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『初心者狩り』



 藁のお家がある。三匹の子豚なら序盤で吹き飛ばされる雑魚家である。

 ここには枕と寝床がセットになったエリアが存在し、プレイヤーはリスポーン地点とすることができる。

 ああ、リスポーン地点とはプレイヤーが死んだ時に復活する場所という意味だ。ゲームをしてないと聞き馴染みがないかもしれない。



「おはよう」


「あぁぁっ!!?私死んだ?殺されたのか?村人たちに??」


「ここのNPCの本能なんだ。ごめんね」



 俺はクッコロに謝った。

 コレばっかりは仕方ない。俺はね、NPCを御せないんだよ。

 ただ彼らからの好感度が高く、鉄火場での作戦指揮をしてこの大所帯に至るまでを導いたから若様と言われているだけ。

 NPCたちの理性と本能とそのサガを決定づけるのは環境と遺伝子(という名のゲームの内部設定)だけなんだ。 



「俺も止めたいけど、アイツらの感情を抑制しすぎれば、謀反が起きるからできない」


「うぅぅ……」


「どうする?ゴロゴロする?」


「うぐっ……しっ……します」



 クッコロは泣きながら鍬を持った。




「けどっ……でもっ……ぐずっ。なんか納得いかない……なんでこれがバグじゃないのぉ……?」



 クッコロも案外意固地だね。納得いかないことはとことん首を傾げて見せる性格らしい。

 でも大事なことだと思った。挙動おかしいのは事実だし、仕様とグリッジ悪用との線引きは俺もキッチリしていきたい。


 曖昧にすれば、俺はバグを悪用する違反者どもと同じステージに立ってしまうからだ。それでは胸を張って表に戻れないからだ。




「まあ、ゴロゴロ農法が傍目から見てキモいのも共感するよ」


「だよなぁ!!」



 と、いいつつ、俺とクッコロはゴロゴロしはじめた。



「だけど、本物のバグって、やつを見たら。そうも言えなくなるよ」


「そう、なのか?」


「そうだよ。このゲームのバグは、もっとこう────」



 派手にキモいよ。

 そう、言おうとした瞬間、異様な気配を感じとった。俺は咄嗟に武器を出して振り向く。



「なんだァ?お二人さん、バグワザの話してんのか?だったらオレも混ぜてくれよ」



 そこには、黒装束に長い刀を三本携えた青年が立っていた。まずいね。コイツは"プレイヤー"だ。

 彼は飄々とした態度で柄の部分を撫でたかと思えば薄ら笑いを浮かべる。

 畜生が。侵入を許した。


 ここはアカウントBAN対象者がぶち込まれる隔離サーバー。故にプレイヤーというだけで、それは全て等しく犯罪者であるという証明になる。

 厄災が、今目の前にいるということ。



「何しにきた」


「怖いねえ。そうカッカすんなよタヒ君。オレとお前の間柄だろう?」


「顔見知りの他人だね」


「つれねェなぁ」



 奴はわざとらしくしょぼくれた。その間に俺は周囲にいる村人NPCにハンドサインで撤退を促す。危険信号だ、場合によっては"切り札"を使うことも辞さない。



「要件だけ言え」



 俺は短くそう告げる。けれどこのクソ剣士はダラダラとくっちゃべり始めた。



「いやね?表サーバー(シャバ)のダチからタレ込みがあってよォ?とある有名配信者がやらかして、垢BANされたってね?ウチらその情報聞いて、捜索隊を出したワケ。『近いうちに大物がくるぜこりゃ』ってんでなァ?」



 剣士は首を傾げて手を上げる。



「そしたらどうよ?全然ソイツが見つかんねェの。どこ探しても、もぬけの殻。神隠しにあったのかってぐらいまるで手がかりナシ。クゥゥゥッ、参ったねえ」



 鼻をこすって、すんすんと嗅ぐふりをする。



「だが、オレの猟犬の嗅覚がこう言ったんだ。『ここ掘れワンワン!!あの村が怪しいワン!!』ほーう?どれどれ。オレちゃん刀を担いで向かってみたの。そしたら……」



 コツっ、と舌を鳴らす。



「BINGOッ。二人でしっぽりヤッてんじゃないのぉ!!どうするよコレェ?見る奴がが見たら嫉妬でブチ切れ案件だぜオイ!!」

 


