第6話 海底の王国
アンデルセン童話「人魚姫」をリアルに今風な物語として描いてみました。世界は愛で満ちている、そんな愛のあふれる物語を描いています。
海に落ちた王子を人魚が助けた場面から、8年後の世界です。
-8年後 アクアマリン王国-
「いやあぁぁぁ」
リーファは自分の答案用紙の点数を見て、悲鳴を上げた。
「まずい、まずい、まずい、まずい」
「こんな点数、見せられないわ」
「海に流してしまおうかしら」
「ダメダメ。誰かに拾われたら、もっとみっともない」
「どうしよう」
「リーファ。何のコント?」同級生のソフィアが聞いてくる。
「別にコントの練習をしている訳でなく...」
「分かってるわよ。テストの点が最悪だったんでしょ」
「そう」
「んで、何点だったの?」
リーファは恐る恐るテストを開いて見せた。
ソフィアは驚いた顔を見せる。
「いや、これは深刻だわね」
「深刻って言わないでー」
「どうするの?」
「私が聞きたい」
「仮にも王女様だし、落第ってことはないと思うけど」
「何故、何故、何故、何故。お姉様達はみんな成績優秀なのに。私だけ頭が悪いなんて。世の中どうかしてるわ」
「あんたの頭がどうかしてるのよ」
人魚姫リーファが嵐の海で王子を助けてから8年が経った。8年の時を経て少女は美しく成長していた。
ソフィアは肩をすくめる仕草をしながら大きく息を吐いた。
「全く。世話が焼けるわね」
「えっ。助けてくれるの?」
「助けません。自分の始末は自分でしなさい」
「ついて来て。先生のところに行くわよ」
「分かった。点数の上乗せの交渉をするのね。先生の弱みを握っているとか」
「違うわよ。本当、能天気ね」
「補習の交渉。補習をして再テストをして、ちゃんと点数を採る。それしかないでしょ」
「えー、補習やだ」
「やだじゃない」
「いいから、行くわよ」
「はーい」
あきらめたように、リーファはソフィアの後に続く。
職員室でリーファは、教師に事情を説明し、アドバイスを求めていた。
「分かりました。リーファ。私としてもなるべく穏便に済ませたいと思っていたところ、あなたの方からそういった提案があるとは、助かります。では、明日と明後日の午後、マンツーマンで追加授業を行いますので、教室にいらしてください。それまでは今回の点数は保留にしておきます」
「ありがとうございます。先生、では、よろしくお願いいたします」
職員室から出てきたリーファにソフィアが近寄る。
「どうだった? リーファ」
「補習してくれるって。よく来てくれたって先生喜んでた」
「よかったね。リーファ」
「私も応援するから、一緒に頑張ろ」
「うん。ありがとう、ソフィア」
友達のソフィアの励ましにリーファは涙ぐむ。
「さっ。帰ろ」
二人は手をつないで、潮流に豊かな髪をなびかせながら、海中に泳ぎだした。
「ただいま」
玄関を開けると、イルカのシェルが飛ぶように泳いできて、リーファにすり寄る。
「シェル。ただいま。いい子にしてた?」
そう言って、シェルの頭と背びれをなでた。
「リーファ、おかえり」
四女のオルファが、帰ってきたリーファを見つけて声をかけてくれた。
「オルファ姉ちゃん。ただいま」
デグレト島の沖合、海底の岩場に人魚族の住処がある。
人魚族は、総勢100名ばかりの少数種族で、海中を自由に動き回って生活している。
人魚達は、人間と同等の知能を持ち、小さいながらコミュニティを形成している。
その中で、王族と呼ばれる特別な地位にいる人魚は、人魚族を束ねると同時に、海中の秩序を整えたり、問題を未然に防ぐ等の役割を担い、皆のリーダーとして尊敬される存在になっている。
今はルナが、女王として、人魚国の統治をしている。
人魚は女系種族である。人魚族のほとんどは女性で、男性は女性の2割以下しか存在しない。男の子が生まれるのは稀なため、男の子が生まれた場合にはとても重宝される。しかしながら、男性はほとんどが短命なため、人魚族の支配は代々女性が行っている。
女王の子供も例外ではなく、生まれた6人の子の全てが女の子だった。
長女 スーファ
次女 サイファ
三女 エルファ
四女 オルファ
五女 カラファ
六女 リーファ
長女と次女は既に、女王の手伝いとして、国や海の統治に関与している。三女は、魔法の研究に没頭している。数日間研究所に籠りきりの状態も珍しくない。四女は、政策や意見の違いで対立することの多い長女と次女の間を取り持ったり、国民に女王の意志や政策を分かりやすく説明したりと調整の役割で走り回っている。五女は医者を目指すため、特別に学校に残って医術、薬学の勉強をしている。六女は学生として、勉強に勤しみながら、時々姉達の手伝いをしている。
人魚は、人間が持ちえない独自の能力(魔法と呼ばれている)を有しており、海での生活を魔法の力によって可能にしている。中でも王族は代々魔力が強く、その力を自分のためだけでなく、海の秩序の維持のために使っている。
リーファは、4つ年上の姉をじっと見つめて言った。
「オルファお姉ちゃん。私ってバカなのかな?」
「何? いきなり。どうしたの?」
「実はね。学校の成績があまりよくなくて」
「成績? 授業についていけないの?」
「授業にはついていけなくないんだけど。テストの点数が良くないんだ」
普段から明るいリーファが、いつになく元気がない様子を見て、オルファも真剣に考えこんだ。
「なんで、テストの点数が採れないか。都度見直しとかやってる? 復習! もしかしたら、やりっぱなしで終わってない?」
「見直しは...やってない」下を向いて消え入るような声で答えた。
リーファは日ごろのことを思い返していた。授業でもテストでも終わったら、終わったことがうれしくて、ホッとしてしまう。そのまま遊びだったり、別のことだったり、次のことを始めてしまい、終わったテストを顧みるなんてことはほとんどして来なかった。
「そういういところよ。点数が採れないのは。復習をやるかやらないか。その積み重ねが結果になっているの」
姉の叱責にリーファは悲しそうな表情をした。
「気になるなら、ちょっと見てあげるわ。今からどお?」
「えっ。うれしいけど、お姉ちゃんは時間大丈夫なの?」
「少しなら、平気よ。今日はそんなに忙しくないから」
「わあ、ありがとう」
リーファの表情に明るさが蘇る。うれしさが顔から溢れんばかりにこぼれている。
「じゃあ、5分経ったら部屋に行くわね」
そう言ってオルファは微笑んだ。
「うん。よろしくお願いします」
リーファは深々と頭を下げる。
(優しいなぁ。オルファ姉ちゃん)
本作品をお読みくださり、ありがとうございます。
最近カントリーマアムのチョコまみれというお菓子にはまってます。パソコンで書き込みながらも気が付くと口の中に。今日もチョコまみれをもぐもぐしながらの投稿です。
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では、次回1週間後に更新します。