれていた。
「ノリよノリ」と母。
「それは、でしょうね」とハルピィ。イスを引き、これに座る。
「まあ孫の顔が見たいのはホントだけどね〜」
「気が早いって。私みたいな子供に嫁の貰い手なんてないでしょ」
「ああ…そのことなんだけど」
「何?どうかしたの。もしかして私、嫁に出されるの?」
「いや、ね。そういうことでなく。面白い話でもないんだけど」
「何よ、もったいぶって」
「まあいいわね、こんなつまらない話。忘れてちょうだい」
「話しておいて。気になるじゃない」
「いやー。まあ、うん。
お母さんね。
生き物はみんな、ち◯ち◯の有る無しで男女の判別をするものと思ってたのよ」
「…ご飯時に何を言っているの?」
「まあそういう反応になるわよね。だからこの話は、やめときましょう」
「いや、途中で止められても困るんだけど」
「あんたも私に似て、難儀な性格してるわね。
えっとね。あなたが生まれた時、ち◯ち◯が無かったから女の子だと思ったんだけど、鳥って種類にもよるみたいだけど、ち◯ち◯が無いみたいなのよ。
それで、爬虫類のち◯ち◯は、どうも内側に隠れてるらしくて。
書斎の机の上に、鳥類や爬虫類の図鑑だとかが置いてあるから、それを一通り読んでみるといいわ」
「聞いたのは私だけど、ち◯ち◯、ち◯ち◯連呼しないでよ!
うぅ…もう、ご飯って気分でもなくなっちゃったし、今日はもう寝る。
おやすみなさい!」
そう言って立ち上がると、茶の間を後に。自室に直行……するかと思えば、母の書斎の前で立ち止まり、目を左右に泳がせる。
迷うこと数分。ハルピィは書斎に入った。
「えっと…机に。鳥と爬虫の本は。
なんだか関係ない本まで置いてあるけど、これかしら」
机の上に置かれた数冊の本を抱え。ハルピィは自室に戻る。