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本当にあった怖ぁい話



 【ヤオヨロズ・オンライン】は神ゲーである。だが【ヤオヨロズ・オンライン】はゲームの形をした刑務所である。

 この隔離サーバーを目の当たりにした誰かが言い放った名言である。


 今、クッコロさんが、気絶した状態から意識が戻ったらしい。良かったね。


【ヤオヨロズ・オンライン】並びに専用VR機は、プレイヤーの体調の安全を第一の優先とし、その人の身に何かあれば強制ログアウトという運びになる。


 で、だ。ログアウト中にキャラアバターの描写はされず、居ないものとされる。これで誰かに寝込みを襲われる心配ナシ。

 しかもこの状態でも、内部上の座標データには残るので、次ログインするときも同じ場所から再開できるわけだ。いい仕様だね。


 ああ、しかし。忘れてくれ。それ表に限った話なんで。


 裏だとログアウトしたキャラアバターはそのまんま世界に取り残される。

 なのでログアウト中その身は完全なる無防備となり好き放題されてしまう。


 今こうして縄に逆さ吊りにされてるのも、ログアウト中にNPC連中が拘束することを希望したからだ。



「どう?調子は」


「あ、あの、最悪なんだが」



 いまクッコロさんは360度全方位から槍を構えられ、その下には火が敷かれている。

 NPCはこのケダモノを囲い火に焚べてその肉を腹に入れようという結論を弾き出したのだ。怖くない?俺これ別に命令してないんだよ?



「若様!!火加減はどれくらいがいいですか!!」

「調節は任せてくださいよ!!」

「味付けは塩に御座るか!?」


 

 俺はカニバリストじゃないのよ。我々を脅かす脅威を退けようと結託したんであって、誰がこんな蛮族じみたことやれって言ったよ。

 躾が足りてなかったみたいだ。俺は火を土で消した。



「全員槍を下ろせ、これを豚と判断するには早すぎる。お前らの悪いところだ」


「すいやせん……」



 俺が手を振るとみな、槍をしまった。



「さてクッコロさんや」


「は、はいっ!!」


「服、脱ごうか」


「ひぇぇっ!?な、ななっ、きさ、貴様っ!?せ、セクハラだぞ!!変態!!変態だ!!私を辱める気か!!くっ……殺せ!!!」



 クッコロがくっころして身を捩って抵抗する。しかし悲しいかな、両手の自由を奪われた彼女にできることはない。

 俺は吊るされた彼女に接近する。急速に顔を赤らめていき、抵抗も大きくなる。びょーんびょーんと、ミノムシの振り子運動が激しくなっていく。

 すげえや、頭悪そう。楽しそうでなによりだわ。


 ポンと、服を置く。この【ヤオヨロズ・オンライン】に相応しい和装一式である。



「あれっ……ぬ、脱がせないのか?」


「何を期待してたんですかね。さっさとその薄汚い甲冑から着替えろ」


「なっ……」


「ああ、やり方がわからない?メニューからインベントリ開いて装備品を変えるだけだよ。その状態でもお着替えできるでしょう?」


「はい……」



 クッコロさんは和装一式を縛られた状態で回収する。プレイヤーは一定の距離にあるドロップアイテムはどんな状態でも拾えるのだ。拾うボタンに頭でカーソル合わせりゃね。


 とどのつまり、早いところ不正してる状態を改善しようねという促しである。

 君みたいなピュアな子がチーターと蔑まれ、ダークサイドに落ちるようなことは俺がさせない。後輩の尻拭いをするのも先輩の役目。


 何も知らない新参に知識を身につけさせ、一人前になるまで見守るのが健全な先行プレイヤーってもんでしょうに。


 どっかの馬鹿は初心者狩りの地獄をお見舞いしてくるロクデナシだからね?頭冷やして俺の事をちったぁ参考にしろって話ですよ。

 結局は格下相手にイキリ散らす三流風情の鼠小僧が、ちょーーっと人より対人スキル高いからって図に乗りやがる。アイツらなんなんだ!?寄ってたかって俺の事リスキルしやがって!!あーもう、思い出して腹たってきたわ!!



