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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第49話 B2F4

 翌日、先日と同じ酒場に出向くと、同じ席にエルゲラはいた。足元にはジュラルミンケースが置いてある。


「よう。よく来たな。来ないかと思ってたぜ」

「まさか。こんな美味しい話を逃す手はない」

「覚悟を決めたか」

「ああ」

「じゃあ。早速話を進めよう」

「これが、例の薬だ」

 そう言って、エルゲラは足元からジュラルミンケースを持ち上げ、テーブルの上に置いた。

「ここにダイヤルがある。こいつを回して数字を合わせないと、こいつは開かない」

 エルゲラは、人差し指で数字を合わせる。


 すると、ジュラルミンケースは開いた。中には、茶色い布袋が2つ入っている。金貨が入った袋と薬が入った袋だった。

 エルゲラは、金貨の入った袋を開けて見せる。中には大量の金貨が入っていた。イースに確認するよう促したが、イースは首を振った。

「数えなくていいのか?」

「ああ、面倒だ。このままでいい。それに周りの客に見られたくない」

「それもそうか」

 エルゲラは、金貨の袋を閉じて、薬の袋を手に取った。

 薬の袋を開封して、中の薬を取り出す。

 薬は円柱形の瓶に詰められ密封されている。同じものが3つある。


 中身は茶色い粉だ。


 イースが興味をなくしたように、薬を袋に戻すと、エルゲラから1枚の紙が手渡された。


「それが、薬の証明書だ。成分や効用、服用方法が記されている。薬と一緒にそいつを渡せば、本物と照明できる」

 イースは渡された紙に書かれた文字に目を通す。

 その中に記された4つの文字から目を離せなくなった。


 B2F4


(まさか。これは)

 偶然の巡り合わせに戦慄する。

 そうか。バングレーはソロモンからやってきた。


「どうした? 顔が強張っているぞ」

 エルゲラが不審そうにこちらを見ている。

「ああ。どんな薬なのか理解しようと眺めていたら、つい真剣になっちまった。で、何の薬なんだ?これは」

「よく分らんが、精神安定剤らしい。よく効くと評判だそうだ」


「で、これを誰に届ける?」

「昨日、言った通りクエンカという奴に渡せばいい。クエンカはガイル・コナーの部下だ。ガイル・コナーは知っているか?」


「ガイル・コナー?」


「知らないか?」

「いや、知っている。閣僚じゃないか。そんな大物が何故この薬を欲しがる?」

「そんなこと、俺は知らん。その辺りは深く考えるな」


 エルゲラはジュラルミンケースを閉じて、こちらをじっと見据える。

「最後にもう一度聞く、やるかやらないか? 金だけもらってとんずらは勘弁してくれ。こっちの身も危なくなるからな」

「・・・・・」


 イースはしばらく考え込む。

(危ないか。なるほどな。関わらない方がいいかもしれないが・・・・。見過ごすこともできない)


「承知した。薬は必ず届ける」


「そうか、よかった。無事届けられたら、成功報酬もあるそうだ。それでお前の商売も軌道に乗るといいな」

「じゃあな」

 エルゲラは満足そうに席を立つ。


「待て。エルゲラ」

「この薬を依頼主は誰なんだ?」

「俺の口からは言えない。知らない方がお前の身のためだ。忠告だ。余計なことは考えない方がいい」

 そう言って、去っていった。

 テーブルの下には、エルゲラから託されたジュラルミンケースが佇んでいる。


 イースはそのジュラルミンケースを手に持って店を出た。店を出たところでカミーユとハイドライドの二人と合流した。クロッキーとリーファとマキは今日は宿に留まっている。


「カミーユ、ハイドライド。やばいことに足を突っ込んでしまったかもしれない」

 イースは開口一番そう呟いた。


 カミーユはジュラルミンケースに目をやる。

「それが例の薬か」

「そうだ。宿に着いたら詳しい話をする。クロッキーは明日仲間たちのところへ帰らせよう」


 二人はイースの表情と会話の内容から、ただ事ではないことを感じとり、口をつぐんだ。


 そのまま足早に宿に帰ると、リーファとマキを部屋に呼んだ。クロッキーには席を外すよう言ったが、きかなかったので、明日仲間たちのところへ戻ることを条件に同席を許した。


