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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第44話 少年の涙

 5人は、村を案内される。

 家の補修、運び込まれた食料の管理、畑の管理と開墾、全て子供が行っている。みんな汗まみれ、泥まみれだ。年長者は自分の仕事をしながらも年下の子の面倒を見ている。

 そんな子供達に共通するのは明るく前向きな姿勢だった。本当に一生懸命働いている。こちらから手を振ると、喜んで手を振り返してくれる。


 食料倉庫に行くと、昨日の荷物の仕分けが行われていた。14、5歳くらいのリーダーが、他の子供(6歳から10歳くらいに見える)を指示しながら、忙しそうに荷物を運んでいる。


 リーダーとおぼしき子供と目が合うと、その子は周りにいた子供を連れて挨拶にきた。


「ニースさん、こちらの方々は今朝話していた食料を運んでくれた人達ですね」

「ああ、そうだ」

 ニースが穏やかな表情で頷くとリーダーの少年が前に出て言った。


「遠い所、貴重な食糧をこんなにたくさん運んでいただき、ありがとうございました。これでみんな空腹をしのぐことが出来ます」

 すると、後ろに控えていた子供達も口々に感謝の気持ちを述べた。


 リーファとマキが、一歩前に出て子供に近づき、目線を合わせて話しかけると、途端に小さな子供が寄って来て、二人にじゃれつく。


「こんにちは」

「みんな一生懸命、村のお仕事してえらいねえ」

「食料はみんなが頑張っているから、そのご褒美だよ」

「遠い所ってどこから来たんですか?」

 子供は二人を慕い、二人は親愛の情で子供と接する。

 それは、とても微笑ましい光景だった。


 会話してみると、子供とは思えないほど、みんな実にしっかりとした受け答えをする。自分の感情よりも周囲のみんなへの気遣いを優先する。

 だが、リーファはそんな子供達を見て思った。

 しっかりしている。けど、教育を受けてそうしなければならないと自分に言い聞かせているのだろう。そうやって自分の感情よりも周りと合わせることを優先しないとここでは生きていけないと感じているのではないだろうか? 本当なら、まだ親に甘えていたいし、自由に遊びたい年齢の子供達が自分達のためとは言え、子供らしい感情を押し殺して生活している。そして意識的に笑顔を絶やさないように接してくる。


 そんな子供たちの笑顔の裏にある健気さが、かえっていじらしく感じられた。


 子供達と手をつないだり抱き合ったり、話をしたりしながら、スキンシップを図る。

 まだあどけない子供達、一人一人に寄り添う内に頬にはいつしか涙が流れていた。


「お姉ちゃん、どうしたの? なんで、泣いてるの?」

「えっ、泣いてないわよ。ああ、涙ね。これは欠伸したら出てきたのよ。みんなも経験あるでしょ」

「うん。あるー」

「もう。しょうがねえなあ」

 男の子の内の一人が、リーファの涙を自分の服の袖で、雑に拭う。

「ありがとう。ごめんね」

 リーファは嫌がりもせず、されるがままに任せている。


 カミーユはイース、ハイドライドとともに、二人と子供たちの光景を二つの瞳でじっと眺めていた。リーファの涙が目に焼きつく。


「イース、ハイドライド。もし俺が道を踏み外すことがあれば、遠慮なく意見してくれ」

「わかった」イースは言葉少なに答えた。

「俺達はまだこの国に入ったばかりだ。こんなのは氷山の一角だろう。政治の乱れで真っ先に苦しむのは、子供達や弱者だ。今はこの国の惨状を眺めることしかできないが、いつかきっとブエナビスタだけでなく、ソロモンの子供たちをも守っていけるような強い力とみんなが安心して暮らしていける未来への展望を、俺達が身に着けて政策に反映させていかなければならない」

 カミーユは、二人に言い聞かせるように自分の想いを述べた。

「それは、国民みんなを守りたいと強く願う。そういうことだな、カミーユ」ハイドライドが続ける。

「ああ、そうだ。この光景を決して忘れてはならないんだ」


 その日から、5人は自ら申し出て、村の仕事を手伝うことにした。

 最初は遠慮がちだった子供達も打ち解けるにしたがって、やって欲しいことを遠慮なく言ってくるようになった。

 仕事が終わると、みんなで一緒に食事を楽しんだ。


 滞在3日目に、ブエナビスタの諜報員らしき者を知っているという情報をニースの部下が教えてくれた。場所は、王都に近いバラクーダという街だ。ここからだと歩いて丸一日かかるらしい。


 5人は、その諜報員に会うためにバラクーダの街に行くことに決めると、みんなに別れを告げてロカの村を後にした。

 リーファやマキに懐いていた子供が、別れを惜しんで泣き出してしまう場面があったけれど、年長の子供達が宥めて、最後には笑顔で手を振って別れた。


 ニースは、前日の内にロカの村を去っていたが、自分の代わりにクロッキーという少年を道案内につけてくれた。不慣れなソロモンの道をクロッキーの先導の元、歩いていく。クロッキーはしっかりはしているが、必要なこと以外はしゃべらない無口な少年だ。


 草原の道を歩いていると、爆発音らしき轟音が遠くで聞こえた。

 さっきまで滞在していたロカの村の方から煙が立ち上っている。


 カミーユとリーファが同時に声をあげる。

「何事だ?」

「村の方だわ」

 皆が異変を察知して、警戒を強めた。


 クロッキーは、立ち上る煙から目を逸らすと静かに言った。


「行きましょう」


「行きましょうって言ったって」

 ハイドライドが困惑する。


 クロッキーは首を振る。

「いいのです。このままバラクーダへの道を進みましょう」


「待って!」

 リーファが、先へ行こうとするクロッキーに待ったをかけた。

「戻りましょう。世話になった人達を放ってはおけないわ」

 リーファはそう言うと、目で他の4人に意見を求めた。


「だよな」


 カミーユとハイドライドがうれしそうに同調する。イースは沈黙したままだったが、反対はしなかった。


「クロッキー、俺達は一旦村に戻る。バラクーダに行くのはその後だ」カミーユが自分達の決意をクロッキーに伝える。


「いや、私には皆さんを無事、バラクーダに届ける責任が...」

「いいんだよ。そっちは後でも。世話になった村を助けることが先決だ」

 ハイドライドがそう言って快活に笑う。


「さっさと行こうぜ」


 みんなでロカの村に向かって走り出す。

 クロッキーは、自分達のことより村を救うことを優先する異邦人達の背中を見つめた。


「みなさん...ありがとう」


 クロッキーは目に涙を浮かべて、皆の後を追いかけた。

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