第181話 爆発
二人が離れたことを確認して、ルナが気を集中させる。
いつもの穏やかな顔から鬼のような険しさに顔が変化する。
手先から放たれた高密度のエネルギーが海流自体の流れを変えていく。変化した海流は今までとは真逆の方向に流れだす。
向きを変えた海流は輪を描くように渦巻き状に回りはじめ、どんどん激しさを増していく。
激流と化した海流は海中にある爆弾を呑み込む。
爆弾の沈下が止まり、逆に海流の流れに乗って海底から遠ざかっていく。
ルナの作り出した海流は海上にも波及し、海面上には大きな渦潮がいくつも出現した。
カミーユ達の乗った船の周りにも渦潮が幾重にも現れた。船は不安定に揺れながらもギリギリのところで渦を避けて航行している。
船内は優雅な雰囲気が一変、てんやわんやの騒ぎになっている。
(一体、海の中で何が起こっているんだ⁉)
カミーユはリーファの行方を気にかけながらも、船長に魔の海域からの離脱を指示し、不安でいたたまれなくなっている乗客に対して懸命に声をかけるなどして、パニックと化した船内の鎮静化に努めていた。
 
ルナは爆弾を包み込んでいる海流を導きながら海の中をゆっくり進んでいく。
やがて海底から真上に盛り上がっている鋭い岩盤が見えてきた。
岩盤の手前で停止すると、自らが操る海流を岩盤に向けて加速させる。
 
「海底資源と接触させさえしなければ、爆弾の威力がどれほどのものだろうと被害は最小限に抑えられる」
ルナは岩盤の正面に海流を向かわせた。
海流は岩盤に当たり左右に散っていく。
海流の中心に存在する爆弾が真っすぐ岩盤に向かい、ど真ん中に激突した。
その瞬間、爆弾は閃光を発して爆発する。魔法で強化された爆弾はその大きさを遥かに超える威力で岩盤を破壊する。
ルナは爆発の瞬間を狙って魔法を放った。
「誓護防壁×5」
5層の球状の防御壁が爆発を包むように出現する。
岩盤が崩壊する程の強力な爆発ではあったが、ルナの作り出した防御壁内に完全に抑えられた。
衝撃が消えたことを確認してシールドを外す。
「ふー。爆弾の方は終わったわ」
ルナは満足げに腕を組む。
「スーファ。リーファとマキに伝えて。爆弾処理完了。岩盤の一部が消失したけどアクアマリン及び周囲に被害なし。津波の発生もなし」
ルナが万一に備えてアクアマリン王国で待機しているスーファに遠隔で思念を送る。
「畏まりました」スーファからは弾んだ返事が返ってきた。
 
リーファとマキは途中まで一緒だったが、シュラの行先が掴めないため、二手に分かれた。
マキはデグレトの周囲に沿って海岸線を巡る、リーファは真っすぐイエローシティを目指した。
(デグレトにはシュラの恩人というべきハルさんがいる。シュラは人間がいくら死のうが無関心なようだが、ハルさんだけは別だろう。未曾有の災害から魔法を使ってでも守ろうとするはず)
イエローシティの港に入ったところで、スーファから「爆弾処理完了。被害なし」の思念を受け取った。
「よかった。本当によかった」
胸の前で手を合わせ、ほっと安堵の溜息を吐いているとマキの声が頭に入ってきた。
「シュラを見つけた。ピエード岬の南、人気のない砂浜に立っている」
「了解マキ。すぐ向かう。私が到着するまで待ってて」
「わかったわ」
シュラ発見の報に心を引き締める。
「女王は約束を果たしてくれた。今度は私達の番」
「シュラ。今度こそ決着をつけさせてもらう」
 




