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『Bring Your A-Game!! ~俺の最寄りにいる女子高生サンタがこんなに可愛い訳がない~』(仮題)

作者: ヤマシタ マナト

なんかラノベみたいになったんだけど(笑)

挿絵(By みてみん)


「私とゲームをして頂戴」


「はぁ?????」


  白い雪がしんしんと降りわたり、白い息が街灯を揺らす。傍目に映る仕事疲れのサラリーマンも、誰かを待っているのか、時計を見ながら立ち尽くす学生も、降り積もる雪にはしゃぐ子供たちもその親も、皆厚着で寒気の対策済みだ。

賑やかな冬の街に、部活動から帰宅中の1人の少年もまた制服の上にブレザーと分厚いコート、マフラーにイヤーマフを被り、のそのそと歩いている。


街下座 草(まちかざ くさ)は15歳の男子高校生であり、運動神経は平均をやや下回る。学力も学年240人中50位、趣味は音楽と読書、文学部に所属していて、アルバイトはやっていない。絵に描いたようなごく平凡な学生である。


18:00に高校の部活動(文学部の活動)を終えて、1人で帰路につく。そんな毎日を送る。

普段は本を読みながらJR恵比寿駅周辺を歩くのだが、ここのところだんだん肌寒くなってきて、手ぶくろなしでは外に出られなくなってからというもの本を開くのが億劫になってしまった。


「はぁ...」


こうして顔を上げながら歩いていると、駅前のなんとカップルの多いことだ。

街下座 草はそう言った同じ年頃の男子生徒と比較して、恋愛に対しては冷めている方だが、それでも駅の近道であることから、恵比寿ガーデンプレイスを歩いていると、嫌というほどに仲睦まじい男女の番が目に入ってしまう。クリスマス前のJR恵比寿駅周辺はそう言ったピンク色の雰囲気と銀色の降雪にオレンジ色の街灯、青白いイルミネーションが光り輝く。


   彼にはよくない癖があった。

人間観察である。無意識のうちに雑踏の中、カップルと独り身の人、ホームレスに子供、様々な人種の数を数えて統計をとっていた。どこかでそのデータを使うわけでもなく、ただ漠然と、無意味に算出していた。


「ああぁ、これはいけない。」


街下座 草は落ち着かない様子で早歩きを始めたところで、派手な赤いコスチュームで何やらチラシを配るそそっかしい人間が目に入った。そうだ、そろそろクリスマスだったかと、ふと街下座 草は思い出した。


サンタコスチュームを着たその女性と目があってしまったので、草は急いで目を逸らしたが、時すでに遅し。

赤い人影がパタパタと距離を詰めてくるのが間接視野に写ったので、思わず白いため息がマフラーの隙間から漏れ出した。


「おねがいしまーす」

という声とともにチラシを持った手が草の行手を阻んだので、草はひらりと交わす挙動に入ろうとしたところで...


「げっ..まちかどくん...!」


これまで媚びるような甲高い声とはうって変わって、聞き覚えのあるような(無いような)低い声が聞こえた。

その高低差に思わずサンタの顔を覗きこんだ。


「...っ!」


...〜っ...誰だっけw

そこには長髪黒髪で鋭い目つきのほっそりとしたクラスメイトの少女が間抜けに唖然と口を開けて彫刻のように立ち尽くしていた。最低限度の化粧をしているが、元々の鋭い目つきがちょっと怖い。


もちろん、草と彼女の交流がほとんどないという事実に関係なく、普段彼女は学校では全く口を開かない印象だが、バイト中だからか、サンタコスの彼女はいつもよりも表情が窺えた。


驚きのあまりこちらも硬直していると、我にかえった彼女が取り繕うように、口を開いた。


「あ、やっぱり、まちかど君だよね...何してるの?」


何してるの?は、こっちの台詞だ。と言いたいところをグッと堪えて、質問をされた草も我にかえった。

「あ、いや学校の帰りだけど。」


「っていうか、まちかど君って僕のことかよ。街下座ね。ま ち か ざ。街下座 草です。」


魔族じゃないんだから...というか、出会い頭に「げっ」ってなんだよ「げっ」って。失礼なやつだな。まぁ、名前を思い出せない僕が言えたことじゃ無いからまぁ、いいか。


「あごめん!というか、街下座くんお家この辺なんだ。」

草の返答を待たないまま少女は続けた。

「それにしても、すごい雪じゃない?こんな日にバイトなんか入れるんじゃなかった。この辺は歩く人みんなが皆幸せそうで、街も賑やかでキラキラしてちょっとだけ、ううん、すごく羨ましい。

