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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
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第4話 奇跡

アンデルセン童話「人魚姫」をリアルに今風な物語として描いてみました。世界は愛で満ちている、そんな愛のあふれる物語を描いています。


第4話は、海に落ちた王子と人魚が助ける場面の続きです。

 泳いでいる内に、目指す島が見えてきた。


「シェル。島よ島。後ちょっと。頑張ろう」

 イルカのシェルを励ましてみるが、シェルも相当疲れた様子だ。スピードが大分落ちている。


(ごめんね。シェル。つき合わせちゃって。ありがとう)

 心の中で謝ると、何かを感じたのか、キュキュと鳴いた。


 島に着くと、とりあえず砂浜に男の子を仰向けに寝かせて、呼吸を確認してみる。


(大丈夫。呼吸はしている)


 その内、ゴホゴホッと咳をしだした。

「大変!」

(そう言えば、人魚の鱗は万能薬だなんて、お姉ちゃんが言ってたな。私の鱗が効くか分かんないけど、飲ませてみよう)


 リーファは自分の鱗を一枚抜いて、落ちていた石で鱗を削って粉にする。


 以前、姉に溺れた人間を助けるには、口移しで空気を送り込めばいいし、病気で瀕死の人間には、口移しで薬を送り込んだりする方法が効果的って聞いたのを思い出した。

 今まさに、その口移しを実践する時なのだが、「ちょっと待って」とブレーキがかかる。この子を助けなきゃという理性と誰かも分からない人間と口移しなんて嫌という感情がリーファの頭の中で同時に沸き起こり、グルグルとループしていく。


(はああ。私はいったいどうすればいいの?)


 葛藤で頭の中が混乱してきた。

 男の子の顔をじっと見つめる。真っ赤な顔に苦し気な呼吸。


(よく見ると、案外かわいい顔してるじゃん)


 そのまま口元に目をやる。

 途端に顔が赤くなる。意識すればするほど、ドキドキと胸の鼓動が早くなる。


(もう。私にとってファーストキスなんですけどぉ)


 一旦、口元から目を逸らし、もう一度男の子の顔を見る。

(.....)

(ええい。もういいわ。覚悟を決めて! リーファ! これは人助け!)


 リーファは、男の子の顔に自分の顔を近づけると、唇を重ねるようにして、空気を送り込んだ。それを2回繰り返し、胸の辺りを両手で押した。そして、最後に男の子の上半身を起こして、自分の鱗を粉にしたものを混ぜた水を口に含んで、男の子の口に含ませた。その薬を男の子が飲んだのを確認すると、遠くに人影が見えたので、慌てて姿を消して、男の子を再び砂浜に寝かせて、その場を去った。


「お待たせ。シェル」

 海で待っていたイルカのシェルに声をかける。

「さあ、帰りましょ。」

 人魚とイルカは、穏やかな海を沖に向かってゆっくりと泳いでいった。


 砂浜の王子は、まもなくして村人に発見され、村の医者による治療を受けたが、みるみる熱は下がり、翌日には、熱もすっかり引いて元気を取り戻した。


 ギルら、船の搭乗員は、ボートで海上を漂流していたところ、偶然通りかかった大型の漁船に助けられた。王子以外は全員無事だったが、肝心の王子を失ったことで、全員が意気消沈していた。


 港に到着し、ギルは船乗り達と別れ、一人城に向かう。

 足取りは重い。表情に生気はなく、何か話しかけられても上の空だった。


 ギルは、王子を失った責任をとって自分も後を追うつもりでいた。だが、責任者として王子遭難の報告を国王にしなければならない。


 取次の者に、帰国した旨を伝えるとその者は驚きの眼差しを向けた。

 そのあまりにも憔悴した様子を見て、ギル・マーレン本人だと思わなかったらしい。

 拝謁のため別室に待機する。


 呼び出しを待ってる時間が、とてつもなく長く感じられた。

 待ってる間に考えることは、王子のことだけだった。


(ボートが宙に浮く直前、何故自分は王子から目を逸らしてしまったのか)

(何故、占い師の言うことを真に受けて、危険な海域に船を向けてしまったのか)

(王子の病気が重くなる前に、変調を察して手を打つべきではなかったか)


 過去のあらゆる場面が頭に浮かび、その度に苦渋に満ちた顔つきになる。後悔してもし足りない。ギルはどこまでも自分を責めた。


(何が王子を守る、だ。結局俺は何もできないクズ同然のマヌケ野郎だ)


(この失態は...。この失態は万死に値する)


 拳を握る手にも自然と力が入る。


 繰り返される自責の念に思考が支配され、心臓がわしづかみにされたような気分で苦悶していると、正面のドアが開いた。見るとドアの向こうに王子が立っている。


 王子? 王子がいる。


 ギルは、しばらくその事実を受け入れられなかった。

(俺は幻を見てるのか?)


 王子が、自分の元に歩み寄り、会話を交わしたことで、目の前のことをようやく事実として受け入れた。


「ギル、いろいろと心配かけて済まなかった。この通り熱は下がって元気を取り戻した。これもギルやフレディを初め、僕を支えてくれたみんなのお陰だ。改めて礼を言う。ありがとう」

 王子はギルの目を真っすぐに見つめて言う。


「王子。勿体ないお言葉。私の方こそ、王子に余計な気遣いばかりさせて...」


 ギルは、王子が生きていてくれたこと、元気になられたこと、自分を信頼してくれていること、全てのことが奇跡のように思えて、平常心でいられなくなった。

 こみ上げてくるものが抑えられなくて王子の目の前で、思い切り泣いた。みっともないと思ったが、今は泣くことを抑えられなかった。王子はそんなどうしようもない私を温かく包み込んでくれた。

 その瞬間、ギルはこの人の為に、残りの人生の全てを捧げようと心に決めた。

 本作品をお読みくださり、ありがとうございます。


 2021年もあと僅かですね。ちょっと早いけど部屋の掃除をして、自分自身に労いの言葉をかけてあげました。今年も無事過ごせたことを感謝しつつ、後少し頑張ろうと思います。


 もしよろしければ、ブックマークの追加または「☆☆☆☆☆」の評価、感想、コメントなど、お願いします。作者の励みになります。


では、次回1週間後に更新します。

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