第32話 ダルクファクトの独り言
カミーユは驚いていた。
ソロモンの動向については、ギル・マーレンまたはソロモンの密偵からの連絡でおおよそ把握していたが、それでも何故戦争を仕掛けたかや魔の海域に船が出没している理由など、未だ分からないことは多い。
また、海底資源の話は初耳だった。
俄かには信じられなかった。
何故、ソロモンや彼女がデグレト近郊の海底資源の存在を知っているのか、最も近い存在の自分達はその存在すら知らなかったというのに。
さらに、ソロモンの本当の狙いが彼女の言う通り、デグレトだとすると、それこそデグレトに留まって調査している場合ではない。大規模な諜報で情報を集め、ソロモンが事を起こす前に手を打っておく必要がある。一刻を争うことだ。
ソロモンがデグレトを攻める可能性についても思い返してみる。
密偵からの報告によって、ソロモンの標的がブエナビスタではなく、ビエントと分かって、実際ソロモンはビエントに戦争を仕掛けた。そのことで、ある意味、矛先がこっちに向かわない安堵感から国中がほっと一息ついているところである。もし、ここで奇襲をかけられたら、と思うと背筋が寒くなった。
ギル・マーレンが自ら志願して、ソロモンに入り込んで船の調達の邪魔をしている。危険な任務だが、ソロモンの野望を挫く実に気の利いた対応だった。そして、船が集まらない件は、彼女の話した内容と一致している。ソロモンがデグレトを狙っているというのは、ただの仮説でしかないが、もし彼女の言うことが本当なら、知らず知らずにソロモンの野望を未然に防いだことになる。またしても、ギル・マーレンに救われたということだ。
今語られたことを真実としてとらえていいのか、頭の中で目まぐるしく想像を巡らせる。
だが、何とも言えない。
(この場に、ギル・マーレンがいれば、あるいはもっと適切な答えが導けるのかもしれないが...)
判断できない。情報が少なすぎる。もっと情報が欲しい。確かめる必要があるという彼女の言うことは正しい。
そっとリーファの横顔を窺った。
遥か先を見据える目は凛とした輝きを放ち、紅潮した頬と相まって、神々しいまでの美しさを醸し出していた。
(一体、君は誰なんだ?)
「マキさん、今のリーファさんの話したことは、本当ですか?」
イースがマキに確認をとる。
「ええ、私も全て把握している訳ではないのですが、だいたい私の認識しているところと同じです」
マキが隣のリーファを見つめる。
(それにしても、リーファってこんなに雄弁だったかしら? まるでルナかスーファのような堂々とした話しぶりだった。普段は見せないけど、女王から託されたミッションについて、リーファなりに、強く意識しているってことなのかしら。強引なやり方はあれだけど、自覚があってどうにかしようとしているところはちょっとは見直したわ)
ダルクファクトがおもむろに口を開く。
「リーファさん、あんたの抱えている事情はよく分かった」
「だが、船を出すことはできん。一般の船は、ソロモンに近づくことができない。そんな中船を出しても、追い払われるだけだ」
リーファの顔に失望の色が浮かぶ。
「だが、今聞いた話は非常に興味深い。随分と難しいことに挑戦しようとしているようだ。そんな中で真実を確かめたいという情熱がヒシヒシと伝わってきた。胸がじんと熱くなった。わしがもっと若ければ一緒に協力したいところだが、今のこの体では無理じゃな」
「これから言うことは、独り言じゃ」
そう言って、ダルクファクトは天井を見つめた。
「ある人からの依頼があって、ソロモンに食料を送ることになっている。出航日は1週間後、場所はイエローシティの15番波止場、ジュール号という船じゃ。船長にはわしから話しておく。行く行かないは自由だ」
ダルクファクトは、そう言うとカミーユに顔を向けた。
「カミーユくん、今、儂が行ったことはすぐに忘れてもらいたい。君の立場からすると受け入れがたいかもしれないが、わしに免じて聞かなかったことにして欲しい」
「...はい」カミーユは、目を瞠ったが、力ない声で答えた。
リーファは、目を輝かせると、パッと立ち上がって頭を下げた。
「ありがとうございます」
ダルクファクトは、真っすぐに2人を見つめて、言った。
「1つ条件がある。無茶はするな。必ず生きて、このデグレトに戻って来い。いいな、リーファ、マキ」
「はい」
リーファは勢いよく、マキは戸惑いながらも返事をした。
「今日はごちそう様でした。ありがとうございました」
リーファは、お礼の挨拶をするとシェルへのお土産を手にお店を出た。
「お祖父様、いいのですか?」
イースが心配そうにのぞき込む。
「止められるものなら止めている。言って聞くようなタマじゃないだろ。むしろ変にこそこそ動かれるよりは、息のかかった者に委ねた方が安心という訳だ」
「イース。新学期まではまだ日があるな」
「はい。あれっ、それは、もしかして....」
ダルクファクトはニヤリと笑う。
「いい土産話を期待しているぞ」
【人物紹介】
イース・ブランカー
性別 男
年齢 18歳
誕生日 12月12日(いて座)
種族 人間(資産家の息子)
身長 182cm
体重 70kg
好きなもの 武術全般、刀、兵法書
・カミーユとは小学校で同じクラスになって以来、行動を共にしている。
・合理的で冷静沈着。常に最善の方法を考えて行動している。
・口数は少ない(必要な時以外はしゃべらない)
・女子にモテるが、本人は女性(恋愛)にはあまり興味がない。




