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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第88話 大船団

 相手側の船が、3分の間に4隻戦闘不能になった。

 残りは2隻。


 2隻の内、1隻がこちらに突っ込んでくる。

 船はありったけの大砲を撃ち込むと、ほぼ全ての砲弾が相手の船に命中した。船は浸水し傾きだす。火災も発生して、船の後ろ半分が濛々と煙に包まれている。


 それを見て、最後の1隻が反転して逃走を図ろうとしたが、目の前に十隻以上の船団が現れた。こちらの船の行く手にもほぼ同数の船団がいる。


 大船団の出現を息をつめて見守っていると、ブエナビスタの軍船であることが判明した。

 戦闘の意志のないことを合図で伝えると、船団の中から1隻の大型船が近づいてきた。     


 ソロモン船の残った1隻は、その場で降伏したらしく、両者の間に戦闘は行われなかった。


 ハイドライドが膝に手を置いて大きく深呼吸した。

「助かった」


「本当、危機一髪だった」

 カミーユが応じる。艦橋を見渡すと、肩をたたき合い無事を喜ぶ者、壁にもたれかかって一息ついている者、各々が危機を脱したことに安堵している様子だった。


(戦争なんてうんざりっていう兵士達の気持ちがよく分った。こんなことが連続して起これば、そりゃうんざりもするな)

 カミーユは心の中で、奮闘した乗組み員達に「お疲れ様」と呟く。


 ブエナビスタの船からこちらに乗り込んでくる人物を見てカミーユは思わず声を上げた。

「あれは、ギル・マーレン」

 髭こそ生やしているが、紛れもなくギル・マーレンだ。

 艦橋の扉を開け、甲板に飛び出していく。


 ギル・マーレンが甲板に姿を現した王子を見て目を丸くする。

「おおっ、王子無事でしたか」

「ギル!」

 二人は固く手を握り合った。

 横には国境警備隊司令のベッカーもいる。

「ベッカー!」

「お久しぶりです。カミーユ王子」


「どうしてここに?」

「ソロモンのカノン王女から、手紙をいただいてまして。王子を乗せた船を向かわせるので、そちらの領海での警護をお願いします、と。それでお迎えに上がったところで、国境で海戦が行われていたので、もしやと思い大慌てでこちらに向かった訳です。間に合ってよかった」

「ギルは既に国に戻っていたのか。ソロモンにいるものと思っていたが、全然所在がつかめなくて途方に暮れていた」

「いえ、私も国に戻ったのはつい先日の事で、それまでは東のカントリーフの海岸線に潜伏してました」

「東の海岸線? なるほど、そりゃ見つからない訳だ」

「申し訳ございません。王子がソロモンに潜入していると知っていれば一も二もなく馳せ参じているところだったのですが...」

「いい。僕自身も存在を隠して行動してたから」

 お互い安堵感からか、話が弾む。

「ところで、王子は何をしにソロモンに行かれたのですか?」

「そのことか。それは後でゆっくり話す。それより、これからことを聞きたい」


「はい。王子には船を移っていただこうと思ってます。こちらの船は損傷が激しく修理が必要です。ガナッシュまで運ぶのは困難なのでデグレトのイエローシティに寄港させます。王子は私と一緒にガナッシュに行き、そのまま王宮へ戻っていただきます」

「分かった」


 ギル・マーレンはカミーユの後ろにいる船長に目を向けると声を掛ける。

「あなたがこの船の船長ですか? はじめましてギル・マーレンと申します」

 船長は敬礼する。

「この船の船長のクーマン・ベスです」

 二人は握手を交わす。


「船長殿。この度はカミーユ王子並びに我が国の邦人に対し、格別のご配慮をいただき、心より感謝申し上げます」

「いえ、当然のことをしたまでです」

「それと、数の上では圧倒的に不利な戦闘を切り抜けた勇気と英知。船長の手腕にはとても感服いたしました」

「とんでもない。私などはまだまだでほんの少し運がよかっただけでございます」

 そんな大人のやり取りをしながらも、ギル・マーレンは話を切り出した。


「こちらの船ですが大分損傷が激しい。この状態のままギガスレーテに戻るのは容易ではないと察する。もしよろしければ、傷ついた船の修理を当国で承りたいが、いかがでしょうか? もちろん軍事上の機密に関わることなので、断ってもそれはそれで正しい判断と受け取っておきます。いかがですか?」

 船長はしばらく考えていたが、「申し訳ない。正直、航海ができるかどうか不安があった。ご厚意に甘えさせていただきたい」と言って頭を下げた。


「承知しました。ではこの船はしばらくこちらで預からせていただきます。修理には最善を尽くしますので、どうかご安心を」

 そうして、船長とギル・マーレンは固く手を結んだ。


 さらにギル・マーレンはカミーユの背後にいるハイドライドとイースを見つけると、深々と頭を下げた。二人も慌てて頭を下げる。


 カミーユらは、船を乗り替えて、ギル・マーレンと一緒に王都ガナッシュへ向かうことになった。破損した船はベッカーの船団がデグレトへ引っ張っていく。


 さて、というところでカミーユは大変なことに気付いた。

「しまった。リーファとマキの存在を忘れていた」

次回、第2章のラストとなります。

よくもここまで書いたなと自分でもびっくりしてます。

長かったようなあっという間だったような。

第3章はブエナビスタ王国でのストーリーとなります。


次回、「もっと一緒にいたい」をお届けします。

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