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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第86話 砲撃vs魔法

 海流をかき分けながら、スピードを上げて潜る。懐かしい感覚。

 重力を感じない世界がこんなにも心地いいなんて、下半身から尾びれに力を加えながら、軽やかに水の中を進んでいく。

 全身の細胞が久しぶりの海に喜んでいる。

(ああ、帰ってきたわ)


 海面から何かが後を追ってきた。

「クエッ、クエッ、クエー」

 イルカのシェルがリーファの元に飛び込んできた。

「シェルー。元気にしてたー」

「よしよし」

 シェルの頭から背中、お腹を撫でてあげると、うれしそうにひっくり返って喜ぶ。

「そうだ。ごめんシェル。遊んであげたいけど、ゆっくりしていられないの」

「王宮に用事があるから、ついて来て」

 リーファは、イルカを伴って、さらに深く潜っていく。


「着いたわ」

 リーファは王宮にたどり着くと、入口の方へ回った。

 見慣れた景色のはずだが、何故か今まで以上に敷居の高さを感じる。

(考えても仕方ない)


 早速、受付に行き、氏名を告げ、女王への謁見の申請をする。

 予約なしで訪れたため、女王に会えるかどうか分からない。

 固唾を飲んで、返事を待つ。


 受付の人魚が奥から戻って来てリーファに告げる。

「女王様への謁見の許可が出ました。どうぞ、こちらへ」

 リーファは案内の人魚の後をついていく。


「ここで女王様がお待ちです。どうぞ中へ」

 ドアの前でそう言うと案内の人魚は、受付の方へ戻っていった。


 閉じられたドアを見つめる。

 ノックをすると「どうぞ」と聞こえてきたので、ドアを開けて中に入る。


 あまり広くない部屋の中央に女王ルナがいた。

 椅子に腰かけている。

「久しぶりですね。リーファ」


 女王に向かって挨拶する。

「女王様もお変わりなく、ご健勝のご様子。なりよりでございます」

「堅苦しい挨拶は良いわ。あまり時間がないのでしょう。用件を聞きましょう」


「はい。まずはご報告を」

「例の金属の箱についてですが、ご推察の通り、発信機でした。発信機をこの海に落とすことは、ソロモンの宰相グロティアの指示で過去6回、実行されています。グロティアの執務室に報告書が残っていたので、内容を確認しましたが、こちらの知りたい情報については何も書かれていませんでした。ただ、この件は人間達にとっても成果はないに等しく、今後の継続についても懐疑的な内容で結論づけられていました。そういうことで現時点での進捗としては、発信機を落とした目的と何故この場所を選択したのか、そこは未だ謎のままです。それとソロモンで政権交代が行われました。それによって首謀者であり宰相のグロティアはソロモンから逃亡しています。後を受け継ぐカノン王女は、この海域の調査に興味はなく、今後発信機がここに投げ込まれることはないと思われます」


 リーファは、一気にしゃべると女王の反応を窺った。

 ルナはリーファの報告を受け取ると、労いと感謝の言葉をリーファに向けた。

「そう。それはよかったわ。ありがとうリーファ。もうあの箱に患わされることはないのですね。スーファにもそのことは伝えておきましょう」

「そのグロティアですが、ソロモンからブエナビスタに向かったと噂が立ってます」

「そうね。ソロモンの大型の軍船が1隻、ここを迂回してブエナビスタへ向かったと報告を受けているから、それがそうなのかもしれないわ」

「はい。できうるならばグロティアを問い詰めて...」

 前のめりになるリーファの気持ちをはぐらかすように、ルナはリーファの言葉を遮った。

「リーファ。ありがとう。私達のために頑張ってくれるのは有難いけど、ミッションのことはいいわ。ひとまず置いておいて、もし追加で何か分かったら、連絡ちょうだい」

「!」

 リーファは何か気に障ることを言ってしまったかと、表情を曇らせる。


「誤解しないで。人間達がこの地に関心を持たなくなったなら、もう放っておいていいってこと」

「この先のことは危険がともなうんじゃない? リーファには無理して欲しくないの。相手が知られたくないと思うことにむやみに首を突っ込み過ぎると、強い警戒感を抱かせることになるし、下手をすると命を狙われるかもしれない。だったら、この辺で手を引くべきだと思うわ。ここまでやったんだもの、ここで手を引くことは全然恥ずかしい事じゃない」

「追い詰められた人間は何をしでかすか分からないもの。ましてや権力の頂点を極めた人間っていうのはある意味冷酷な一面も持っている。ある程度リスクを冒さないと情報を得られないのは、その通りだけど、この場合深入りは禁物だと思うわ」


「...はい」


 ルナの言葉は優しさに満ちている。私を気遣ってくれている。女王としてではなく、親として私を心配してくれている。その心配はよく分かる。分かるけど...。何か釈然としないものを感じる。


「ごめんなさいね。面倒な任務を押し付けてしまって。まだ気になるところはあるみたいだけど、あの箱がここに落とされないようになっただけでも十分な成果だわ。胸を張って。もう後はマキと人間としての生活を楽しみなさい」


(ごめんなさい。お母さん。心配してくれるのは有難いけど、私はこの任務を中途半端で終わらせたくない。この先は今まで以上に危険がともなうかもしれないけど、やり通したい。はいと返事はしましたけど、私は私の意志で行動します。ごめんなさい、お母さん。心配してくれてありがとう)


