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なんだあのコウノトリの大群は!?


 

 ────ここは【ヤオヨロズ・オンライン】の垢BAN対象者隔離サーバーである。ここはこの世の醜悪を煮詰めたようなクソ蠱毒。

 俺も最初は自分の目を疑った。だが実際にそれは本当にあった。噂も侮れない。


 さて、いきなりキツイ言葉で申し訳ないが、違反者なんてモラルも知性もカケラだって備えてないモンスターだ。

 奴らが蔓延るこの世界で目にしたものは最悪の一言。



「NPCはその尊厳を破壊されていた」



 ある日は新しいバグの実験と称し、二人のNPCが壁にすり潰されて融合しそのまま廃棄された。

 新しいチートの試し打ちということで、無限のTNT爆撃を喰らい多くの死体に溢れる。


 このサーバーにおけるNPCは壮絶な勢いで数を減らし、誰にも見つからない地下空間に身を潜め、今日もプレイヤーに怯えながら涙を流す。


 理不尽な虐殺に声を上げることはできず、ただただ、緩やかに絶滅の一途を辿ろうとしていた。


 なあ?おい。こんなことがあっていいのか?俺は許せないと思った。



「────だから、それも今日で終わりだ」




 一揆だ。農民一揆だ。下剋上を起こせ。

 NPCは散々命を弄んできた化け物共を相手に怒りを燃やし、大軍勢を形成しこれを殲滅する。


 ようするにこれは、ゲーム側の用意したNPCの思考アルゴリズムに則った、正当な戦略。チートやバグには屈しない真っ当な戦い方。


 我が軍勢の要。これを支えるのは数。純粋な数だ。

 不正プレイヤーという強力な個に対応するには対処不能な物量を押し付けるしかない。


 下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。100回に1回当たるなら100回せ、1000回に1回なら1000回せ。


 数、数、数。今日も今日とて俺はNPCの数を増やす為に尽力する。



「うおおおおおー!!」



 闘牛の背中に磔にされた俺は、円で囲った柵の中を暴れ回る。牛はこの柵に沿って延々と、いや永遠に走り続ける。

 俺がコイツの背中に乗っている限り永遠だ。この暴走モーションは、上に乗っているプレイヤーが落ちない限り止まらない。


 するとどうだろう、西方の空を埋め尽くす程の悍ましい数のコウノトリが飛んできている。

 なんだあのコウノトリの大群は!?と初見さんはそう思うだろう。あれが新しい命の芽吹きだよ。



「よし、これでこの間チーターと戦って戦死した分の人員を取り戻せる」



 味方NPCの増やし方を教えよう。


 まず自分が所有する土地に民家を建てる。

 ↓

 そこに、つがいの味方NPCを一名ずつ住まわせる。

 ↓

 家主である自分が一定の歩数カウントを稼ぐ。

 ↓

 コウノトリがやってきてその民家に赤ちゃんNPCを運んでくる。

 ↓

 さらに歩数カウントを稼ぐ。

 ↓

 次の日には赤ちゃんが大人になる。


 これを何千という民家を建てて何度も繰り返す。そうすればあら不思議。八百万なぞ簡単に超える味方NPCが俺の村に住み着くというわけだ。


 ほら、みてください。コウノトリの行列が一斉に赤ちゃんを置いていきます。もはや赤ちゃんだらけで地面が見えません。

 なんだこの絵面は。怖ぁ。


 そろそろ人数も頃合いか。

 俺は磔の状態から、自分を縛り付ける縄を断ち切った。猛牛に振り落とされ、ツノで弾き飛ばされると身体がおもちゃのように宙を舞い、レッドポリゴンを撒き散らして死亡した。

 着脱の際に毎回死ぬのはちょっと良くないが、歩数カウントを稼ぐには闘牛の上で無限ロデオが最適解だから仕方ないね。

 

 俺は自分の部屋にリスポーンした。



◆◆


 


「若様!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!」

「先の大戦の勝利は若様のおかげであります!!」



 民草が一堂に会し、頭を垂れる。まるで神様を奉るように。俺は首を横に振った。



「いいや。俺は何もしてない」



 そう何もしてない。



「これは君たちの勇気と、亡くなった同胞たちの信念が勝ち取った実績だ。誇れ」


「若様……!!」



 彼等がチートプレイヤーを憎悪し、死なば諸共と石を投げつけ、その心をべっきりへし折るまで執着し続けたのは全てゲーム側の処理が行なったことだ。

 彼等の感情が、相手を殺すべき敵だと認識した結果が起こしたハザード投石テロリズムだ。


 そこに俺が介入する余地はない。少しだけ、背中を押しただけ。ちょっぴり親密度が高かっただけなんだ。

 彼等はその勝利に沸き立つ。いいんだ、いまは喜んで讃えるべきなんだ。



「うおおおおお!!宴だ宴だ!!」

「踊れよ踊れ!!!」

「ふぉおおおおお!!!」



 見てください、この笑顔を。これの何処にケチをつけられるというんだ。

 NPCが悪質なプレイヤーをゲームから追放する立派な事じゃないか。

 彼等の民意に従い、俺が最善を尽くしたケアをする。運営がやってしかるべきのアカウント停止を俺とNPCが背負っているのだ。1ユーザーとゲームキャラクターたちが結託して、運営の、怠慢の、尻拭いをしてるんだぞ!?

 これを不当と言われたら俺も出るとこに出る所存だ。


 つまり何が言いたいかっていうとね。とっとと俺を元のサーバーに戻せってことだよクソが!俺は正当なユーザーだ!!



「若様ぁ!!!」


「なんだぁ!?」



 唐突に、村人の一人が血相を変えて走り込んできた。彼はぜぇぜぇ、と息を荒げて地面に倒れ込む。門兵か。何があった?



「ぜぇ……はぁ……報告します……!!村のすぐそこに、見知らぬ冒険者が現れました!!」



 なんてこった一大事じゃん。


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