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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
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第9話 雨の日の会話 

アンデルセン童話「人魚姫」をベースにした物語です。原作とはちょっと違う新しい人魚姫。世界は愛で満ちている、そんな愛のあふれる物語を描いています。

 外は一面の雨だった。

 地上の全てを洗い流すかのような激しい雨だ。

 カミーユは、王宮内の自室で窓を眺める。雨粒が叩きつけられた窓は、水流が滝のようにとめどなく流れている。外はバケツの水をひっくり返したような状態だ。庭一面が巨大な水溜りになっている。

 そんな光景を目にしながら、先日ハイドライドが言った言葉を思い起こす。


『デグレトでまた人魚が目撃されたって。最近多いな。人魚の目撃情報』


(デグレト...)

(人魚...)


 そんな時、1台の馬車が、この豪雨の中こちらに向かって走ってくるのが見えた。

 玄関先で止まったらしい。蹄と車輪の音が止んだ。


(この雨の中、誰だろう?)


 沈鬱な気分なのは、雨のせいだろうか? それとも先日のハイドライドの言葉を思い出したせいだろうか?


 しばらくすると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「カミーユ王子。ギル・マーレン様がお話があるとのことで訪ねられてますが、お会いになりますか?」

「さっきの馬車はギルか。よし会おう」

「ここに通せ」

「かしこまりました」


 しばらくするとギル・マーレンが姿を現した。この雨だが、いつも通り身なりは完璧に仕上がっている。

 ギルは、ファーストコンタクトである外見の印象が最も重要で、人と会うにあたって外見を疎かにするなど論外だというのが持論で、いつも細部に至るまで清潔さを徹底している。外交官としての強い自覚だが、その徹底ぶりに毎度のことながら、感心する。


「王子。お久しぶりです。お変わりありませんか?」

「うん。この雨で気分が優れないという以外は、特に問題ない」

「本当に、ひどい雨ですね。市内のボルノ川がだいぶ増水してました。近隣の住民が土嚢を積んでましたが、ちょっと心配ですね」

「予報では、雨は今夜には止むらしい。今夜までならなんとか持つが、明日以降も降り続くと川が溢れる。土嚢は念のため準備した。今夜中に雨が止むことを祈るばかりだ」


 カミーユは、椅子に腰かけ、ギル・マーレンにも着席を促すと、湿った空気を吹き飛ばすように口を開いた。

「さて、本題に入ろう」

「ギル、デグレトの駐屯軍の様子はどうだ?」

「はい。ベッカー将軍によって規律正しい軍に仕上がっており、住民の評判もまずまずです。彼に任せておけば安心でしょう」

「あの噂はどうだった?」

「本当でした。最近目撃情報が多く寄せられてます」

「お前はどうか? その目で見たか?」

「何度か沖合の国境付近に行きましたが、遭遇しませんでした」

「噂が本当なら、王の耳にも入れておく必要があるな」

「是非!」


 カミーユはしばし考え込んだ。


 先月のことだ。

 デグレト沖の国境付近に、ソロモン船が出没しているとの情報が寄せられた。漁船からの情報によると、船は漁船ではなく中型船で、何かの調査をしているらしい。隣国が国境での何らかの調査を活発化させている。本当なら特に警戒を強める必要がある。すぐに腹心のギル・マーレンを事実確認のためデグレトに派遣した。結果は黒だ。


 この事実から、国としてどのように動くかは、王を始め、閣僚達の判断次第になるが、ある疑念が脳をかすめる。それは、5年前の敗北のリベンジだ。


 そのために、時間をかけ、入念な事前準備をして、万全を期して攻め込む。もしかしたら、今度は30隻などという中途半端な数ではなく、100隻を超える大艦隊での攻撃を計画しているかもしれない。


 そのことを考えると、身震いがした。


「ギル。どう考える。ソロモンは攻めてくるか?」

「分かりません。ただ、この動きは尋常ではないと感じます」

「王にこの事実を報告する時に、ソロモンの動向を今まで以上に細かく探る必要があることを口添えしておこう」

「それがいいと思います」


 一拍、間をおいてギル・マーレンが口を開く。

「一点、不思議に感じることがございます」

「なんだ?」

 ちょっと勿体ぶった言い回しで、相手の関心を引きつけるやり方。ギルのよくやる交渉術の一つだ。

「元来、あの海域は、嵐の頻発する海域です。それは王子もよくご存知ですよね」ギル・マーレンは遠慮がちに窺うような目をして言った。


「ああ、よーく知っている」


「彼らの船が出没するようになってから、あまり嵐が起こらなくなったとか」

「そうだな。嵐の海域だからこそ。両国ともあの辺りを国境にして。国境付近にお互い近づかないようになっていた。嵐がなくなったのなら、尚の事、彼らは行動しやすいってことだな」

「はい」

 カミーユは、窓の外の雨を眺めながら、ギルに言った。


「ギル。悪いが、もう一度、デグレトに行ってくれるか?」

「はい。王子のご命令とあれば何でも従う所存です」


「今回は私も行く」


「えっ。王子直々にですか?」

 ギル・マーレンが驚いた顔でこちらを見ている。

「公式ではない。王には許可をもらうが、内緒で出向く」

「王子としてだと行動が制限されるからな。それでは意味がない」


「分かりました。では、私は2、3日こちらに滞在後、デグレトへ出発します。向こうで準備を整えてお待ちしています」

「頼む」


「ところで、デグレトでは人魚の出没情報も多発しているようだが」

 カミーユはチラリとギルの表情を窺う。


「そちらの情報については、はっきり言ってしまうとデマです」


 意外にも明快な回答が返ってきた。

「島の港の近くに、ハルという高齢のおばあさんが住んでいるのですが、彼女が噂をまき散らしているというか、人魚がいると頑なに信じているのです。その彼女の影響で、人間ほどの大きさのイルカやあざらしを見た人が、人魚と錯覚するというのが、実際のところです。人魚を見たという人に話を聞いてもほぼ全員が曖昧な答えでしか、返すことができませんでした」

「気になりますか?」

「そのおばあさんはどういった理由で人魚がいると、信じているのだろうか?」

「そこは私も気になって聞いてみたのですが、その部分になると途端に口を閉ざし、後は何を聞いても頑なで口を開きません。よく分かりませんが、言いたくない理由があるのかもしれません」

「そうか」


(ギルはデグレトを救った恩人だ。そのことは充分認識しているはず。そのギルが聞いても答えなかったということは、僕が聞いても同じだろう)

(が、その矛盾がかえって気になるな)


 曇天の空からは、雨が激しく降り続いている。


 振り返って、ギル・マーレンの表情を見た。少し疲れているようにも見える。

「ギル。温かいコーヒーでも飲みながら、久しぶりにチェスでもやらないか?」

年の瀬ですね。

みなさん、いかがお過ごしでしょうか?

今年は東京オリンピックとコロナ禍が重なり、決行か中止かなんて議論を日本中がしていて、はたまた首相が交代するなど、終始ザワザワしていた1年だったなあ、なんて感じてます。

来年はどんな年になるのかな。

過度の期待は禁物ですが、少なくともコロナは落ち着いて欲しいと願います。

では、良い年の瀬を!

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