第46話 救世主
「やあ、シン(カミーユのこと)」ニースは爽やかに挨拶すると子供達に顔を向けた。
「みんな無事か?」
再び子供達から歓声があがる。
そして、憲兵隊に脅されていた子供に近寄ると、「大丈夫か」と声をかけた。
「戻ってきたのか」カミーユがほっとした表情でニースに話しかける。
「ああ、途中で憲兵隊がこの村に向かっていると聞いて。取るものもとりあえず身内だけを率いて引き返してきた」
「シン(カミーユのこと)。君たちは今朝出発したと聞いたが、どうしてここにいる?」
「異変を知って引き返してきた。君と同じだ」
ニースは少し複雑な表情を浮かべたが、すぐに笑顔で礼を言った。カミーユ達を巻き込んでしまった後ろめたさを感じたのかもしれない。
「そうか。また君たちに救われたな。礼を言う。ありがとう」
そして、ニースは子供達に交じってこちらの様子をうかがっているリーファとマキに顔を向けて手を振る。穏やかさを含めた声で呼びかけた。
「リーファさん、マキさん。子供達を守ってくれてありがとう」
二人は顔を見合わせ、笑みを浮かべると安心した様子で歩み寄ってくる。
カミーユがニースに尋ねる。
「これからどうする?」
「ここも危なくなった。食料と子供達は別な場所に移す」
「そうか」カミーユは伏し目がちに答える。
「何、悲観することはない。近いうちに我々も行動を起こす。それまでの辛抱だ。子供達はここを気に入っている。一刻も早くみんながここに帰れるようにしたい」
「おーい」遠くから声が聞こえる。
その声に向かって手を振る。
「二人とも無事か」カミーユが声をかけた。
「ああ。俺らを追ってきた奴らは全員倒した。そっちもうまくやったみたいじゃないか」
ハイドライドから陽気な声が返ってくる。
ハイドライドが、あれっという顔をして尋ねる。
「ニースか。何故ここにいる」
「いちゃ、悪いか」
「いや。悪いなんて一言も言ってねえし。むしろ」
ハイドライドは、沸き立っている子供に目を向けた。
「みんながお前の登場を喜んでいる」
「しっかし、こんな子供だけの村を襲うとは、たちが悪いな。この国の憲兵隊は」
「済まない。君達を巻き込んで」
「おう。いいって別に」ハイドライドはうれしそうに胸をそらした。
ハイドライドがカミーユに聞く。
「こっちは大丈夫だけど。そっちはどうだ?」
「ああ、全員無事だ」
リーファとマキも怪我一つ負ってない。二人はハイドライドとイースに向け、ピースサインで無事を知らせた。
ニースの目がクロッキーに向いた。クロッキーは恥じ入るように俯いている。
ニースの視線がクロッキーに向いたので、カミーユは先んじて擁護した。
「クロッキーは悪くない。僕らが勝手に戻ったんだ」
ニースはクロッキーに向けていた視線を戻した。
「分かった。クロッキーを責めるつもりはない」
「クロッキー、引き続き道案内を頼む。こんなことになったからには憲兵隊は再度この村にやってくるだろう。そして、血眼で俺や村のみんなを探すに違いない。そこにかち合わないよう、細心の注意を払って進んでくれ。頼んだぞ」
「はい」クロッキーは顔を上げると、元気よく返事をした。
「まったくよー、一体、この国はどうなってんだ? 大丈夫なのか?」ハイドライドがわざとらしくぼやく。
「同感だわ。国王はどうしちゃったの? こういう現状を知ってるの? それとも見て見ぬふりをしているの?」
リーファもたまっていた不満をこぼす。
ニースは自分の剣を鞘ごと握りしめて、悔しそうに語った。
「そう。この国はおかしい。昔はこうじゃなかった。おかしくなってしまった。国王は全く知らない訳じゃない。ある程度は知っている。知っているがどうにもならないんだ」
「どうにもならないわけねえだろ...」
そう言って、さらに何か言おうとするハイドライドをイースが制した。
「やめておけ。この国の事はこの国の者に任せておけ。我々が口を挟んだところでどうにもならない」
ハイドライドはやれやれと言った表情で一歩下がった。
「行こう。僕達には僕達の目的がある」
カミーユがそう言って、出発を促すと「了解」とみんなが後に従った。
「じゃあ、ニース。気を付けて。縁があったらまた会おう」
「おう、シン(カミーユ)も道中くれぐれも気を付けて」
6人は村のみんなに手を振って、自分達の目的に向かって力強く歩き出した。




