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よし、お前ら、石は持ったな?

この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・宗教とは一切関係がありません。




 表裏一体という言葉がある。


 コインの表と裏、月面の光と影、美しい薔薇の華と棘、人の感情の善と悪。この世のことわりは常に両側面の隣り合わせであることを意味する。


 神ゲーの裏にも闇あり。


 この【ヤオヨロズ・オンライン】がこんにち神ゲーと持ち上げられる裏で、地獄は形成されている。

 


 ようこそ。ここが。


 アカウントBAN対象者隔離サーバーだ。




◆◆◆◆




 同時接続者数約90万人。【ヤオヨロズ・オンライン】の誇る全サーバーの普段のプレイヤー人口である。


 同時接続者数約30人。【ヤオヨロズ・オンライン】の誇れない恥部を表すプレイヤー人口である。


 ゲームの世界でさえ、犯罪者の烙印を押されアカウントBANと見なされたゴミどもを何をトチ狂ったかのか運営が秘密裏に用意した、限界集落動物園。

 八百万の神が失笑し閻魔様が真顔で地獄の釜に放り込むこと必須の玉手箱ならぬうんこ箱の朝は環境破壊から始まる。


 通常の【ヤオヨロズ・オンライン】は和風な世界観をコンセプトにしたそれは桜舞い散る日本特有の美しい百景が広がる。山岳地帯の多さは他MMOと比べても屈指だろう。


 春が来た。春が来た。

 あ、いま、山が一つ消し飛んだ。



「こんなんで、花見なんてできるか!!」



 俺は激昂した。今日はせっかくNPCの村娘ちゃんとデートしていたのにこれじゃ雰囲気台無しだ。どうしてくれんだこの野郎。

 恨むべきはやはりチーター共。アイツらはいつだってゲームを破壊する害悪共。現在進行形で美しい景観の山々をその手で増殖したTNT爆弾を用いて爆裂させる。

 ああ畜生、村娘ちゃんの精神が崩壊して発狂しかけている。ゆるせん。



「ヒャッハー!!汚物は消毒だぜぇ!!!チートを使えばおれは最強なんだよぉぉぉ!!!!」



 信じられるか?ワールドマップの8割がバグって進行不可能になってるんだぜ?

 どれもこれもアカウントBANの違反者が暴れ回るせいだ。一歩踏み込んだ瞬間に処理落ちする暗黒大陸を作ったせいだ。


 そんな場所に無実の罪でブチ込まれるこっちの身にもなってほしい。


 ああそうだよ。運営の野郎はやらかした。なんの罪もない一般プレイヤーである俺をあろうことか誤認BANしやがったのだ。

 この恨み、如何にして晴らそうか。油断してたら復讐に飲まれそうなほどの憎悪を心に灯すが、2秒後には俺は能面の如く優しさで、運営の悪行を許し受け止める。

 俺はそこで狼狽える村娘ちゃんの背中をさする。



「怖いよね。けど勘違いして欲しくない、プレイヤー(冒険者)ってのは、みんながみんなああじゃねえんだ」


「はっ、はい、重々承知しております。若様のような心優しいお方もいると、私はわかっております」



 若様、とは俺のことだ。嬉しいね。君が、君たちだけは俺が正しいってわかってくれる。


 それはさておき、ここに居るのは全員等しく異常者なんだ。チート、グリッジ、粘着、悪質なPK、PKK、MPK。暴言、セクハラ、迷惑行為。

 全部が全部規約違反。本来BANされて、ゲームから追放される筈のプレイヤーたち。

 なぜか運営が作ったコピーワールドがあって、これ幸いと暴れ回る反省の余地がない野獣共。


 そんな奴らと一緒にされたんだぞ?屈辱だ。屈辱の極みだ。どれだけの報復をしたって気が済まない。開き直って、業者に大金叩いて表サーバーもろとも全部ぶっ壊してやろうかと何度も思ったよ。