「はよ着替えんかいドチンピラァ!!!」


「ひいぃぃっ!!」


「ごめんね。ゆっくりでいいよ」


「えぇ……どっちなんだよ、怖ぁ……」



 俺はニコニコと笑顔でクッコロさんが着替えるのを待った。

 彼女は犯罪の象徴である妖精騎士のコスチュームを棄てて、大和撫子へと変わった。これでいいんだよこれで。運営が作った世界に馴染もう。



「それじゃ、その妖精騎士のコスを燃やそうか」


「えっ……」



 当然だよね。こんな産業廃棄物この世界に要らないよ。燃やして牛のウンコと混ぜて肥料にする。この上ない正義執行に土壌神もニッコニコ間違いなしだ。アルカイックスマイル止まんなくて草ァ!



「け、けど、これは……まだ配信に載せてなくて。その……妖精騎士が私のキャラっていうか、アイデンティティっていうか……」


「こいつは豚かもしれない」



 その一言で周囲のNPCが再び槍を構える。その矛先の全てがクッコロさんに向く。

 彼らはね、許さないよ。悪質なプレイヤーから何世代にも渡って非道な虐殺をされ続けたのだ。その思考アルゴリズムは真の冒険者と厄災(不正プレイヤー)を鋭く嗅ぎ分け根絶やしにできるように進化したんだ。

 表でのほほんと暮らすNPCとコイツらじゃ殺意も執念も覚悟も違う。

 


「わっ、わかったよ!!燃やす!!燃やします!!燃やしますからどうか槍を納めてくれぇ!!」



 NPCの一人が火打ち石を叩いて火を起こす。クッコロさんは泣きながらその衣装を焚べた。



「よし、あとは一旦ログアウトして、導入したツールも削除しようか」


「そ、そんな!!それはダメだ!!結構な値段したんだぞ!!それにいいじゃないか、もう衣装燃やしたんだから!!これ以上私から……奪わないでくれ!!私は可愛くて気高い妖精騎士なんだ!!」


「うーんそうか……」



 貴様の事情なぞ知らんわボケカス。

 まあ、衣装のテクスチャ表示を変えるだけのMODだからさ、運営が裁判起こしてぶっ叩きにくることなんてないよ?別ゲーム破壊しているわけじゃあないんで。

 大体、これ以上悪辣なチートが野放しにされてる隔離サーバーだし多少は、ね?



「一つ怖い話をする。昔話だ」


「な、なんだ」



 そのわざとらしい半べそも引っ込む、怪談話。



「古いMMOのとある日、返り血MODというのを作った人がいた。至って簡単、普通の武器にリアルな血糊をコーディネートする特殊なツールだ。実用性なんてからっきしないが、ビジュアルがすごく良い。夜だと月明かりに照らされて赤が映える」


「……いいじゃないか?」


「そう、良かったんだ。これが好評で、ツール使用者のユーザーは多かった。本当はダメだった、けれどそのゲームの運営も『カッコいいからヨシ!』ということで、黙認した……で、何が起きたと思う?」


「……何が起きた?」


「そのMODを導入したユーザーの個人情報が製作者に根こそぎ抜き取られた」



 クッコロさんがぞわり、と震え上がる。



「リアルがアカウントと紐付けされるVRだから丸裸ですよ。身長、体重、生年月日、顔と名前。ほくろの数から身体の隅々まで。あれやそれや全部持ってかれた。返り血MODはなんとびっくりバックドアが仕込まれてたんですね」



 もちろん凶悪犯罪なので、犯人は即刻パクられた。今頃便所飯を啜ってるだろうけど。

 俺は轟々と燃える焚き火を細い目で見て警鐘を鳴らす。



「妖精騎士の服の製作者はそういう人じゃないといいですね」


「今すぐ消してくる!!」



 こうして、クッコロさんの違えかけた道を直すことに成功したのであった。ネトゲは末恐ろしいなと思った。


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