第184話 激戦
覚悟を決めたリーファは右手を高々と上げる。
「砂嵐」
足元から砂が沸き起こる。
一面が一気に砂をともなう暴風域と化した。砂がどんどん風で巻き上げられ周囲1mより先は全く何も見えなくなった。
(砂嵐によって五感全てが機能停止に陥る。さらには時間が経つほど呼吸もままならなくなる)
リーファは激しい砂嵐の中にいるはずのシュラに向かって心の中で問いかける。
(どうする? シュラ)
リーファは視界を遮る砂嵐の先にいるはずのシュラをじっと見つめる。
ドンドンドン
音がして、砂嵐の中に薄っすらとシルエットが浮かぶ。
シルエットは徐々に大きくなっていく。
砂嵐の中に巨大な城が出現した。
(そうきたか)
(だけど、息つく僅かな時間も与えない)
リーファは砂の城に向かって強力な魔法を放つ。
「圧壊」
城自体が大きな力によって崩壊し、欠片がバラバラと散っていく。
「今だ」
リーファは足に力を込める。
「神速」
砂塵へ向かって風のような速さで突っ込んでいく。
砂煙の中に人影が見える。
(いた)
影が動く。
(逃げる⁉)
(逃がさない!)
神速によって一気にシュラの懐に飛び込むと低い角度から右の拳に力を込める。
リーファの存在に気づいたシュラが至近距離から魔法を放つ。
リーファは体を反転させてシュラの魔法を避けると右の拳をシュラのお腹目がけて叩き込んだ。
当たるかと思われた瞬間、突風によって体が吹き飛ばされた。
空中で体制を整え着地すると再び地面を蹴って再びシュラ目がけて突っ込む。
「魔爪気」
神速のリーファが魔法を唱えるとリーファの体は青い光に包まれた。
「炎渦壁」
シュラは突っ込んでくるリーファへの対策として炎の壁をリーファの前面に繰り出す。
リーファは構わず炎の壁に突っ込むと壁を難なく突破した。
「チッ」
シュラは舌打ちすると次の一手を繰り出す。
「牙岩群槍」
地面から無数の岩が突き出し、リーファの行く手を阻む。
リーファはそれでもお構いなしに突っ込む。
身に纏った魔爪気で岩を破壊し、あるいは岩の上をジャンプしてシュラ目がけて前進する。
シュラの魔法によって凸凹だらけとなった大地を越えたリーファに対して、シュラは次々に魔法を繰り出すが、リーファの全身を包んだ光がそれらの魔法を悉く弾き飛ばす。
シュラまでたどり着いたリーファは真正面から突っ込むと拳を振りかざすと見せかけて、魔法を放った。見るとシュラも魔法の構えをしている。
「轟沈」
リーファとシュラ、同時に相手に向かって至近距離で放った魔法はぶつかった瞬間大爆発を起こし、二人の体を吹き飛ばした。
「くっ」
(同じ魔法。互角の威力)
体は来た途上の凸凹の岩に叩きつけられる。
息を上げながら起き上がってみると背中と左腕に痛みを感じた。
「はあはあ」
(少しばかりダメージが...。でもそれはたぶん相手も同じ)
リーファは左腕を押さえながら前に進む。
(シュラが得意の闇の魔法を繰り出す前に、撹乱しながらの接近戦で勝負を決める)
(だけど、こっちの動きも読まれるようになってきてる。シュラに接近し攻撃を繰り出すタイミングに生じる僅かな時間、そこを逆に狙われている)
(何か考えなければシュラを出し抜く何かをしなければシュラには勝てない)
岩の上から見下ろすとダメージを負ったシュラが立ち上がるのが見えた。
右手を振り上げて気を集中させる。
「無限光矢」
リーファの掛け声とともに空に白い光が現れた。
シュラが上空に現れた白い光に驚愕の声をあげる。
「何をする気?」
白い光は一際強い光を放つと一気にはじけた。
はじけた光は無数の光の矢となってスコールのように地上に降り注ぎ、立ち上がったばかりのシュラを包み込んだ。
シュラは腕を盾に変化させて矢を防いでいたが、矢の威力が盾を上回ると矢から逃げるように姿を消した。
(亜空間移動!)
