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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第1章 人魚姫リーファとカミーユ王子の運命の出会い編
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第19話 イエローシティのドッグレース

デグレト島 島最大の港町 イエローシティ


「ねえ、マキ。あの大きな建物は何?」

 リーファは建物に指をさして聞く。

「あれは、礼拝堂よ。日曜になると、人々はあそこに集まり、神に祈りを捧げるの」

「ふーん。私達でいう神殿みたいなもの?」

「少し違うかな。神への信仰は同じだけど、神殿は神の宣託を受けたりとか儀礼的に使われることが多いけど、礼拝堂は民衆が神父さんと一緒に自分達の祈りを捧げる場として使われる」

「神父さん?」

「神に仕える人で、神の言葉を代弁する人」

「へえ。興味あるな。行ってみたい」

「そうね。礼拝は日曜行われるから、市場での買い物の後、余裕があれば行ってみようか」


 人魚のリーファとマキは、魔法薬によって、人間の姿になっている。

 2人は地上生活に慣れるための事前訓練を経て、人間界への研修に来ていた。


 今日は、研修2日目。町を歩きながら人間社会について見聞を広めるとともに、迷子にならないように頭の中に目安となる建物、目印になるものをインプットする。住むところは、マキが市内のアパートを手配してくれた。しばらくそこに暮らして、人間社会について勉強することになる。勿論、女王から言われたミッションも忘れずに遂行しなければならない。


 事前の訓練で、重力や歩く感覚は慣れてきたが、依然として体が重く感じるし、休憩なしで歩き続けると途端に疲れる。地上で暮らすのは思ってたより大変だと、今になって身に染みて分かってきた。しかしながら、見るもの触れるもの食べるもの、全てが新鮮で楽しかった。ワクワクする気持ちが止まらない。


 二人は、デグレトの若い女性の間で流行っているアスリートファッションと呼ばれる動きやすい服装を身に着けていた。長袖の生地の薄いパーカーに通気性のいい大きめのジャンパーを羽織り、下はショートパンツといういで立ちだ。ショートパンツから出ている色白の素足がまぶしい。リーファはスカートよりも動きやすいズボンやショートパンツを気に入っていた。


「あれは何?」

 歩きながら、目についた物を片っ端からマキに聞いていく。

(こうやってマキに質問するのは、今日で何度目だろう?)


「えーと、あれはドッグレースの行列ね」

「ドッグレース?」

「犬を走らせて順番を競うの。で、どの犬が一番になるかお金を賭ける。当たると、お金が何倍にも増える。娯楽の一種よ」


「行こう。マキ」

 リーファは目を輝かせる。

 そして、そのまま速足で行列の方へ向かっていく。

「えっ⁉」

「ちょっと。リーファ」

 マキは慌ててリーファの後を追う。


 二人はドッグレース場に入った。マキはあまり気乗りしないようだったが、リーファに押し切られる形で仕方なくついてきている。

「遊びに来てるんじゃないんだからね」

「うん。これも勉強のうち」

「もう!」


 リーファはマキからドッグレースについての説明を受ける。

「見て。リーファ。あの6頭の犬の中から、どれが一番早いか決める。決めたら、この紙に〇を付けて、さっき通った受付にお金と一緒に提出する」

「当たれば、受付に書いてあるオッズに従って、支払ったお金に配当がついて戻ってくる。外れたら、当然お金は戻ってこない」


 リーファは真剣な表情で、出走予定の犬達を見つめる。

 見たところで、分かるはずもないのだが、とにかく見る。

「決めた。5番。5番にするわ」

「そしたら、5番のココに〇を付けて。こうして。」

 そうして、紙に必要事項を記入する。


「はい。お金」マキが財布からお金を取り出すと、リーファに手渡す。

「マキ。財布貸して!」リーファは財布ごとひったくった。

「あっ」

 そこから素早く、さらに数枚のお札を抜くと「じゃあ、これだけもらっていくね」と言って、ニッコリ笑顔を浮かべた。

「これだけって、あんたねー」

「大丈夫。絶対5番がくるって。行ってきまーす」

 そう言って怒り顔のマキをその場に残して発券の受付に走っていく。


「すみませーん。はい、これ。5番に賭けます」

 発券の受付で、勢いよく話しかける。

「おおっ。お嬢ちゃん、威勢がいいねえ。5番の一点買いかい?」

「そーです」

 左手を腰にあて、右手をまっすぐ伸ばし人差し指をかざしながら得意気に返事をする。

「3番人気だけどいいのかい?」

「大丈夫。絶対5番が勝ちます」

「自信満々だな。分かったよ。じゃあ、はい」

 そう言うと、受付のおじさんはやれやれといった表情で手続きしてくれた。

「幸運を祈るよ。お嬢ちゃん」

「ありがとう」


 リーファはおじさんから、半券を受け取ると、鼻歌を歌いながら上機嫌で歩き出した。


 リーファが席に戻ると、マキがマシンガンのように小言を言い放つが、どこ吹く風のリーファは出走準備中の犬の観察に集中する。


「よっしゃ。来い5番」

 5番の犬を見て拳を握りしめる。

「5番って何て名前だっけ」隣のマキに聞く。

「ミーティア。流星って意味だって」

「流星? 光の滴のことね」

「お願い。ミーティア。頑張って」

 リーファはミーティアに願いを込める。

ドッグレースって日本じゃ見かけないし、実際に見たことない中で、競馬をイメージして書きました。本場のドッグレースは違うよとの意見があるかもしれませんが、そこは目をつむっていただけると助かります。


次回「洗礼」ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  ドックレース初めて聞きました。  5番の一点買いをするリーファが可愛い。 [一言] 追記)  アンジュちゃんたちの物語なのですが、今書き溜めているところです。公開にはまだ時間がかかりそう…
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