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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
22/199

第22話 市場回遊

 紺碧の空に高らかに鐘の音が響く。

 日曜の朝、港町イエローシティの大通りには、色とりどりの物品が並ぶ市場が開催される。


 リーファは、朝から興奮が治まらない。


 朝ごはんを食べながらも、心は既に市場へと向かっていた。


「リーファ。いい? 市場には行くけど、人前でお金を見せたり、お金をたくさん持ってるからと言って、何でも買ったりとか注意してね。昨日みたいに怖い思いをするなんてたくさんだからね」

「聞いてる? リーファ」

「聞いてるよ。お金を持っていると悪い人間を引き寄せるから、お金をあまり持ってないように振舞えばいいんでしょう」

「なんかちょっと違うけど、まあ、そういうことね」

「ちょっと怖かったけど、人間社会にはそんな一面もあるって、やっぱり海の世界とは違うのね。勉強になりました」

「今日は、大人しくあまり目立たないように市場を楽しみましょう」

「うん」


 リーファは、右手の拳を見つめながら、昨日の出来事を思い出していた。


(昨日のパンチ。やはり空中だと威力が半減する。空気の渦と気圧を利用して威力は増したはずなのに。破壊力は海中の1/4くらいか。これも海中と同じという訳にはいかない。しっかり頭に叩き込んでおこう)

(そう言えば、昨日助けてくれた人。最後何か言いかけてた気がするけど。何だろ)

(......)

(ま、いいか)


 朝食を食べ、着替えとメイクを手早く済ませたリーファは、まだメイク中のマキに声をかける。

「マキ。早く早く。出発出発」

 マキはリーファをじっと見つめると言った。

「リーファ。そんなメイクじゃダメよ」

「?」

「こっち来て。全く。人間社会では、メイクは女性の嗜みなのよ。昨日教えたでしょ」

「んー、面倒くさい」

「はい。鏡の前に座って。もう一度教えるから」


 マキは丁寧に教えてくれる。

 このマキの根気良さは彼女の最大の長所だ。そうやって個性派揃いの姉達にも手を焼きながら、手懐けてきたのだろう。マキの温厚で忍耐強い性格は教育者に向いていると思う。

「よろしくお願いしまーす」

 そう言って、リーファは素直にマキに応じた。


 ようやく準備が整い、ドアを開ける。

 陽射しがまぶしい。


(今日もいい一日でありますように!)


 リーファは太陽に祈りを捧げ、前に進もうとすると、前方に毛の生えた何かがうずくまっているのが見えた。


「何? あれ?」

「ああ、猫よ。野良猫」

「猫?」

「毛並みが気持ちいいわよ。触ってみたら」

 リーファは恐る恐る手を伸ばし、猫に触ろうとすると、猫は不意に振り向いて顔を向けてきた。リーファはビクッとする。そのまましばし猫との睨み合いが続く。


「無理! 怖い! あのふてぶてしさ、私には無理!」

 そう言って一歩後退る。

「そお? 怖くないわよ」

 そう言って、マキはいとも簡単に猫の背をなでた。

「ほら」

「いやいや。私には無理」

「なら、アザラシだと思えば、アザラシなら触れるでしょ」

「アザラシ大好き。かわいいし、超癒される。でもこいつからは挑戦的なオーラしか感じない。アザラシと同列にはできない」

 目の前の猫に敵愾心丸出しで指さすリーファを見て、マキも半ばあきらめ気味の顔をする。

「はいはい」

 マキは、これ以上言っても仕方ないという感じで、すっくと立ち上がり歩き出した。

 リーファはうずくまっている猫を避けるよう距離を置きながら歩き、マキの後に続いた。

「ねえ、マキ。アザラシ飼いたいな」

「無理!」

「えー!」

「じゃあ、ラッコ」

「もっと無理!」

 野良猫は、遠くで聞こえる会話を耳にしながら、人間など無関心といった感じで、ゆっくり目を閉じた。


 この日の市場は、晴天ということもあり、人で溢れていた。


「リーファ、勝手にどこかに行こうとしないで」

 マキに手を握られる。

「迷子になるわよ」


 なるほど、これが市場か。

 ちょっと人が多すぎる。


 二人は、人混みの合間を縫ってお店に並ぶ品を眺める。

 それでもリーファは見るもの聞くものに目を輝かせていた。

 マキは、今後の生活に必要なものを手際よく買っていく。

 野菜、果物、お肉、そして魚と順々に店を巡る。


 魚屋で思わず立ち止まる。魚がボールやカゴに入れられて売られているのを見て、なんとなく切ない気分になった。

(海の中なら自由に動き回れるのに、陸上では動くことはおろか息すらできない)

「どうしたの。元気ないみたい」

 マキから声をかけられた。何も答えないでいると、

「魚が売られているのを見てショックを受けているのね」と胸中をズバリ言い当てられた。

「やっぱりね。リーファは人一倍優しいからね。姉妹の中では、サイファとオルファが同じようにショックを受けてたわね。スーファとエルファとカラファは普通のことのように眺めていた。同じ姉妹でもそういう感覚は全然違うのね」

「あまり深刻にとらえても仕方ないわ。サメに食べられるか人間に食べられるかの違いっていうだけ。私達人魚だって、魚を食料にしているし、同じことよ」

「さあ、次行くわよ」

 理屈では分かるけど、同じ海に生きるものとしては、やっぱり切ない。市場を楽しいものとして浮かれていた自分の浅はかさに気が付く。


 お店では、お客さんに魚を手渡し代金を受け取るやり取りが行われている。


(そうね。市場は楽しいものだと思っていたけど、ただ楽しいだけの場所なんて存在しない。そこに至るまでの苦労とか努力とか、そういうのも含めて人々の頑張りによって市場は成り立っている。だから市場は賑わっている)


 市場で売られている魚を憐れむことは、正しいことかもしれないけど、別の見方では正しいことではないのかもしれない。


 そう考えて、ボールやカゴに入れられて売られている魚の店を後にする。


 小一時間の買い物の後、マキとリーファは、ぐったりしながら歩いていた。


 市場で買った荷物を両手一杯に持っている。

(重い。重い。買い過ぎた。こんなに買うんじゃなかった)

 楽しい市場が、全く楽しくなく苦痛に満ちたものになってしまった。

(これが重力なのね。侮っていたわ。重力ってこんなに大変だなんて。手がちぎれそう)


 荷物を置いて休んでいると、突如影に覆われた。何⁉ と思って顔を上げてみると目の前に男が立ちはだかっていた。

 見覚えのある顔。

「あなたは、昨日の!」

 マキがリーファをかばって身構える。


 男は、先日リーファとマキを脅し、お金を掠め取ろうとした男達のリーダー、ヘルマン・リックだった。

【人物紹介】

    リーファ

性別  女

年齢  18歳

誕生日 3月3日(うお座)

種族  人魚(王族)

身長  157cm(人間の姿) 217cm(人魚の姿)

体重  秘密

好きなもの アザラシ、イルカ。


・女王ルナの六女。父親は物心ついた時には既にいなかった。

・イルカのシェルをペットにしている。シェルの散歩はリーファの日課。

・割と飽きっぽい性格で、コツコツ知識を積み上げるような勉強は苦手。

・愛されキャラで、姉妹とは仲がいい。

・美声で歌う歌は、聞く者を魅了する。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  今回のお話も面白かったです。  リーファとマキの会話が好きです。 [一言]  人物紹介をつけたんですね。  登場人物にさらに愛着がもてるようになりました~。  次回も楽しみにしています…
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