 リーファは目の前の母を見つめながら、心の中で詫びていた。そんな私を尚も愛してくれている母に強い感謝が沸き起こった。


「どお? 人間界の生活は?」


 そんな娘の葛藤を知ってか知らずか、母は話題を変えて問いかけてくる。

「はい。いろいろなもの、出来事が新鮮で毎日楽しいことばかりです。それと私には考えが及ばないような、人間には人間の苦労があって、一緒に悩んだりもするのですが、そう言ったところの経験もとても勉強になります」

「しばらく見ない間に立派なことを言うようになったわね」

 ルナは目を細めた。


 報告も済んだし、この辺りが潮時として、リーファは女王に挨拶をした。

「今日は忙しい所、謁見くださりありがとうございました」

「私の方こそ、リーファの元気な姿が見られて、ほっとしたわ」

「では、人間界に戻ります」

「うん。リーファ。思いっきり楽しんでらっしゃい。マキにもよろしく伝えといて」

「はい。では失礼します」


「あっ、待ってリーファ。これを持っていきなさい」

 女王から、黒い塊のついたペンダントを渡される。

「これは、黒珊瑚?」

「そう。黒珊瑚と言えばほとんどが浅瀬で採れるものなんだけど、これは深海のある場所でしか採れない珍しい黒珊瑚。光沢が普通の黒珊瑚と違うでしょ」

 そう言われて、手渡された黒珊瑚をマジマジと見る。

(本当だ。こんなに美しい黒珊瑚は初めて)

「困った時に何かの役に立つはず。お守りとして持っていきなさい」

 リーファは手渡された黒珊瑚をぎゅっと握りしめる。

「ありがとう。お母さん」


 優しく微笑んむ女王を目に焼け付けて、リーファは部屋を後にした。


 リーファは、金属の箱の件で、何か引っかかるものを感じていたが、それが何であったのか、理解した。


「グロティアが地下資源の存在を知っているかどうか」


 それによって今後の対応が180度変わってくる。女王は「任務はいいから思いっきり楽しんで」と言っていたけど、それだけは確認しておかなければ。それを突き止めてこそ、今回のミッションがコンプリートしたと言える。          


 王宮の入口に戻ると、シェルと一緒にマキがいた。

 マキは人間の姿より人魚でいた方が活き活きして見える。立場を変えれば自分もそんな風に見えるのだろうか?


「リーファ。女王様には会えた?」

「会えた。ミッションの件、報告は済ませたわ」

「そう。よかった。それで? 何かおっしゃってた?」

「うん。ミッションの件は程々に、後は人間界の生活を楽しみなさいって」

「OK」


「マキは? カレンと話はできた?」

「うん。事情を話して嵐はストップしてもらった」

「だけど...」

 マキの表情が曇る。

「だけど?」

「早く戻らないと。かなりやばいことになってる」

「やばいことって?」

「私達の船が敵に囲まれて、ボコボコにされてるの。このままでは沈んでしまう」

「本当?」

「うん。カレンのところで泡に映し出された映像を見せてもらったけど、かなり追い詰められてる」

「とりあえず、戻ろう」

「うん」


 リーファはマキと一緒にいるイルカのシェルに話しかけた。

「シェル。もうちょっとオルファお姉ちゃんとお留守番してて。今度帰ってきたら思いっきり遊んであげるから」

 寂しそうな目をしたシェルを思いっきりギュッと抱きしめると、2人は海上に向かって勢いよく泳ぎだした。


 海中から海上を見ると、1隻の船の周りに無数の波紋が浮かんでは消え、浮かんでは消えているのが見える。デグレトの海から昔見た花火を思わせる光景だ。そして、海中にはいくつもの船の砲弾がゆっくりと沈んでいくのが見える。


「やばい感じだね」

「帰りの船がなくなるのは困るね」

 海中で2人の人魚が、絶体絶命の船の様子を窺う。


「やる?」

「...やろう」

 リーファが恐る恐る声を掛けるとマキが乗ってきた。


「でも、魔法は禁止って」そう言ってマキの様子を窺う。

「ここは海の中よ。人間界では禁止だけど、海の中なんだから、問題ないでしょう」

「理屈はそうだけど。いいのかしら?」

「いいの。いいの。魔の海域と呼ばれているくらいだから、多少のことは、勝手に不思議現象とみなしてくれるわ。何より私達のためにソロモンまで行ってくれたみんなを見殺しにしていいのかしら?」


 慎重なはずのマキが、いつもと違って積極性を見せる。

 マキがてっきり止めに入るものと思っていたリーファは、一瞬呆気にとられたが、監視役とも言えるマキがノリノリなら自分も感情のままに動くだけだ。


「いいはず...ない!」

 リーファが返事をする。


「ああ、でも派手なのはダメよ。水虎刃ギロチンカッターとか嵐撃水龍スクリュートルネードみたいな人間を驚愕させるような見た目が派手なのはダメ。あくまで目立たないようにこっそりと始末しましょ」


 そこはマキに釘を刺される。ちょっとやる気を削がれてしまったが、「了解」と返事する。

(大ぴらに魔法を使えるだけヨシとするかっ)


 リーファとマキは二手に分かれ、カミーユ達の乗る船との距離を縮めているソロモンの船に向かって行った。

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