表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
20/199

第20話 洗礼

 犬達がゲートに入り、そしてスタートが切られた。

「いけーーー。ミーティア。走れーーー」

 リーファが、半券を手に、ブンブン手を回しながら大声で叫ぶ。

「いけいけー」


 トラック1周600mを犬達が走る。

 6番の犬がスタートで出遅れた。そのまま最後尾を力なく走っている。

 それ以外は勢いよく走っている。走りっぷりも悪くない。


「出遅れた6番以外は、どれが来てもおかしくないわね」

 マキは目の前のレースを冷静に見つめる。


 犬達は5頭が団子状態で走っていたが、最後のカーブを回ったところで、犬達が加速した。1番が先頭に立ったと思いきやそれを4番が追い抜き、また2番がそれを追い抜き返すといった具合だ。目まぐるしく順位が入れ替わる。


 犬達の一進一退の攻防に、会場は興奮のるつぼと化す。


 6番以外の5頭がほぼ横一線でゴールインした。リーファも「どうかな。来たよね。ミーティア来たよね」と興奮気味にマキに話しかける。


 会場は一瞬静まり返り、会場の誰もが固唾を飲んで結果を待つ。


 会場にアナウンスが流れる。

「ただいまのレースの着順を発表します」

「1着5番ミーティア。2着2番モスキート。3着1番スピットファイア。4着....」


「来たあー。やった、やった。マキー、勝ったよ。すごーい」

 リーファはマキに抱き着いて、喜びを爆発させた。

 会場は、悲喜織り交ぜた歓声が上がっている。


「よくやった。ミーティア」

 リーファはトラックに向けて大きく手を振りながら、声をあげている。


 犬達は、人間の思惑など知らんぷりで、ブリーダーにリードを引かれながら、トラックから引き揚げているところだった。


「やったね。これで明日の市場でいっぱい物が買えるね」

 リーファは終始満面の笑顔で、マキに話している。そんなリーファを見ていると、マキまでうれしい気分になってくる。先ほどのお金の件も本当は良くないのだが「まあ、いいか」と許せてしまう。


「じゃあ、受付に行ってお金に替えてくるね」

 そう言って、走り去っていった。


 女王様から与えられたミッションのことなど、まるで頭にない様子に、大丈夫だろうかと心配になるが、まだ街に着いたばかりだし、少しくらい羽目を外すのもいいかと、大目に見ることにした。


 マキは、研修及びミッション遂行のスケジュールを頭の中でイメージしていた。人間社会の常識については、一応教えたがまだ足りない。語学習得(特に鉛筆を使って書く)には少し時間を割くべきだろう。経済や契約のことも教えないといけない。調理も教えないといけない。その辺りは、5人の姉との研修でノウハウがあるので、やり切る自身があったが、問題はミッションだ。問題解決に向けてどうアプローチすればいいのか、頭を悩ませていた。


 そんなことを考えていたが、リーファの戻りが遅いことが気になった。換金者の順番待ちにしては、時間がかかり過ぎている。少し心配になったので、マキも受付に向かうことにした。


 マキが受付に到着すると、リーファが駆け寄ってきた。

「ごめんなさい。すごい人で」

 なるほど、人でごった返している。

 海の中では、こんなにも密集することもないので、手間取っていたのだろう。

 リーファは手に持ったお金をマキに渡した。結構な金額である。


「気が済んだ? リーファ」

「うん。大満足。超楽しかった」

「じゃあ、港の方へ行ってみようか」


 繁華街を抜けて港への道に入ると、後ろから二人組の男に声をかけられた。

 一人は人懐っこい感じで、もう一人は不愛想だが背の高い体格のいい男だった。


「こんにちは」人懐っこい方が挨拶してくる。

「いい天気だ。絶好の散歩日和だね」

「見てたよ。ドッグレース。」

「ドッグレースって燃えるよね。俺達もあの場にいたんだけど、いやあ、最後のレースはすごかった。あんな興奮したレースは久しぶりだ」

「ゴール前、5頭の犬達が横一線に並んで。今でもあの光景が目に浮かぶ」

「あのレース、何に賭けた?」

「俺は1番に賭けたんだ。スピットファイア。1番人気でここ最近連戦連勝だったからな。でも最後いつもの伸びがなかった。惜しかった、実に惜しかった」

 リーファ達の歓心を引こうとして、愛想よく話しかけてくるが、生憎二人は目の前の男に全く関心がない。

 程よく無視しているが、それでもしつこく話しかけてくる。次第にイライラが募ってきた。


「あんた達、誰? 一体何の用?」

 リーファは不機嫌さを隠さずに聞いた。


「失礼。港ではちょっと名の知れたブローカーさ」

「さっきのドッグレースで大分いい思いしてたみたいだけど、どうかな。俺達にも少し、分けてもらえないだろうか?」

 男は、ニヤリと笑みを見せた。

たまに凄い「虚無感ダークゾーン」に包み込まれる時がある。

自分でも信じられないくらい本当に何もやる気がなくなってしまう。


一種の風邪みたいなもので、時間が経てば元に戻るから、深刻に考える程ではないのだけれど、いつもと違う感じに焦ってしまう。


そんな時はとりあえず笑ってみる。

「うん、大丈夫。いけるいける。何とかなるさ。あはははは」


笑っていればきっといい事が巡ってくる。気持ちが晴れやかになる。現在の状況は変わらないけど未来の状況は変わっていくだろう。


他人に笑顔を振りまくように、自分にも笑顔を振りまいてみよう。


次回「人魚姫と王子」をお届けします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