リーファはシュラが消えた先、無数の矢の中の空間に歪みが生じたのを見た。
光の矢は尚も空から地面に降り注ぐ。
矢が地面に激突する際に生じる爆発音は地鳴りのように絶え間なく轟いていく。
(亜空間に入った際の移動範囲は周囲8.2m、潜伏できる時間は2.4秒、時間を過ぎたら強制的に亜空間から押し出される)
シュラの出現場所を計算する。
(もし私がシュラの立場だったなら、姿を現すのは...)
「そこ!」
リーファはある一点に向かって凍結魔法を放つ。
「冷凍光線」
濃度の濃い凍結ガスが結集し、螺旋を描きながら目標地点に突き進む。
リーファの予測通りの場所、時間にシュラが姿を現した。
(来た!)
そこへリーファの繰り出した冷凍光線がシュラごと呑み込む。
シュラは目の前に迫った凍結魔法に有り得ないという表情を浮かべながらも、左手を素早く振り上げて直撃から身を守った。
しかしながら、受け止めた左手は凍結魔法によって一瞬にして凍り付いた。
「うっ」
シュラが凍りついた左手を庇う様にしながら、膝をつき呻き声を上げる。
シュラの周囲は冷凍光線の冷気で氷と化している。
顔を上げたシュラが距離を縮めるリーファの気配に気づいた。冷や汗を流しながら苦笑いを見せる。
「どうしたの? まだ勝負は終わってないわ。左手が凍り付いただけ。解凍魔法を使えばすぐ元に戻る。私ならこの機に一気に畳みかけるけどね」
「必要ないわ」
リーファが答える。
「必要ない? もう勝った気でいるの。左手を凍り付かせたくらいで私が降伏すると思っている? とんでもない。私も随分甘く見られたものね」
「いいえ、シュラ。勝負はついてる」
リーファの返答はシュラを苛立たせた。
「そのへらず口を二度と叩けないようにしてやるわ」
シュラがリーファに向けて右手を伸ばす。
「死神の微笑み《ソウルイーター》」
「・・・」
シュラは魔法を唱えたが何も起こらない。
「?」
不思議な表情を浮かべ再度同じ魔法を唱える。
「死神の微笑み《ソウルイーター》」
魔法は発動しない。
「馬鹿な⁉」シュラが焦りの声をあげる。
「くそっ。魔法が・・・使えなくなっている」
「何が起こっている⁉ 魔法封じか⁉」
他の魔法を試すがまるで反応がない。
「そもそも他人が使う魔法に外から干渉することなど可能なのか?」
シュラがはっとした表情を浮かべる。
「違う。魔法封じではない」
「体が動かない。麻痺の類か⁉」
シュラが左手に向け解凍治癒魔法を唱えるが、シュラの声だけが虚しく響く。
リーファはシュラの前に降り立つとやや冷めた声で言った。
「勝負はついてるって言ったでしょ。あなたが立っているその場所は強力な電磁波が渦巻いている。その電磁波によって首から下の全ての神経細胞が機能不全に陥っている。いくら頭で魔法をイメージしてもそれを行使する体には魔法のイメージが全く伝わってない。神経が元に戻るまで魔法は使えない」
「なるほどね。それで魔法が使えない、か。やるじゃない。この私から1本取るとはたいしたものだわ」
シュラは全く動じない。それどころかニヤリと笑みを浮かべる。
「だけど、まだ終わってないわ」
「私には闇の魔法があることをよもや忘れてないわよね」
シュラの言葉にリーファの眉がピクリと動く。
「闇の魔法ですって?」
(嫌な予感がする)
シュラが声を張り上げた。
「闇魔法発動。漆黒の分身者」
シュラの背後からもう一人のシュラが現れた。
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感じたことのない世界への誘い。
夢は夢のまま終わるのか、現実の姿に変わるのか。
まずは楽しもう。結果はその後。なるようになるでしょう。