 剣士は血相変えて抜刀し、殺意をたぎらせた。



「おいタヒてめぇ、新規プレイヤーの占領は条約違反だぜ?説明してもらおうか」



 なんだそのアホみたいな条約は。とか思いつつ俺は右肩を上げて、下げた。



「無防備な新規プレイヤーがいじめられないよう保護した。最近、隣にチーターが沸いていたから」


「そうか。わかった。死ね」


「なっ────」



 その瞬間飛んできた刃が俺の喉元を切り裂いて首が跳ね飛んだ。

 俺は死んだ。


 ……いや、まあ、すぐに自宅から復活するんですけどね。俺はドアを開けて、さっきの場所に戻ろうとした。



「せいっ」


「あはん」



 俺は腹を真っ二つに切り裂かれて死んだ。


 数秒ですぐに復活する。全く、なんて無礼な奴なんだ。人の村に土足で踏み込んどいて、人を2回も殺すなんてどうかしてる。

 報復しなければと、俺は薙刀を携えてドアを開けた。



「ういっ」


「あはん」



 頭をかち割られて死んだ。


 数秒後に復活する。このゲームデスペナ少ないけど蓄積すると割と重いんだよね。

 俺は戸を……開けることなく、壁越しのまま声を上げた。



「リスキルするな」


「ギャハハハハハッ!!!」



 奴は満足げに笑った。コイツ本当に嫌いだわ。格下を延々斬り続けるのはそんなに楽しいかね。歪んでる。人間性を疑う。垢BANされてなお反省の色を見せない外道め。



「オレの要件は一つよ。クッコロちゃんを引き取りに来た。それだけのコトさ」


「じゃあ人を殺して遊ぶ必要ないよな、石を投げられる覚悟はいいか」


「怒んなってぇ、今のはちょっとした戯れ合いじゃねェか、なぁ?」



 なあ、じゃねえんだよ。鬱陶しいわハゲカスが。死ね。クソ食って死ね。死んで畑の土壌になれ。村人たちの肥やしになって引退しろ。



「つーわけでクッコロちゃん、オレについてきてくれな?安心しろ、取って食うわけじゃあねんだからァ」



 そう言って奴はクッコロを誘う。連れ去る気だろう。俺としてはこの女の所在なんぞどうでもいい。が、事はそう、うまく運ばないらしい。

 誘いに反発したのはクラリア・ツェーテ・コロッサスその人だった。



「断る!!お前みたいな見るからに怪しい人にはついていかないっ!!」


「参ったなァ?そういうワケいかねんだけど」


「そっちの事情なんて知るもんか!!大体お前誰だよ!?挨拶もせずに村に勝手に入って、NPCのみんなが怖がってるじゃないかっ!!」



 木造の隙間から様子を見る。クッコロがふんす、と腰に手を当て指を刺す。



「名前を名乗れっ!!話はそれからだっ!!」



 強いね。コイツ相手に物怖じしないとは。とてもとても……悪い事だね。最悪だよ。


 下手な強がりは嗜虐心を煽る。分不相応な癖に粋がる相手を泣かせたくなるというのがコイツの信条。酷くない?同じ人間として恥ずかしいよ。でもそれが真実。

 二つ名を聞けば納得するだろう。ああコイツそういう奴なんだと。


 黒の剣士は大笑いの末に、自らの名を……名乗り口上を述べた。



「罪状、『過度なプレイヤーキル、及び不特定多数に対する粘着行為、そして複数回にわたる悪質なバグを利用したグリッジ行為』」



 黒いバンダナを頭に締める。








「『初心者狩り』ゾゾノア・ゾゾ」

 

「アウトォ!!!」


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