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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第3章 天使と悪魔の顔をあわせ持つ人魚姫とそんな人魚姫に振り回されながらも優しさを失わない王子の揺れるブエナビスタ城 編
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第187話 ドラゴンの咆哮

 シュラが不敵に笑う。

「ふふっ。5対1? あなた達の相手はこいつで十分」


 そう言うと突然海が盛り上がり、海面に大型生物が現れた。

 巨大な体躯、全身に覆われた黒い鱗、長い首、背中から突き出している翼。


「あれは⁉ ドラゴン⁉」


 ドラゴンと形容された生物はその体躯を震わせながら海岸線をゆっくり上陸してくる。


「ドラゴンなんて人間の描く想像上の生物で実際には存在しない。それがここにいるということは魔法によって作られた生物ということだわ」

 スーファが巨大なドラゴンに警戒感を強める。


 ドラゴンは自分を誇示するように大きく咆哮すると呆気にとられている人魚達に向けて次々と光の球を口から吐き出した。


「うわっ、何か吐き出した」


 人魚達は驚きながらも全員が跳躍しながら球を避けた。

 ドラゴンの吐き出した光球の衝撃によって地面が大きくえぐられている。


「なかなか強力なペットをお持ちだこと」

「結構な破壊力だね」

 二女サイファと四女オルファがドラゴンの次の攻撃に警戒しつつ言葉を交わす。


「面白がってる場合じゃないわ。魔法によって作られた人工生物の存在は地球上の生態系に影響を及ぼしかねない。特にあんな規格外生物は存在してはならない。速やかに元の姿に戻すか、さもなくば抹殺しなければならない」


 スーファは鋭い語気で皆にドラゴン抹殺を指示した。


「了解」

 サイファとオルファはすぐに返事をする。


「ドラゴンとは言え所詮はただの爬虫類。私達の敵ではない」

 そう言いながら2人は左右へと回り込んで臨戦態勢を整えた。


 三女エルファは一人ボーっと何か考える仕草をしている。


 ドラゴンに攻撃を加えようとしたサイファとオルファにエルファが待ったをかけた。


「ちょっと待って!」


 二人はエルファの声を聞き、何事かと振り返る。


「このドラゴン、私に預けてくれない?」


 エルファの真意が分からずスーファが聞き返す。

「預けるって?」


「興味があるの。魔法で作られた生物なんてなかなかお目にかかれないじゃない。どういう魔法を使って、どんだけ時間をかけて、その間の細胞の成長具合はどうだったか、爬虫類が何故光の球を口から吐き出すことができるのか。魔法による生物進化のメカニズムがどのように行われたのか? 興味深い。とっても興味深いわ」


「・・・」


 さっきまでつまらなそうな目をしていたエルファの目が爛々と輝いている。興味の対象(主に魔法研究に関するもの)を見つけた証だ。こうなるともう彼女は戦いどころではない。ひたすら興味の赴くまま探求に専念する。

 ちなみにエルファの魔法は実力者揃いの姉妹の中でも群を抜いている。ルナは「おそらく歴代の人魚の中でも一二を争うほどのものかも」とその魔法の知識と技術を高く評価している。

 ここに至る途中に仕組まれたシュラのトラップの存在を全て見抜き無効化したのはエルファの持つ深い知識によるものだった。


 スーファは仕方がないなと苦笑する。

「いいわ。じゃあ、そのドラゴンはエルファで対応して」


「他のメンバーはこの場を去ったシュラを追いかける」


「了解」


 スーファ、サイファ、オルファの3人はエルファに一言二言言葉をかけると、エルファを残してシュラの去った方を目指して駆け出した。


 一人残ったエルファはドラゴンと対峙する。


「スキャン」


 エルファがドラゴンの身体と細胞を分析する。

「ほっほう。なるほどね。細胞が複雑に変化しているかと思ったけど割とシンプルに作られてる。これならば」


 エルファは草むらにいた小さな白蛇を捕まえると、白蛇に向かって魔法をかけた。


 白蛇は急激に体が大きくなり、足が生え、手が生え、翼が生え、あっという間にドラゴンへと成長した。


「えへへっ。一丁上がり」

 得意気に笑みを見せる。


「エルファ様にかかれば、生物の複製なんて訳ないってことさ」


 シュラが作り出した黒いドラゴンと瓜二つの白いドラゴンが海岸線に現れた。白いドラゴンは自身の体の変化に戸惑っている。


 エルファはたった今作り上げたドラゴンの皮膚を触ってみる。

 硬いはずの鱗がふにふにしている。


「早すぎる成長に皮膚の硬化がついてきてないわね」

「同じ体裁に仕上げることはできたけど、もう一工夫しないと使い物にはならない、か」

「仕方ない。データ収集のついでに手を貸すしかないか」


 エルファは仕方がないと言いつつも楽しそうにドラゴンを見つめていた。


 ドラゴンに向かって語りかける。


「あなたの相手はあの黒いドラゴン。私が指示するからあいつをやっつけるのよ。いい?」


 意思が通じたのか、白いドラゴンは大空に向かって大きく咆哮する。

 空気がビリビリと振動する。


 黒いドラゴンは突如現れた自分と同じドラゴンに一瞬ひるんだが、既に闘争心を取り戻し、低い唸り声で威嚇している。


 エルファは腕を組んで考える。


(このドラゴンはおそらくシュラによって敵と認識したものを攻撃するようプログラミングされている。この生物が元々小さな爬虫類であるならば、シュラの命令を忠実に履行する知能はない。よって遠隔操作の可能性はない)

(シュラがこの場に居て、目で見て、耳で聞いて、肌で感じたことを情報としてドラゴンに伝達し、ドラゴンに攻撃のイメージを施せばドラゴンはシュラの描いた攻撃を忠実にこなせるんだろうけど、シュラがいないこの場合は目的の執行を最優先にして、細かいところはドラゴンに任されている、そう思って良さそうね)

(もしかしたら無理にドラゴンをコントロールするよりドラゴン自身の生物としての闘争本能をかきたてる方が効果的だからそういう風に仕向けたとか?)

(この爬虫類にどの程度の知性が備わっているのか? 魔法で爬虫類の知性を高めることは可能なのか? 考えれば考えるほどワクワクしてくる)


 黒いドラゴンが白いドラゴンに対し突撃してくる。


「よし行け。ホワイト」


 白いドラゴンはエルファのかけ声に応じて黒いドラゴンへの前進を開始した。


 夜明け前の海岸線でドラゴン同士の激闘が開始された。

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