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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第2章 素性を隠す人魚姫と自分の正体を明かすことを躊躇する王子のソロモン潜入編
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第43話 子供達の村

 朝、リーファはゆっくりと目を覚ました。

 鳥のさえずりが辺りでこだまする。

 揺れがない感じに逆に違和感を覚える。

 隣のベッドを見るともぬけの殻だった。マキは既に起きているようだ。


 部屋を出たところで顔を洗って、食堂に行くとマキが食事の準備を手伝っていた。


「おはよう。リーファ。よく眠れた?」


「うん。なんか揺れているのが当たり前だったから。今も感じ掴めないけど。なんとか」


「男子は出かけたわよ。散歩だって。久しぶりの大地がうれしいみたい」


「ふーん」

 そうか、大地に戻れてうれしいのか。

 私はどうなんだろ、うれしいのかうれしくないのか、狭い船から解放されたことはよかったが、海を感じることができないのは、なんかもの悲しい。ソロモンには来たけれど、ブエナビスタもソロモンも私にとって異国であることには変わらない。


 ぼーっとした頭ではあったが、船での生活と勝手が違うことを認識する。


 ソロモンでの生活も航海と同じように順風満帆といって欲しいけれど、きっとそうはいかないだろう。根拠がある訳ではないけれど、そんな気がする。

 そして、ここからは自分達で主体的に行動しないと何も始まらない。


 陽射しが窓から差し込んでいる。外はいい天気だ。


「食事に合わせて戻るって言っていたから、もう戻ってくるんじゃないかな」

「じゃあ。着替えて化粧してくる」


 化粧をして、再び食堂に向かうと、にぎやかな声が聞こえる。

 男子が戻ってきたらしい。

 リーファの姿を見たハイドライドが、手を振って挨拶してくる。

「おはよう。リーファさん」

「おはよう。ハイドライドさん、カミーユさん、イースさん」リーファの声に、カミーユとイースも振り向いて挨拶を交わした。


 男子は晴れ晴れとしたような悩みを抱えたような複雑な表情をしている。


「なんかあったの?」


 リーファは不思議に思ったので、尋ねてみる。

 近くにいたハイドライドはカミーユに視線を送ると、意を決したように答える。

「この村は子供だらけなんだ。子供ばかりで大人がいない」


「子供だらけ?」


 意味が掴めず、キョトンとする。マキも手を止めて不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

 カミーユがハイドライドの言葉に重ねるように補足した。

「そう。大人の姿が見えない」


「どういうこと?」


「私から説明しよう」


 いつの間にかニースが食堂の入口に立っていた。

 ニースは食事の準備が出来ていることに気付くと、せっかくの食事が冷めてしまっては、と気を遣い話は食事が終わってからとなった。


 皆の食事が終わり、食器が片付けられるとニースがおもむろに口を開いた。

「ここは、孤児の村だ。戦争で親を亡くしたり、戦争に行ったきり帰って来なかったり、そういった子供たちが集まっている」

「政府は、開けても暮れても戦争ばかり。国内のことなど一顧だにしない。お陰で、農地は荒れ果て、産業は衰退し、孤児や貧民が増え続ける有様となっている。食料も全て政府に徴収されて、ソロモンの町や村は深刻な食糧不足に陥っている。何しろ生産の担い手は、皆兵士として徴収されているから、どうしようもない。他国の人に聞かせる内容ではないが、それがこのソロモンの現状だ」


 ニースはそこまで話すと深くため息を吐いた。


「3年前。そんな救いようのないこの国を救うべく、心ある者達が一致団結して立ち上がり、政府に窮状を訴えた。しかし、政府は全く耳を貸さないばかりか、異端者扱いをして国を想う「憂国の士」を弾圧し始めた。弾圧は激しさを増し、続々と憂国の士が投獄されるに及んで、政府への訴えは鳴りを潜めざるを得なくなった。そして誰も政府に逆らったり、意見する者がいなくなった。こうしてこの国に冬の時代が到来する。活気が失われ、希望よりも諦観が当たり前になった。しかし、そんな状況を見るに見かねたある方が、弾圧から逃れた憂国の士に密かに支援の手を差し伸べてくれた。憂国の士は、それによって息を吹き返した。少しずつ同志は増え、今は80人くらいの規模で活動している。何を隠そう私も政府から逃れた憂国の士の一人だ」


「この村もひと昔は、荒廃した村だったが、整備したお陰で人が生活できるレベルまで復活することができた。そして、行き場のない子供達を積極的に受け入れている内に子供ばかりが生活する村になってしまった。大人がいないことで、子供達は自分達の生活のために自主的に家を建てたり、畑を耕したりしている。この村に子供の姿しか見えないのにはそういう事情がある。後で村を案内しよう。この村は全然ましな方で、ほとんどの村は活気が失われたままだ。活気がない原因はいろいろあるが、やっぱり飢えだ。王都の勢威とは裏腹に地方には食糧不足による飢えが広がっている。やるせない。お前たちの届けてくれた食料によってどれだけの人が救われるか。本当に感謝する」

 ニースはそう言って頭を下げた。


 今になって、ダルクファクトの真意が理解できた。

(非公式に食料を運んでいたのはそういう訳か)


「政府は?」

 カミーユが尋ねる。


「ダメだ。戦争のことにしか頭にない。それにケチをつける者は誰だろうと取り締まりの対象にされてしまう。本当にこのままじゃ、この国自体が立ちゆかなくなるのにな」

 ニースの話に皆、神妙な顔つきになった。いくら考えても答えが見いだせない時、おそらくこんな顔になるだろうという顔つきだった。


 そんな姿を見て、そう神妙になるなとニースは朗らかに笑った。


 リーファはニースの話を聞いて、ソロモンが直面している状況の深刻さを理解した。同時にそれが簡単でないことも理解した。


 私達個人でソロモンの窮状を救うことなんてできないし、そんなこと考えるだけでもおこがましい。さらに安っぽい同情がこの場にそぐわないことは分かっている。

 何もできない私達のことはさておき、大人達の身勝手さで子供達が苦労している現実を何とかしなければいけないのではないかと、そう感じずにはいられない。

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