 だけど俺はそれはしない。

 不当な方法でゲームを侵害することはチンパンジーと同じだからだ。俺は不正に手を染めない。規約違反だってしない。

 このゲームのルールに則って、俺の正当さを証明する。



「一揆だ」


「……!!やるんですね。若様」


「ああ。あれは俺たちの安寧を脅かす厄災だ!!村のみんなを呼べ!!一揆を起こす!!」


「一揆だぁああああ!!!」



 俺の合図と共に村娘はさっきまでの様子から打って変わって殺気だった雄叫びを上げる。

 その声はやがて大地を伝播し、村々に伝わる。数十、数百、数千、数万。

 八百万のNPCたちが、ぞろぞろと、皆一様に口を揃えて裏手から進軍する。



「「「一揆だ!!一揆だ!!一揆だ!!」」」



 害悪チートプレイヤーという強大な敵を前に、弱者たちは一眼となって立ち向かう。

 さながらラスボスとの最終決戦のよう。



「全員石は持ったか!!」


「「「「いえあああああ!!!!」」」」


「よし。投擲ィィィ!!!!」


「「「「うおおおおおおおお!!!!」」」」



 八百万のNPC、その全員がたった一人のチートプレイヤーめがけて石を投げつける。



「うおっ!?なんだテメェら!!」



 奇襲。しかしそのダメージは0。全て0。0×800万の攻撃だ。

 しかし鬱陶しさだけなら5000兆点取れますと言わんばかりの邪魔すぎる波状攻撃に思わずチーターは激怒する。



「ゴミどもが、死ねぇ!!」



 さきほど山を軽く吹き飛ばしてみせたように、NPCたちはゴミのように宙を舞い、象に踏み潰される蟻の如く簡単に締め潰される。

 ああ儚き命。その中にいた俺も、簡単に死んでしまうのだ……。



 それで?第二波の準備はできてるか?



「諦めるなぁ!!!!みんな石を持て!!そして強い意志を持て!!絶対に負けるな!!打てえええ!!!」


「「「うおおおおおおお!!!!」」」



 倒した端から夥しい数の増援がやってくる。地下空洞、丘の向こう側、見渡す大地のあらゆる場所からNPCが集う。

 もはやその規模は村どころじゃない。リアル世界の世界総人口を合わせたって足りないくらいの人数が集まり、それら一同が馬鹿の一つ覚えのように石を投げる。どれだけ殺されても端から援軍。底から援軍。気づけばチーターは包囲され、いっそ狂気を感じるほどに物量を持って圧殺されるだろう。


 無限の時間と無数の兵力を持って、実現する人海戦術。

 ただの石を相手の心をへし折るまで、投げて投げて、投げて投げて投げて投げて投げて投げ続ける!!



「一揆だ!!一揆だ!!一揆だ!!」


「なんなんだよコイツら!?次から次へと!?」



 再び腕をひと振りすると、散弾のようにばら撒かれたTNTの絨毯爆撃を喰らう。簡単にNPCが大量死する。


 それで?だからどうした?第三波いけえええ!!



「「「うおおおおお」」」 


「なんだよ、なんなんだよクソ!!石投げてくんじゃねえよ!!それしかできねえのかよ!!?」


 そうだ!!それしかできない!! 


 どれだけ死のうとかまわない。だってゲームだもの。

 ダメージが入らなくたってかまわない。戦うことができるならそれでも。


 繰り返せ。繰り返せ。相手に石を投げることだけを考える。

 恥も外聞も捨てて敵を屠れ。我らが民意を思い知らせる為に投げ続ける。例えこの身が朽ち果てようと、爆撃の雨が降ろうと。俺たちは折れない。


 殺せ。引退に追い込め。このゲームに二度とログインできないように、徹底的に潰せ。


 全てはこのゲームの平和のために。NPCの子供たちが安心して夜を過ごせるように。一揆だ。一揆を起こせ。俺たちの脅威を排斥するのだ!!



「みろ!!両手相手が降伏しているぞ!!」



 意外と早かったな。時間にして30分くらいだろうか。村人NPCの誰かがチーターの様子を見て声を上げた。みれば半べそをかいて両手を上げて降伏のポーズ。鬱陶しすぎてついに心が折れた。


 よっしゃー、やったー、喜びの声は束の間、村人たちはその後に嬉々としてこういうのだ。



「今だぁ!!!投げろ!!投げまくれ!!!相手は動かないマトになったぞ!!」

「うおおおおお!!この気を逃すな!!!」

「どりゃあああああ!!!」

「てりゃああああああああああ!!!」



 それから僅か数秒後、本当に心が折れたチーターはログアウトした。



「我々の勝利だァァァァ!!!!」



 俺たちは勝った。ゲーム側の用意したNPCたちが結託することで、チーターという不正アカウントの撃滅に成功したのだ。


人の命を大切にしない奴は死ね!!そんな雰囲気の作品を目指していきたいです。

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