第55話 休息
ドアを叩く音に気付いてマキがドアを開けると、キスカがお盆を持って部屋に入ってきた。お盆にはパンと紅茶が乗っている。
「既に夕食は済んでしまって、こんなものしか残ってないのだが、お腹もすいただろう。適当につまんでくれ」
私達にパンを差し出す。その好意に甘えて、各々手を伸ばして、お盆のパンを口に運んだ。カミーユの分は別にして取っておく。
「さて、何から話すか」
キスカは落ち着いた様子で話を始める。
「お前たちは、マンゴランの店に行っただろう?」
「行った。誰もいなかった」ハイドライドが答える。
「マンゴランは我々とつながりのある店だ」
「ん? バラクーダで会った人からは、そこに行けばブエナビスタに関わる情報が聞けると聞いたんだが...違うのか?」
ハイドライドは自身が認識している内容を口にする。
「違くない。それはそれで合っている。あそこは表は貿易商だが、裏は情報屋であり、我々の同志の店でもある。金次第で様々な情報が手に入るという噂が噂を呼び、店には多額の資金と多くの情報が集まった。ブエナビスタに関する情報も多く寄せられたはずで、闇の貿易の斡旋もしていたから、そういう風に噂されてても不思議ではない」
「で、何故マンゴランに行くと襲われなくちゃならないんだ?」ハイドライドが刺々しく聞く。まだ完全には許してないらしい。
「噂が広がれば当然、政府側もそれを知ることになる。あの店は憲兵隊に目を付けられていた。憲兵隊を操っているのは、国王ではない。大臣のグロティアだ。彼は憲兵隊を使って自身の権力を絶対のものにしている」
「我々は直近で、グロティアに対しての反撃を計画している。国の荒廃はグロィアが権力を握っていることに起因しているからだ」
ハイドライドが記憶を探るようにして言った。
「そう言えば、ニースも行動を起こすとかそんなこと言っていたな」
キスカは大きく頷いて、話を続けた。
「そこで、我々はその前に店を閉鎖することに決めた。店の閉鎖は同志には伝わっている。そうなると必然、閉鎖後に訪れる人間は同志以外の人間となる」
「いや、待て。確かに同志は来ないだろうが、一般の客の可能性だってあるだろう。店を訪れた客イコールグロティアの者とは短絡的にすぎないか?」
「事情を知らなければそう思うだろう。直近、ロカの村や他にも例があるが、憲兵隊の動きが活発化してきている。我々が直近で行動を起こすことを察知して、より詳しい情報を掴むために必死になって我々をつけ狙っている。だから、我々としてもどこかのタイミングで、彼らの動きを抑制させる必要があった」
「実は我々にとって最も厄介なのは、憲兵隊ではない」
「最も厄介なのは、一般人のふりをしながら情報を嗅ぎまわる奴らだ。今まで幾度となく先回りされては仲間を失ってきた。事を起こす前に、そんな彼らを脅して我々をつけ回す行為をあきらめさせる必要があった」
「なるほど。そこにのこのこ現れた俺達が、憂国の士をつけ狙うグロティアの手の者と勘違いされた訳だ。そういうことか」
「我々の目的はあきらめさせること。命を奪うつもりは最初からなかった。とは言え、仲間に怪我を負わせてしまったことは、正直申し訳ないと思っている。先程も謝ったが、改めてこの通り謝罪する」
そう言って深々と頭を下げた。
「分かった。もういいよ。あいつが目を覚ました時、もう一度謝ってくれればそれでいい」
「納得はできないけど、襲われた理由は理解できた」
「えーと。ロカの村で起こったことを話すんだったな」
ハイドライドは、ロカの村での出来事をキスカに話して聞かせた。リーファとマキも所々口を挟んだ。
「そうですか。みなさんはロカの村を守ろうと努めてくれたんですね。子供達を守るために戦ってくれたんですね。ありがとう」
キスカはロカの村の出来事を聞いて、初めてうれしそうな表情をした。
「では、私はここで失礼する。自分の家だと思ってゆっくり寛いでください。廊下の突き当りに見張りがいるので、何か用があれば、言いつけてください」一通り話が終わると、キスカはそう言って部屋から出て言った。
「ふー」
リーファは大きく息をして、緊張を解いた。
「襲われたのは釈然としないけど、これでカミーユが無事回復すれば結果オーライかな」ハイドライドが誰にともなく言う。
「そういうことになるのかなあ。あのお店が閉鎖前だったら、重要な情報を聞き出せなかったかもしれないし、閉鎖後時間が経過していた状態だったら、路頭に迷う可能性もあったわけだから。結果だけを見るとよかったのかもしれないけど、ちょっと手放しでは喜べないわね」
リーファの発言にマキも続けた。
「怖かったし、本当どうなるかと思った。こんな経験もうコリゴリだわ」