 それぞれが椅子やベッドに腰かけ、テーブルに置かれたジュラルミンケースを眺める。


 イースが、ジュラルミンケースに手を伸ばし、ダイヤルを回すと、カチャッと音がして、ケースが開いた。中には布袋が2つ入っている。

 イースが2つの袋を取り出すと、エルゲラがしたのと同じ説明をみんなにした。


 ハイドライドが、金貨が詰まった袋を手に持ってはしゃいでみせる。

「すげえ重量感だな」

 テーブルに置くとドサッと音がした。


 イースがクロッキーの方へ体を向けて、大量の金貨に驚いているクロッキーに話しかけた。

「クロッキー。半分持っていけ。餞別だ。村の復興資金にでもあててくれ」

 イースが金貨を半分に分けると、布袋に入れてクロッキーに手渡した。

「もらえません。こんな大金」

 クロッキーが恐縮する。

「今までの礼だ。持っていけ」

「お礼にしては多すぎます」


「俺達はブエナビスタの人間だ。他国のお金をたくさん持っていても仕方ないんだ」

 クロッキーは困った顔をしていたが、渋々お金を受け取った。

「分かりました。そういうことなら有難くいただきます」


「さて、問題はこの薬だ」

「一見何でもない普通の薬に見えるが、ここに注目して欲しい」

 そう言ってイースは薬の説明書の一点を指さした。

 B2F4 と書いてある。

「ん。これが何か?」ハイドライドが首をかしげる。

「勘の悪い奴だな」イースはあきれ顔で言った。

「えっ、これって」マキが声を上げた。

「そう。この薬は、ヘルマン・リックの息子や俺のお祖父さんダルクファクトが投与されていた薬と同じものだ。このB2F4という記号に見覚えがある」

「あの薬が何故こんなところに...」リーファが言葉を失う。

「いや、元々ソロモンから来た薬剤師が使っていた薬をバラリスが悪用したものだから、ソロモンに同じ薬があっても不思議じゃない」

 イースは、出航前にリーファとマキにした説明をここでもう一度繰り返した。


「エルゲラからは、ガイル・コナーの部下にこの薬を渡せと指示された」


「ガイル・コナーだと! 王の側近のガイル・コナーか?」

 ハイドライドが驚きの声を上げながら聞き返してきた。

「ああ。俺も思わず聞き返してしまったが、間違いない」

 そうして、イースは顔をカミーユに向けて聞いてきた。


「ガイル・コナーがこの薬を何故欲しがっているか知ってるか? カミーユ。こんな妖しい薬を」

 カミーユは腕を組んで考える。

「分からないな、さっぱり。既に誰かに投与しるのか、これから投与するのか。もし仮に既に投与しているとしても、じわじわと症状が現れるのであれば、余程注意深く意識してないとそんなのは見抜けない」


「そのガイル・コナーという人は、良からぬことを企んでるの?」

 リーファが尋ねる。

「大金を払ってでも薬を手に入れようとしている。断定はできないが可能性は否定できない」イースが答える。

「どうする?」ハイドライドが結論を促すように尋ねた。

「帰国後にガイル・コナーから事情は聴くとして。この薬の製造元とか依頼主は聞いているか?」カミーユが尋ねる。

「聞いたが答えは返ってこなかった。知らない方が身のためだって言われた」

「手掛かりは、そのエルゲラだけか」カミーユが呟いて天井を見上げる。

「尾行してみたら? お店に行けばまたいるかもしれないし」リーファが提案する。


「待って。尾行はするべきではないと思うわ。仮に依頼主や製造元を知ったところで、どうするの? 私達に何ができるの? 不確かなことに首を突っ込むより、確実なところに目を向けて先に進むべきだと思う」

 マキが薬の履歴を追いかけようとする皆の意見にストップをかけた。


 場が一瞬静まり返る。


「まあ、そうだな。マキさんの言う通り。この薬が例の薬だったとして、今それを証明する手立てもないし。それに密航している身で、目立つことはタブーだ」ハイドライドも同調する。


「了解。じゃあ、薬の件は一旦置いておいて、王都ギガスレーテに行きましょ。マンゴランだっけ。ワイン貿易会社。もしかしたら新たな情報が聞けるかもしれないし」リーファはそう言って、皆の意見をまとめると、「ごめんなさい。眠いわ」と言って、マキと一緒に自分の部屋へ引き上げてしまった。


 ロカの村から1日歩きとおしの疲れがまだ残っているようだし、明日も1日歩くことになれば、体力はできるだけ蓄えておいた方がいい。「お休み」と言って先に休んでもらった。

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