第7話 人間界への憧憬
アンデルセン童話「人魚姫」をリアルに今風な物語として描いてみました。世界は愛で満ちている、そんな愛のあふれる物語を描いています。
リーファは末っ子ということもあり、5人の姉からとてもよく愛されていた。リーファもそんな姉達が大好きで、簡単な仕事から難しい仕事まで、よく一緒について手伝っていた。そんな姉達の力になれることが、リーファには殊の外、うれしかった。
オルファの教え方は、的を得ていて分かりやすかった。
元々リーファは理解力がない訳ではなく、記憶に定着してないだけなので、覚えやすいように教え込むだけで、あっという間に吸収していった。
勉強が一段落すると、オルファが「そう言えば」と言って話しかけてきた。
「この試験が終わったら、いよいよじゃない?」
「何? いよいよって」
「人間界での修行」
「修行なの? 研修じゃなくて」リーファが聞き返す。
「嘘。ごめん。研修」
「うわー、びっくりした。修行なんて心臓が止まるかと思っちゃったよ」
「大げさね。テストの点が悪いと、人間界への研修に行かせてもらえないと思って焦ってたんでしょ」
「う、うん」
「懐かしいな。人間界。私も4年前行ったな」
「どうだった?」
リーファは期待に満ちた目で、姉を見つめた。
「最悪だった」オルファは、さらっと答える。
「えっ!」
リーファは目を白黒させて、この4つ年上の姉の横顔を見た。
(聞き違いかな? サイアクって言った?)
人魚の王族は、18歳になると、人間界に研修に行く習わしになっている。人魚の世界とは違う進んだ文明、社会の在り方を実際に体験して、王国の発展に活かすことを目的としている。ルナの5人の娘も18歳で人間界の研修を経験しており、今年は18歳になったリーファが、行く番だった。
「ああ。それなりに楽しいこともあったよ。地上にはきれいなお花が咲いていたり、素敵な音楽が聴けたり、何よりも食べ物が美味しかった」
「うんうん」リーファは目を輝かせて聞いている。
「私には合わないと思ったけど、行ってみると案外気に入るかもしれないから、期待してていいと思うよ。地上の人間界には、市場ってものがあってね...って。おっともうこんな時間。ごめん、リーファ。続きはまた今度」
「人間界研修の話は、女王から直接話があるはずだから、それまでしっかり勉強を頑張りなさい。じゃあね」
そう言うと、四女のオルファは慌ただしく部屋を出て行った。
「人間界かぁ。どんなところなんだろうな」
「お花が咲いてて、音楽が素敵で、食べ物が美味しいのか」
リーファは人間界の想像を膨らませる。
『こんな点数を取ってるようでは、到底人間界へなど行かせられません。心を入れ替えて勉強しなさい』
その時、女王であり、母であるルナの厳しい言葉が脳裏に響き、同時に楽しい妄想は霧散した。
(ううっ、そうだった。まずは勉強を頑張らないと)
リーファは、教科書とノートに目を移し、先程オルファに教えてもらった箇所をもう一度書き写す作業を始めた。一心不乱に書き込みながら、勉強が少しは楽しいと思えるようになってきた。
本作品をお読みくださり、ありがとうございます。
寒さの中、夜が明けて、朝日が部屋に差し込み、徐々に陽射しが温かみを増す。日が落ち始めると徐々に気温が下がり、やがて長い夜が始める。当たり前の1日のサイクル。そんな1日に想いを馳せてみました。自分がこの世界に存在することを思い切り感謝して、また1日を頑張ってみようと決意を新たにしました。
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では、次回1週間後に更新します。