第50話 王都ギガスレーテ
ソロモン国王都ギガスレーテ
ソロモン国の政治経済の中心都市で、その規模は他の地方都市や周辺都市とは比べ物にならない。街の中心には、国王の居城であるギガスレーテ城があり、町全体が防壁で囲まれた城塞都市である。海に面した場所には天然の良港もあり、貿易が盛んだったが、戦争が始まると軍に接収され、軍港としての役割を担うようになり、大小の軍艦が並ぶ港へと変貌している。
残った3人は、クロッキーに意見を聞きながら、地図を指さし、ギガスレーテまでの道順と、ギガスレーテの街並みを頭に入れることに余念がなかった。
翌朝、朝食後にクロッキーと別れ、一行はギガスレーテに向かって歩き出した。
「結局、王都まで行かないと有効な情報は得られないということだな」ハイドライドがぼやく。
リーファとマキの体力を考慮して、一行はゆっくりとした速度で歩いている。
歩きながら、カミーユはリーファとマキにギガスレーテとソロモンの歴史を聞かせた。
元々、ソロモン国の辺りは、小さな城塞都市国家が林立していたが、今のバース国王の祖父ドレイン国王の時に、海軍を強化したギガスレーテ軍が周辺国を強大な軍事力で次々に従えて、強大化したことで大きな国として発展した事実がある。そんな軍事によって発展した国という背景があるので、軍事力に対する意識が高く、広がった地域へ内政を充実させていた時も、軍事を決して疎かにはしなかった。
バース国王就任後、地方のインフラ整備や文化育成に力を注いでいたが、跡取りの死をきっかけに、内政から軍事による周辺国の侵略に舵を切り替えている。
周辺国は、強大な軍事力を持つソロモンに対して、同盟を組みながら対抗している。ブエナビスタへも同盟の誘いがあったが、その時の使者の態度が横柄だったことを国王は嫌って、同盟には参加せず、中立を守ることにした。そして、その頃勃発したデグレト海戦での勝利が、中立という微妙な立場を可能にしていた。
リーファとマキは、「へえ」とか「なるほど」とか「そうなんだ」とか合いの手を入れながら、興味深くカミーユの話に耳を傾けていた。
ギガスレーテまでの道は、今までの街道と違って、馬車や騎馬の往来が激しい。王都に近づいているという実感が湧き起こる。
何時間歩いただろうか、ようやくギガスレーテの街を囲む城壁にたどり着いた。
城壁を見上げながら、カミーユが呟く。
「着いたな」
「日中であれば、自由に通れるということだったが、一応警戒しておこう。ロカの村の時の憲兵隊に出くわしたら、一巻の終わりだ」
城壁の上では見張りの兵が目を光らせている。
5人は、顔を伏せ、行商人を装って入城した。いざとなれば薬を差し出し、薬の販売で来たことにするつもりだったが、ここでは特に何も言われなかった。
城壁を通り抜けて通りを見る。
さすがに王都だけあって、人の往来が活発だ。
遠くに高くそびえるギガスレーテ城が見える。白を基調とした美しい城だ。
5人が目指すのは、東通りのマンゴランというワイン貿易会社だ。
ここからだと少し距離がある。一旦食事をとって落ち着くことにした。
目についた庶民向けのレストランに入ってテーブルにつく。
リーファとマキは、ややぐったりした様子だ。
カミーユとしては、休憩も入れつつ大分ゆったりした速度で歩いたつもりだったが、女性の体力は男性のそれとは全然違うのだなと改めて感じられる思いだった。
レストランの中は案外広く、様々な客がそれぞれ疲れを癒すように寛いでいた。見回すと、旅装姿の人や荷物を運んでいるらしい人が多い。
ウェイトレスが注文を聞きにきたので、それぞれ食べたいものを注文した。
カミーユは、疲れの見える二人を気にしながら、今後のことを考える。
(目的地までまだ少し歩かなければならない。女性二人にはここで体力を回復して、もう少しだけ頑張ってもらわなければならない)
当の本人たちはメニューを見ながら、これは美味しそうだの、これはどんな料理なのとか、あーでもないこーでもないやっている。疲れていても食への興味は旺盛なようだ。疲労回復に向け栄養を欲しているのかもしれない。
(大丈夫そうだ。きっちり休憩すれば体力も回復するだろう)
二人の様子を見て安堵する。
隣のハイドライドと取り留めのない話をしていると、料理が運ばれてきた。
皆の目が輝く。実際、激しくお腹がすいている。
「いただきまーす」
一斉に目の前の料理にがっつく。
「お腹がすいてたから、超美味しく感じる」
「あまり期待してなかったけど、うまいな。ここの料理」
言いたい放題言いながら料理を食べていると、隣の席が騒がしいのに気が付いた。なんだ?と思って顔を向ける。その服装を見てぎょっとする。即座に顔を戻した。
(憲兵隊!)
正面のリーファとマキの表情も固まっている。
少しゆっくりするつもりだったが、予定変更だ。早々に立ち去ろう。
隣のイースが小声で話しかけてくる。
「大丈夫だと思うが、万が一ってこともある。早めにここを去ろう」
「ああ、なるべく顔を合わせないようにしよう」
会話どころではなく、無言で料理を口に入れていると、隣の席の話し声が聞こえてきた。
「任務終了にカンパーイ」
「何事もなく無事に終わって良かった」
「ほんと、ほんと」
「ククルカン達は運がなかったな」
「憂国の士を狩りに行って、逆に狩られたんじゃ、世話ねえな」
「部隊長激怒してたから、ククルカンはもう閑職行きだろう」
「ご愁傷様。チーン」
「ハハハハハ」
「お陰で、我々に運が回ってきた。憂国の士を見つけ出し、アジトの情報を伝えられれば小隊長から中隊長あるいは大隊長への出世も叶うかもしれねえ」
「小隊長。我々の手で絶対見つけ出しましょう」
大きな声でしゃべっているので何とはなしに聞こえてくるが、聞いていて気分のいい会話ではなかった。
だが、次の一言が事態を最悪の方向に導いてしまう。
「ロカの村を燃やし尽くしたのに、誰も姿を現しませんでしたね」
「ふん。ロカの村は奴らの拠点ではなくなったってことだ。武具も食料もなかったし、我々が行く前に他の拠点に移ったんだろう」
「燃やし損でしたか」
「いや、そうでもない。カスみたいな村だったが、実績はちゃんと我々の手柄として記録に残る。そうやって実績を積み重ねていく。それでいい」
「欲張らないことだ。我々は憂国の士と正面から対峙する愚を犯さない。ゆっくりと奴らを追い詰めていけばいいのだ」
「はい。隊長」




