この村はおかしいよ!!
かの童話、ジャックと豆の木にて、ジャックは非力な人間ながら、豆の木を切り倒し、その上にいた巨人ごと討伐したという。
はるか格上の相手を格下がひっくり返す大番狂わせ。即ちジャイアントキリング。
ところでこの隔離サーバーにはチーターという豆と巨人の合体キメラが闊歩し山を破壊している。巨人を豆の木で倒そうにも、豆の木そのものに襲われジャックはゴミのように死んでいく。
で、あるならば、それに対抗する戦線を増やすほか余儀なくされた。
豆がないならジャックを増やせばいいじゃない。ジャックを命を繋げて第二の豆の木を作ればいいじゃない。
数、数、数。今日も今日とて俺はNPCの数を増やす為に尽力する。
「うおおおおおー!!」
あいも変わらず、闘牛の背中に磔にされた俺は、円で囲った柵の中を暴れ回る。牛は俺を振り落とすので必死になり無限に走り続けるのだ。
素晴らしきかな歩数カウントの溜まる音がする。
西方の空から吹き荒ぶコウノトリの翼の音が何よりも証拠じゃないか!これが新しい命の芽吹きだよ!!
「あの……なにしてるんだ」
クッコロさんは、俺を見てそう言った。なにって戦力増強ですよ。
「こうやっててててて、歩数カウントトトト、貯めててててて、村人をおおおおお増やすすすすす」
「牛が暴れてて、何言ってるか全然わかんないんだが」
はあ、しょうがないな。この実に効率的で美しい機構を奇行だと勘違いされないためにも説明は欠かしてはいけないなと思った。
俺は縄を引きちぎると、スーパーボールのように跳ね飛ばされ、流れるように雄牛のツノに突き刺さる。ボロ雑巾のように床に叩きつけられた後に絶命した。
なんて安くて儚き命。
それから1秒程で家のベッドにリスポーンしたので、俺はドアから顔を出し迅速に補足説明を行う。
「NPCの人数はその主であるプレイヤーが一定以上歩く事で自然と増える。この歩数を増やす効率の最大最適を突き詰めた結果がこれだ」
「デスポーンしながら平然とした顔で説明続けるのやめろ!!意味わからないよ!?」
はぁ?これだけ丁寧に説明しているのにまだわからないとは。
「走るよりも牛の上でロデオする方が1秒間に稼げる歩数が多い」
「ロデオっていうか引き摺り回しじゃないか!!殆どセルフ拷問だ!!見てるだけでも最悪だぞ趣味悪い!!」
「そんなことない。揺られてる間はジェットコースターみたいで楽しいし、その時間に村の資源の在庫確認ができる」
「っ……!!合理の為に外聞を捨ててる……!!」
じゃなきゃ俺たちは勝てねえんだよ仕方ねえだろーが。
そらみろ、クッコロが文句垂れるから、村人の方々がぞろぞろと集まってきた。俺の行動にケチつけたら彼らは頼んでもないのに御立腹になるんだ。
「おい貴様。いま、若の神聖なる儀式を愚弄したのか?」
「若様は己の身一つで次世代の花を咲かせる儀式を担ってらっしゃるのだ!!」
「それをこの小娘ェ……そこへ座れ、切腹しろ。介助は拙者が執り行うッ!!」
「おかしい、この村おかしいよ……!!」
彼女は頭を抱えた。これがチーターの猛激を幾度とない世代交代で乗り切った猛者たちの意見だ。彼らをおかしくしたのは隔離サーバーという異常環境のせいよのう。
「大体なんだ!!歩数カウントって!?人の数を増やすって!?」
クッコロは泣きながら指でさす。その先には無数のコウノトリが民家に行列をなし、赤ちゃんNPCを無造作に落としていく、この世の終わりみたいな絵面が出来上がっていた。
流石に初見にはインパクトの強い映像だったか、クッコロの嗚咽が止まらない。
「これじゃまるで家畜の生産工場じゃないか!!倫理観のかけらもない地獄……ッ!!悪の中枢区画……ッ!!」
言い得て妙だなと思った。しかしそれを言えば村人の逆鱗に触れる。いかんな。まだまだ青いよクッコロさん。
「おい!!皆の衆聞いたか!!この豚めが、我々を家畜呼ばわりしよったぞ!!」
「なんだと!!無礼な!!石を持て!!磔にしろ此奴を生かすな!!」
「処刑じゃ処刑じゃぁ!!この部外者め!!その血肉をそこに置いて我らが贄となるがいい!!」
「「「うおおおおおお!!!!今夜は豚しゃぶじゃぁぁぁ!!!」」」
その辺にいた村人NPCが手当たり次第、片手に石を持って突撃してくる。コイツら頭蛮族かよ。俺はこの集落を原始人の巣窟にした覚えないぞ?
「うわああああ!!たっ、たすけてくれぇ!!えーーっと、名前がひどい人!!」
クッコロが俺の背中に縋り付いて影に隠れる。
「貴様ァ!若様を質に取り寄ったな!!卑怯者!!卑怯者め!!」
「若様ぁ!!なんとか退いてください!!そいつぁあっしらで斬り捨ててみせます!!」
「今助けます!!どうか、ご無事で!!」
本当にバカしかいないんだな。俺は喝を入れることにした。
「下がれテメェらァ!!!!」
迫真のクソデカ声。応援団長やっててよかった。村人たちは俺の怒声を聞き、やばい!!と言わんばかりの顔で一歩身を引いた。
誤算だった。AIが修羅を生き抜くことのなんたるかを学習したせいで、心のゆとりを無くしてる。
「あのな?お前ら。俺は昨日の夜に言ったよな?このクッコロさんは、過去の罪を火に焚べて精算したって」
「……はい」
「……うい」
「さ、さようでござる」
「彼女はこれから、ここで汗水垂らして働いて、清く正しい道を歩み直すことを選んだ。だから同胞として出迎えると、お互い誓ったよな?」
「……あれ?私そんなこと誓ったっけ?」
「誓ったよな」
「はぁぁい誓いましたっ!!」
すげえ、誓ったことになった。勢いって大事だね。
「聞き間違いかな。お前らは、志を同じくした仲間を豚と呼んだのか?そりゃあいけないね。この村に不和を呼び込む悪霊憑きがいるらしい」
俺はインベントリから小刀を取り出して地面に転がす。
「ケジメ、つけろや」
こんなこと言っといてなんだが俺はわからん。ケジメってどうやったらつけられるんだろう。俺今何やってんだろ?
「「「すっ、すいやせんでしたぁ!!!!」」」
村人NPCは土下座した。その勢いでエンコ詰めしようと指を差し出したので、俺は小刀を取り上げた。物騒なことをするな。ごめんで済むんだよウチの村は。
「……もうこれヤクザじゃん」
と、クッコロが言った。言い得て妙だなと思った。