第82話 ソロモンの希望
ソロモン国王都ギガスレーテの港で、カミーユ王子一行とカノン王女、キスカ・レンが向かい合っている。ニースはまだ安静にしていないといけないらしく、この場には来られなかった。
ロカの子供達も来るという話だったが、まだ姿が見えない。
カミーユがカノン王女に挨拶する。
「では、いろいろお世話になりました」
「こちらこそ」
二人は固く握手を交わした。
続いてリーファが満面の笑みを浮かべて声を掛ける。
「昨日のご飯、超美味しかったわ」
「ははは。うちのコックが腕によりをかけて作った料理だったからな。満足してもらえて私も嬉しい。コックにもそう伝えておく」
「うん」
カノンは手を差し出す。リーファは差し出された手をしっかり握り返す。
「リーファ...」
「しっかりね。カノン。いろいろありがとう」
リーファはニッコリ笑って、カノンと抱き合った。
お互いの温もりを感じ合う。
「こちらこそ、ありがとう。いつの日かまた会いましょ。リーファ」
続いてキスカと手を握り合う。
キスカは心配そうな顔でリーファを見つめる。
「キスカ...⁉」
「東の海域で海軍の軍船と海賊船の小競り合いがあったそうだ。もしかすると...」
リーファはキスカに、それ以上言わなくていいというジェスチャーを示した。
言わんとするところの察しはついた。自分達がグロティアを取り逃がしたばかりに、こちらに迷惑をかけることになってしまった。それを申し訳なく思っているのだろう。
面倒は面倒だが、逃がしてしまったことをこの場でとやかく言い合っても始まらない。キスカもあの場合では最良の判断だと思って行動していたのだから。
「大丈夫。そうなったらそうなったで何とかするから。そんなに心配しなくていいんじゃない」
キスカの心配を払拭させるため、敢えて明るく言い放った。
(もう。最後の最後まで真面目なんだから)
「ほら、ロカの村の子供達がこっちを見てるよ。笑顔。笑顔」
リーファが顔を向け、手を振ると子供達が集まってきた。
途端ににぎやかになる。
「お姉ちゃん!」
「みんな! 元気だった?」
「村が憲兵隊に焼かれたって聞いたけど」
「うん。村は跡形もなく燃えちゃった。けど、全員無事だったから大丈夫だよ。みんなで話して、もう一度あの場所に家を作ることに決めたんだ。もっとたくさん家を建てて、みんなが住める大きな村を作るんだ」
「そお」村を焼かれても前向きで元気な子供達に目を細める。
「キスカさんが、新しい村の図面を書いているところだよ。もう憲兵隊に焼かれることはないって、キスカさんが言ってた。ニースさんも怪我が治ったら手伝ってくれるって」
「そっか。みんな落ち込んでいるんじゃないかって心配してたけど、元気な顔が見れてよかった」
「それからね。ああ、そうそう。クロッキーが皆さんによろしくって。クロッキーはボージャンさんの家の門の修理係に任命されたんだ。お兄ちゃんお姉ちゃん達にとても会いたがってたけど、忙しいみたいで」
「そっか。じゃあ、クロッキーに伝えといて。ボージャンさんが満足するような立派な門を作ってねって」
「分かった。伝えておく」
リーファと子供達の会話にマキも混ざって、共にじゃれ合いながら、別れの時間を名残惜しんだ。
前回の別れと違って、子供達の目は希望に輝いている。未来ある子供達が希望を持って生きられる世の中になって欲しいとの願いが叶ったことが、何よりうれしかった。
一通り別れの挨拶を済ませ、船に向かおうとすると、カノンがカミーユを呼び止めた。
「カミーユ。大事なものを預かっていたんだ。危うく忘れるところだった」
そう言って、カノンは封書をカミーユに手渡した。
「ソロモン国王からの親書だ。ブエナビスタ国王へ渡して欲しい」
カミーユは封書を恭しく手に取ると、大事そうに持っている荷物にしまい込んだ。
皆で一斉にお辞儀をして船に向かう。
「気を付けてねー」
「さよーならー」
手を振る子供達に、振り向いて手を振り返す。
「みんなも元気でねー」
船の上から見下ろすと、手を振るカノンと目が合った。
「あんまり無理しちゃダメだよ。カノン」
「心配するな。大丈夫だ」
手がちぎれんばかりに手を振っていると梯子が上げられ、船が動き出した。船がゆっくりと岸から離れていく。
潮風に髪がなびかせながら、久々の潮の香りを堪能する。
(いい香りだわ)
「はあ。海最高」
「マキ。ブエナビスタ戻ったら、ちょっと海で泳がない?」
隣で海を見ながら、リーファ同様にやけ顔のマキに声をかける。
「いいわねえ。なんか肌も荒れ気味だし、潤い大事よね」
珍しくマキもノリノリだ。
女子2人は久々の海にはしゃいでいた。
次回、「第83話 カミーユの憂鬱」をお届けします。