クリスマスが近いからって何もこんな恥ずかしい格好で、声を張り上げてチラシを配って、時には嫌な顔をされたりして、どうして。ってごめんね。勝手に足止めて話しちゃって。」


「うん。まぁ別に急いでいるわけじゃないし。てかお前ってそんなに喋れるんだ。なんか学校のお前ってぶっきらぼうでちょっと怖いから、なんか意外だよ。」


というかさっきから、クラスメイトのサンタコスが気になって話が入ってこない。

すらっと長く細すぎない足は見事な曲線を描き、ほんのりと赤身がかった膝のうえに丸々と肉ついた太ももを覆うモコモコの赤い生地は、良い子の元にだけ現れるというサンタクロースにしてはいささか刺激が強い。腰の上のくびれははっきりとラインが見てわかる。そのスタイルの良さになんとも見入ってしまうが、それよりも何よりも高校1年生の少女のそれにしては主張が激しい胸部に目が離せない。普段は硬くきゅっと結ばれている唇に塗られているリップは艶かしくひかり、白い呼気が漏れ出していた。よくみると整ったはなと少し潤んだ瞳に、」


「おい。途中から声にでてるぞ」


...!!!!!?????え?はっ!?しまった。どこから!?どこから聞かれた!?


「私だってこんな、エッチな服装でうろつきたくないよ...」


サンタコスの彼女を観察して気になる点が1点あった。肘のあたりに痣がある。

普段の長袖の冬用制服では見えることのない、小さいが異彩を放つ禍々しい1点の不穏。


バレーボール部で怪我をしたのだろうか。と、思考がそこまで行き着いたところで草は思い出した。


貧畑 喜多(ひわた きた)、女子バレーボール部のエースにして運動はもちろん、勉学も優秀。ただし対応が冷たいあまり友達がいない。入学初日、今ではクラスのムードメーカの谷上(たにうえ)くんが遊びに誘うと目からレーザービームを放ち、谷上のペンケースを燃やしたという噂から、冷徹の女王(・・・・・)の異名で恐れられている。


「それで、冷徹の女王(・・・・・)(笑)がどうしたってこんな格好で?」

草は言いながら、流れるような動作でポケットから携帯を取り出し、手袋を外してカメラを起動し構えた。

「ちょ、ちょっとお願いだから辞めて。こんな格好誰かに見られたりしたら、学校なんてすぐさま辞めてやるんだから。あとその呼び方も辞めて。大っ嫌いだから。それ」


陰キャラあるある言っていい?女子のことなんて呼べばいいかわからないw 「お前」でいいや。


気温がとても下がってきている。空にはいつの間にか雲が立ち込め、雪もだんだん強くなってきたので、さっきまで賑やかだった街並みはだんだんと人けが無くなってきていた。

草は声のトーンを落とした。


「お前さ、特に何もないよな。」


喜多は一瞬、目を丸くして、そしてとっさに答えた。取り繕うように。


「もう。確かにおかしな格好だけれど、別に寒さで頭がおかしくなったわけじゃないから。」


草は少し不快になって問い詰めた。


「その右腕の肘のあざはどうしたの?」


「別に、なんでもないよ。」


草は喜多が少したじろいで目を逸らしたのを見逃さなかった。それに、バレーボールで怪我をしたとは言わないんだなと、思った。


「...街下座くん、目がいいんだね。」

喜多は話を逸らそうとした。


「いや、昔から観察眼が優れているんだよ。」


確かに、街下座 草は観察眼に優れていた。

彼はいつも教室で本を読んでいるようで、教室の隅まで観察していた。だから、学校における人間関係の大体は誰よりもわかっているらしかった。一度も言葉を交わしたことのないクラスメイトの部活、異名の情報もそういうわけで見聞きしていたものだ。


彼には悪い癖があった。

それは無意識的に人間観察を行なってしまうというものだった。

初めは観察対象とする人間の癖や、意外な面が知れて面白かった。そういう面を見つけると時として対象の印象が好転する場合もあった。だが、その逆も然り、人は誰かに見られていないと思い込み油断を醸し出すと、良くも悪くも本性が滲みでてしまうことを、草は嫌というほど知った。

