第31話 リーファの憂い
ダルクファクト達のいる部屋は完全ではないが、半個室といってもいい状態で他のお客とは仕切りで区分けされている。なので、余程のことがない限り、話声が他のお客さんに聞こえることはない。
そんな中でリーファは静かにゆっくりと語りだした。
「実は、ある人に頼まれて調べないといけないことがあります。そのために私はデグレトにやってきました」リーファの話にみんなが真剣に耳を傾ける。
「ブエナビスタとソロモンの国境付近に魔の海域と呼ばれる海があるのは、皆さんご存知のことと思います。その海に近年ソロモンの大型船が度々現れるようになりました」
「その大型船から、30cmくらいの大きさの鉄の塊が数えきれないほど海に投げ込まれています。私達は偶然それの1つを回収してます。詳細ははっきりとは分かりませんが、海に投げ込まれた鉄の塊を発信機ではないか、と仮定しています」
「では、何のために、ソロモン船はわざわざ魔の海域にやってきてまで発信機を海に投げ込んでいるのでしょうか?」
「一般には知られていないので、まだご存じないと思いますが、あの海の底には、巨大な地下資源が眠っていると言われています。資源といっても加工を施して初めてエネルギーとして使えるものなのですが、彼らがその海域に現れた理由は、その地下資源だと私達は推測しています」
みんな、リーファの話す内容に引き込まれている。
「まだ調査を始めたばかり。海底の地形を調べるために発信機を使っていると思われるので、採掘するとなると遥か未来のことになるのですが、調査にある程度目途がついたら、どう考えるか」
「見つけた資源を独占したいと思うはずです。そこで、それまでに邪魔になる存在をどうにかしようと考えるでしょう」
「邪魔になる存在⁉」ハイドライドが訝しげに呟く。
みんな首を傾げていたが、カミーユがふと声を上げた。
「ブエナビスタの国境警備隊!」
「そうです」リーファが頷く。
「さらに、採掘を行うには、あそこはソロモンの港からは遠いので、もっと近い便利な場所を手に入れたいと考えるでしょう」
みんなの表情が引き締まる。
「いずれ、どこかの段階でデグレトを手中に収めたいと思うはずです」
「ソロモンは今、ビエントと交戦してますが、何のために戦っているのか目的が分かりません。本来、戦争とはもっと殺伐としているはずなのに、睨み合いばかりで何か手を抜いている感じさえ見受けられます。何か腑に落ちないのです。あるいは特別な思惑があるのかもしれませんが...」
「これは仮にのお話ですが、もしビエントとの戦争が彼らにとってどうでもいい戦争だったとしたら。他国の目を逸らすための手段の1つで、本当の狙いが、デグレトにあったとしたら...どうでしょう。飛躍し過ぎでしょうか?」
「・・・・・」
皆がゴクリと息を飲む。
「ソロモンは船を集めています。大規模な艦隊を編成するためです。しかしながら、船が思うように集まらないので、かなり苛立ってます。おそらく船が集まらないまま戦線を膠着した状態でフェードアウトするでしょう」
リーファはそこで一旦話を止め、みんなの反応を窺う。誰もが話の内容を真剣に重く受け止めている。
「私の話は半分は事実ですが、半分は推論です。私も確証があってお話している訳ではありません。ですので、ソロモンに行き、本当のことを確かめたいのです。この場に留まっても調べることはできますが、それでは何日も月日を費やすことになります。そんなには時間をかけることはできないのです」
場が水を打ったように静まり返り、張り詰めた空気が部屋全体を覆っていた。
人魚 豆知識① 6月30日は人魚の日
東欧にあるベラルーシという国の首都ミンスクでは6月30日を人魚の日とし、「人魚の祭り」が行われます。女性が民族衣装に身をまとい、頭に植物の冠を乗せて踊る姿が美しいお祭りです。この踊りを人魚の舞というそうです。 (出典 TABI LABO)
興味のある方は、ネットで検索してみてください。
次回、第32話「ダルクファクトの独り言」をお届けします。




