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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第67話 王女救出隊

 キスカが説明する。

「宰相のグロティアには、シュラという切れ者がついている。シュラに感づかれると非常に厄介だ。できれば蚊帳の外に追いやりたいのだが...」


「シュラ...」

 シュラの名前を聞いて、マキが眉をひそめた。

 マキの表情の変化を気づいたリーファが声をかける。

「マキ。何かあった?」

 マキは慌ててかぶりを振る。

「何でもない。気のせい」

 リーファは尚も気になったが、マキがそのまま口をつぐんでしまったので、そのままスルーすることにしたが、何かしらの事情がありそうな雰囲気を感じていた。


 王女救出のキスカチーム8名は、ガレージを出ると夜霧の中を慎重に移動しながら、難なく目的地にたどり着いた。


 留置場は牢獄に入る前の一時的な施設と聞いていたが、建物は思ったより大きく頑強で、小さな城と形容できる程のものだった。実際の囚人を収容する牢獄は山間奥深くと海上の孤島、それぞれに大きいものがあるらしい。牢獄は警備が厳重で近づくことすら難しいという。もし牢獄に収容されていたならば、この人数での救出は到底不可能であったろう。


 門の入口に守衛が立っている。

 守衛のくせに緊張感がない締まりのない顔つきをしている。その守衛にイースが近づいて声をかけた。キスカチームは全員がソロモン兵の恰好に変装している。

「グロティア様から、この濃霧の中警戒を厳しくするよう言われて、我らが派遣されることになった。状況を確認後、我らも警備の任につかせてもらう」

「所長からはそのような連絡は受けてないが...」

 守衛は事前の通達がないことを理由に受け入れを拒もうとする。

 イースは首を傾げて「はて?」という顔をしてみせる。

「なるほど忘れているのだろう。なんせ突然の霧だ。首都の物流がてんやわんやで、そちらの対応で忙しそうだったから」

 守衛は半信半疑ながらイースの言葉を受け入れた。

「念のため、身分証を拝見させてもらう」

 イースは8名分の偽の身分証を渡した。

 守衛は身分証に目を通すと「どうぞ」と言って許可をくれた。即席で作った身分証だったが、問題なく通ることができた。

 直後にキスカが守衛を背後に回り込み、手刀で急所を突いて気絶させた。そのまま縄で縛り、口にガムテープを貼り付ける。そして、ニースの部下に留置場の守衛として留まるように命じた。ニースの部下が守衛の立っていた場所に屹立する。


 残りの7人の内3人が留置場の奥に向かう。4人が留置場を出て霧の中何処へと去っていった。3人は留置場を速足で進む。途中何人かの兵士とすれ違ったが、全く疑われることなく通り過ぎることができた。


「異変が起こっていることを知った時には全て終わっている、それが理想だ」事前の話し合いの場でイースがそう言った。その意見にキスカを始め、皆が同意した。王女救出は、相手側に発覚されないことを最重要ポイントに計画を練られている。

 今のところは完璧な流れになっている。


「我々はグロティア様よりここの特別警備に派遣された者だ。王女の所在を確認させて欲しい」と事務所で責任者と思しき者にキスカとイースが掛け合うと、「守衛から連絡のあった者達だな。聞いている」とそのまま王女の囚われている西棟の特別室に案内してくれた。

 特別室前には警備の兵士が2人立っていた。

 警備の兵士に敬礼すると、敬礼で返してくる。

「変わりないか」責任者が尋ねると「はい。変わりありません」と答えた。


 その時、突如として警報を告げるベルが鳴り響いた。


「何事だ」責任者が慌てて事務所へ戻っていく。

 警備の兵士は一瞬動揺したが、落ち着きを取り戻し、所定の位置で姿勢を正した。それを確認すると、キスカとイースも責任者の後を追って戻っていく。館内をベルがけたたましく鳴り響いている。3人が事務所に着くと、先程の責任者がスタッフを叱りつけていた。どうやら誤報のようだ。


 イースが「隊長。警報の件、王女の護衛の者も気にしていたので、誤報だったと伝えておきます」

 隊長は一度こちらを向き、「ああ、そうしてくれ」と言うと、スタッフへの叱責をそのまま続ける。

「承知しました」とイースが返すと、3人は先程案内された王女の囚われている部屋へ向かった。


 護衛の2人が姿勢を正したまま、入り口に立っている。

 駆け足で駆けつけると、開口一番「王女が脱走したらしい。至急確認せよとのことだ」と2人に向かって言った。


 2人は、まさかという顔をしていたが、すぐにドアの小窓を開け、中を確認する。2人は交互に小窓を覗きこんで中を見ていたが、見る見る顔が蒼白になっていく。

 それを承知で、イースは2人に声をかける。


「王女は? いないのか?」


 2人は「いない」と半ば呆然とつぶやく。

「とにかく鍵を開けて部屋を確認しよう。隊長への報告はその後だ」

と言って、イースは鍵を預かり、部屋の鍵を開けた。

 その途端、イースとキスカは護衛の2人を抑え込み、口にガムテープを嵌め、手足を縄で縛って自由に動けないようにした。


 部屋の中から王女が姿を現した。


「キスカ。よく来てくれた」

 そう言ってキスカの手を握り、次いでイースの手を握って同じように「よく来てくれた」と労った。

 そして、手足を縛った護衛の元へ行き、縛られている縄を切った。

「大丈夫なのですか?」

 キスカが心配そうにつぶやく。


「ええ、この2人はグロティアの命令でというより私の身の上を案じて、こうしてここにいてくれていたのです。信頼できる者達です」

「先程も、キスカ・レンが現れたことをそっと教えてくれました。知った上で知らぬ振りをしてくれていたのです」

「そうでしたか。では私も信頼することにします」

 言葉とは裏腹にキスカは緊張を解かない。表情を硬くしたままだ。


 そして、そこにマキがやってきた。

「うまくいったみたいですね。では私が王女の身代わりとして中に入ります」2人は部屋で着ている服を交換すると、マキをそのまま部屋に残して、兵士の服に着替えた王女が部屋から出てきた。

「では、王女。城へ急ぎましょう。グロティアを排する機会は今しかありません。今しか...」

 キスカはカノン王女に必死の視線を投げかける。


 王女は、キスカの視線を受け止めると、自分に言い聞かせるように静かに言った。


「覚悟を決めろ、と。そういう段階なのですね」

今日は立春ですね。

立春は二十四節気において春の始まりであり、1年の始まりとされる日です。


まだまだ寒い日が続きますが、春の息吹を感じながら過ごしてみるのも楽しいかもしれません。


次回、「覚悟を決めろ」をお届けします。

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