いつしか草は人前では本を開き、極力意識をそこに集中させるようにした。


「僕はなんでも見えているんだ。だから、君が何か不穏な事情で今こうしてやりたくもないことをやっているという嫌な仮説を思いついてしまっている。」


おかしな話だ。草もまた今日も文学部の活動が終わったところだ。無論バレー部だって練習があるはずである。

らしくもないアルバイトをするのだってきっと訳があるんだろう。高給なんだろうか。彼女は今お金に困っている?何か欲しいものがあるとか。そしてバレー以外の理由による痣と、それを追求した途端曇った彼女の表情。


…待てよ。確か最近昼休み中かいつかに彼女、貧畑 喜多に関する話題を教室のどこかで聞いた気がする。

友達のいない彼女のことだ。話題に上がる頻度は少ないことから、珍しくってよく覚えている。

草が質問をしようと口を開いた刹那、喜多の方が先に声を発した。


「図々しく、詮索、しないでよ...」


「せっかく、街下座くんとおしゃべりできたのに。私、最近嫌なことばっかりで、友達だっていないのに。久しぶりにクラスメイトと、街下座君と話すことができて、ちょっと嫌なことも忘れてたのに...」


いつの間にか、雪は勢いを強めて、視界が悪く彼女の表情までは見えなくなっていた。だが彼女の声は震え上がり、ほおを水滴が伝っているような気がした。


草は心のどこかでずっと貧畑 喜多は同類だと思っていた。


「私、ずっと街下座くんは同類なんじゃないかと思ってた。だって教室の中いつも街下座君だけはみんなとはどこか違う場所を見ているような気がしていて、要するに、私と街下座君だけはあの空気の中、ぷかぷかしていて」

「喜多、僕と君は同類だ。だからわかるだろう。話してくれ、僕には失うものはない。そして君の現状を変えられるかもしれない。」


草は少し感情的になって声量を増幅させた。


「勝手に諦めるな。まだ何もしていないじゃないか。そうだよ何もしていない。君には非はない。ルサンチマンなんか許さない。最善を...最善を尽くせ!!」


Bring your A-Game. 骨のあるところを見せてみろ。ベストを尽くせ。


教室で聞いた彼女に対する噂、女子バレーボール部のエースが練習を休んでサンタクロースとして歩き回っている現状、そして右肘のあざから察するに、おそらく彼女はある問題を抱えている。

そして彼女は半ば、その問題の解決を諦め、自棄的になっている。

彼女の口からSOSの声を発すること、街下座に助けを求めれば、もしかしたら現状が変わるかもしれない。現状は変わらないかもしれない。

だが、街下座は失うものがないことという強みを根拠に、現状を変えられると確信している。同類である少女を救えると信じている。

だが、また同時に、草は喜多のその希望を一切歯牙にもかけないそのルサンチマン的態度に不快感を覚えていた。


雪の勢いは最高潮に達していた。いつの間にか周りには誰もいなかった。吹雪の中、JR恵比寿駅周辺には草と喜多の二人しかいなかった。

喜多と草はしばらくそこで見つめあっていた。

草は喜多の感情を読み取ろうと自分の能力の最大限を尽くしていた。



どれくらいこうしていただろう。葛藤の中、喜多は一つの結論を決したようだった。

喜多はチラシの束を握り締めていた手をゆっくりと開いた。強い風が吹きバラバラとあたり一面にチラシの吹雪が舞った。一枚のチラシを手を手に残して、そのチラシをくしゃくしゃに丸め、右手に握り締めたかと思えば、それを草の眼前に突き出し、開口した。


「私とゲームをして頂戴」


「はぁ?????」



次回予告(ネタバレ)

このあと、女子高生サンタ 貧畑 喜多(ひわた きた)街下座 草(まちかざ くさ)は喜多の右腕のあざに関する秘密をめぐって、ゲームを行うことになる。

グシャグシャにしたチラシを握り締めて、「どっちの手に入ってるか当てるゲーム」(競技名称不明)を行う。

持ち前の観察眼を駆使して、見事勝利する草は、彼女の秘密を知り、衝撃を...受けなかった。

それは作中で言及した草の仮説が立証されただけだったからである。代わりに、えも言われぬ不条理と、憤怒に苛まれる草は、貧畑 喜多の救済を約束し、スクールカーストの絶対的理不尽にたった一人で立ち向かう。

友達のいない彼がクラスの人間全員を敵にして、たった一人の少女のために向かい合う社会とは。

果たしてその先に何を見るのか。


ー 続く...?


ー いや、続かない!(なぜなら飽きたからである)


続きません。


飽きたので!!

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