第34話 出航
オレンジ色に染まる港に大型船、中型船が黒いシルエットとなり、間隔を空けて停泊している。港に吹く風は潮の香りに満ちている。
リーファとマキは、ダルクファクトの言った船に乗るために波止場へやってきた。日焼けと汚れ対策用に2人ともダボダボの作業着を着ている。
「えーと。15番波止場はここかしらって。えっ、船いないじゃん」
「リーファ。そっちじゃない。そこは16番。15番は隣よ」
見ると、小さな船が停泊しており、船員によって盛んに荷物が詰め込まれている最中だった。
「やあ」
二人を見かけたイースが声をかけてきた。
水平線の先に太陽が見える。もうすぐ日が沈む。出航は早朝、日の出とともにということだった。
ソロモンに向かうという船を見上げる。思ったより小さい船だ。荷物を積むと聞いたので、大きな船を想像したのだが、この小ささで大丈夫だろうか?
リーファがそのことを指摘すると、船の中で一番速いらしく、何かあっても逃げきれるように、小さくても早い船で行くと説明された。
出航まで時間があるので、近くのレストランで食事をすることにする。
まずは、今回の航海にカミーユとハイドライドが参加しないことを聞いた。
詳しく話せないが、事情があるらしい。元々私の一方的な要求だったので期待はしていなかったが、少し寂しく思う。
そして、薬の話題になる。
カラファからの情報は既にイースに伝えてある。今回はイースが分析した内容についての話を聞いた。結果はカラファの出した結論とほぼ同じだった。難しいことはよく分らないが、要するに、身体にとって良くない成分が含まれている。
そして、会長が処方している薬も全く同じものだったようだ。
イースはそこから、新たな情報を教えてくれた。
会長に偽りの薬を処方していた事実が発覚すると、すぐに病院に捜査の手を回し、院長を問い詰めた。
院長は、バラリスから勧められた薬を健康回復効果がないものと知りつつ、使用を黙認していたことを認めた。随分と謝礼をもらっていたようだ。
もう一人、実際に薬の調合に携わり、薬の効能を知りつつ、この薬をバラリスに強く勧めた人物がいた。その者はソロモン出身で、デグレトには2年前にやってきた。薬に関する博識を買われて専門薬剤師として病院に採用された。勤務態度は真面目で病院での評判は良かったが、少し前に自己都合で病院を退職している。もっと稼ぎがいい仕事が見つかったという理由だが、その後の消息は掴めていない。王都ガナッシュあるいは、王都周辺都市に行ったとも考えられ、そちらへも組織の捜索の手を伸ばしている、という内容だった。
「バングレーと名乗っていたそうだが、偽名かもしれない。このタイミングでソロモンに戻ったとは思えないが、ついでにバングレーについて、ソロモン滞在中にどんな小さなことでも、分かったことがあれば知らせろと御祖父様に言われた。えらい剣幕だった」
「ちなみにこれが、そのバングレーの似顔絵」
イースは、人の顔が書かれた紙を机に置いた。
「うーん」
唸るしかない、何の特徴もないただのおじさんだ。中肉中背、背は165cmくらいで、年齢は推定で40歳くらい。右目の下のほくろが唯一の手掛かりだ。
イースは似顔絵をしまいながら、「この人物に行き当たるのは難しいかもしれないな」と言って、ため息を吐いた。全く同感だ。
食事が終わると、ソロモン行きの船に乗り込んだ。夕方に忙しそうにしていた荷物の搬入はもう済んだのか、波止場はシーンとしている。
案内された船室で、マキと一緒にくつろぐ。
船に入った時、船長さんを紹介された。
船長と言えば、いかつい感じのイメージだったが、温和な腰の低い、人当たりが柔らかい感じの船長だった。少し頼りな気ではあるが、不当な扱いは受けないようなので、安心した。快適に過ごせて、無事目的地に着けば、それでいい。
二段ベッドの階段を上がり、ベッドに横になって天井を見つめる。
ソロモンに行けることになったのは良かったが、着いたところで何をすればいいのか、何もイメージが浮かばなかった。
(なるようになる...かなぁ)
さすがに不安が募る。
(お母さん)
母の顔を思い浮かべる。
(私にできるかな?)
母が微笑んだ。
【あなたが、自分はやりきった、そう思えるまで頑張ってみなさい。そうやって頑張った結果が必ず将来の自分にとってプラスになります。人間界に慣れてないあなたにはとても難しいかもしれませんが、その中で自分に何ができるか考えて、やれることをやってご覧なさい。大丈夫です。前を向いて歩く者には必ず周りからの協力が得られます。その為には、あなたが自分を信じないといけません。自分を信じることです。全てはそこから始まります。私もそうやって生きてきました。胸を張って自分を信じるのです、リーファ。ただ、もしも自分一人ではどうしてもできないことがあれば、その時は遠慮なく、私や姉妹を頼りなさい。私達は家族なのですから】
(うん。どうすればいいか分からないけど、前に進んでみるよ)
(頑張ろう。頑張れ、リーファ。何とかなる)
自分で自分の背中を押す。
最初は、ベッドに横になっても中々眠ることができなかったが、最近ではよく眠れるようになった。マキと少し話そうと思って声をかけてみる。
「マキ。起きてる?」
返事がないので下を覗き込むと、マキは既に眠りについていた。
かすかに波の音が聞こえる。
(たまには海に飛び込んで思いっきり泳ぎたいけど、無理だろうな)
そんなことを考えている内に、気が付いたら眠りについていた。
ネット小説大賞に応募してましたが、一次選考に残ることはできませんでした。残念。
まだ始まったばかりだし、次を目指して頑張ろうと思います。
応援、よろしくお願いします。




