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ぶっ、殺す(迫真)


「『初心者狩り』ゾゾノア・ゾゾ」

 

「アウトォ!!!」



 凄いね。この数秒間自分の良いこと一つも言ってないぞこの剣士。だからBANされたんだよね。

 背中どころか全身恥だらけのテメエが、かの人気作品を愚弄してんじゃねーよ。



「俺は正当な読者。お前を殺す」



 戸を蹴破り薙刀を振り下ろした。悲しいかな、本職のプレイヤーキラーに反応速度で勝てるはずもなく、あっさりかわされ蹴り飛ばされる。クソが。間に合わなかった。



SAN(サン)刀流……」



 ゾゾは地を舐める俺を嘲笑うかのようにジャンプモーションを繰り出す。


 そこから即座に反転空後を入れてメニューを開く。インベントリから取り出すのは木の板と扉。それらが地面に落ちるよりも先に、全身を使って刀を振り下ろす。斬り落としモーションだ。刃の先が扉アイテムに当たる。


 すると何故か扉が水平方向へとブッ飛ぶのである。

 それに追随して未だ空中に滞在する木の板を足場に壁キック、扉のノブに手をかけるとメニュー連打することで意図的にラグを発生。反転後ろ回避を割り込み入力すれば、あら不思議、扉の間に挟まって超高速反復横跳び状態になる。


 準備完了です。この意味不明な工程を経てバグが発生する。周囲のポリゴン処理がゾゾの動作速度に耐えきれず、ガクつきはじめる。


 1秒、2秒、3秒。3.5秒ぐらいでラグは修復し、俺たちは正常な動きを取り戻す。ここが分け目。



「【バグ斬り】ッ!!」



 ゾゾの身体が真っ二つに割れて、そこから分裂した。

 きっしょいバグ技の成功である。プラナリアかな?



「うわぁなんだこれぇ!?うえぇぇ!?」



 テクスチャがガビガビにブレた全く同じ顔のプレイヤーが肩組んで並ぶ光景にクッコロは冒涜的なものを覚えることだろう。ドン引きしていた。


 

「オレが二人いれば強さは2倍!!」

「オレが二人いれば力も2倍!!」

「「2倍カケル2倍!!あわせて22倍だ!!」」



 クソバカじゃん。分裂してIQまで二分の一になったのかな?

 とはいえ厄介なのは事実だ、ゾゾAとゾゾBはそれぞれが全く別の動きをしながら襲いかかってくる。


 一体どういう脳みそをしてるんだろうか。二つが連動するならわかるが同時に別々で動かすとかキモすぎるだろ。

 やはりコイツもケダモノの類か。生かしてはおけんな。


 迫り来るゾゾAに薙刀を振り下ろす。全然当たらない。反撃1発で切り伏せられた。俺は弱かった。


 ……その場リスポーンするんですけども。



「ゾゾA!!オレが背後を取る!!注意を引きやがれッ!!」

「っしゃあ!!クッコロちゃぁーん!!こんにちワ!!」


「きゃっ!!」



 大ぶり。刀をちらつかせ、ゾゾAが牽制する。クッコロは回避に手一杯。

 その間に裏手を取ったゾゾBが囲い込む。単純に2対1。そうじゃなくとも対人慣れしてるゾゾは手強い。勝てる見込みは限りなく低い。



「ぐへへー、大人しく投降するなら今のうちだぜェー!!」

「無限リスキルを味わいたくなけりゃ、お縄にかかるこったなァ?」


「くっ……」



 クッコロは苦しそうな顔をした。

 どちらにせよ、勝負アリだ。こっから続くのがリスキルによるいじめなのか、即刻拉致して連れてかれるのかは知らんが、村に損害だけは出さないでいただきたいね。


 俺はゆっくりと立ち上がり、村人の安否確認でも……。



「「オイオイ、そりゃァ勝負するッてことかい?」」


「……はい。私は大人しく連れていかれるつもりはありません!!抵抗します。最後まで!!」



 クッコロは刀を構えていた。強がりな性格だねぇと思った。

 だがやはりよくない。よくないぞクラリア・ツェーテ・コロッサス。それはゾゾが興奮してテンション上がるだけだ。気分が高まれば動きも速くなる。敵に塩を送る行為と同然。



「じゃあ」

「遠慮なく」

「「イかせてもらうぜェェェ!!」」



 ゾゾAとゾゾBの踏み込みは同時、しかしその太刀筋は角度にアクセントをつけ、左右どちらに避けようが、どちらか一方が必ず当たるように仕向けられる。

 抜け目ない、本気の攻撃。一度命を取られればその先に待つのはひたすら粘着して嫌がらせするリスポーンキル。


 俺は身に染みて知っている。リスキルされまくったとき、どれだけ最悪な思いをするか。

 出待ちして殺す。ひとつ歩いたら殺す。目が覚めた瞬間に殺す。キル、キル、キル。ひたすらに狩られ続け、貴重ゲーム体験の時間を無駄にし、萎え落ちの先までしつこくやってくる悪夢のような所業ッ!!本当なんなんだよ!!俺が戦闘下手ってわかった途端に煽り散らしやがって!!



「仕方ない」



 どうしようもない新人だ。経緯はどうあれもうこの村に入って仲間になった。同志を捨てたとあっちゃNPCからの好感度下がる。面倒くさいな。



「今助ける。リスポーン地点の防衛を……はぁ?」

 


 しかし、俺の救いの手は不要であった。それを今1秒で理解させられた。

 すとん。という音が地面に転がる。刹那の光景。俺は自分の目を疑ったよ。


 本当に言っているのか?と。そんな感想が思わず飛び出してしまうくらいに。衝撃的。



「「う……げぇ……」」



 なんと襲い掛かったはずのゾゾAとBの首が先に跳ね飛ばされて死んだのだ。



「ふぅっ!!斬り捨て御免!!」



 最後にそこに立っていたのはクラリア・ツェーテ・コロッサス。間違いなく、ただ一人。つい先日出会った無垢な少女ひとりだけが立っていた。


 しかし何故だ。どういうことだ。何が起こったんだ?

 今の居合一瞬、修羅の如く強壮を感じさせられたのは気のせいじゃないというのか……?



「……見間違いかな?今、双方行に同時カウンター決めてた気がするんだけど」



 そう聞くと、彼女は首を傾げて答えた。



「そうなのか??よくわからないが、ま、私、これでも腕前には自信があるんだぞ??どうだ??勝ってやった」



 笑顔で袖をまくり、腕をぐいっと、ぷにぷにの力こぶをみせてきた。

 それから子供みたいなドヤ顔でこう言うのだ。



「剣を素早く振るコツはな、脇をしめて、腰の捻り、身体のバネをイメージするんだ。あとは動きのムラを無くす意識。こうっ!!こうっ!!いやあ、別ゲーで鍛えた経験が活きた!!」



 だってさ。


 なんだコイツ!?フィジカルゴリラじゃねえか!!

 バグワザを素のプレイヤースキルで上回るな!!あまりにもパワープレイ過ぎるっ !!?



「はぇぇ……」



 なんとクッコロ殿はゾゾをいとも容易く返り討ちにしました。夢でも見てるのかな。

 とんだ詐欺ですよ。要護衛のぴよぴよ漬物石ちゃんかと思ったら一騎当千の戦将に化けるダイヤの原石だったなんて。


 妖精って何?くっころ騎士じゃないの?っていうかその素振りはなんだ。スイングが早すぎる。「こうっ、こうっ」じゃないんだよ。剣先が見えねえよ。



「お強いですね」


「ありがとうございます!!」



 人は見かけによらないんだなぁ、と思った。


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