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永遠の人魚姫 ~世界はやがて一つにつながる~  作者: 伊奈部たかし
第3章 天使と悪魔の顔をあわせ持つ人魚姫とそんな人魚姫に振り回されながらも優しさを失わない王子の揺れるブエナビスタ城 編
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第179話 世界の命運

 リーファはドラゴンの飛び去って行った方角を見つめていた。

 星が煌めく空に風が静かに流れてゆく。

「どういうことかしら?」


 不思議に思っていると遠くで水の跳ねる音が聞こえた。

(何かしら? 今、バシャッて...)


 音のした方に注意を向けていると背後から不意に名前を呼ばれた。

「リーファ」

 振り向くと船室への入口の所ドアが開けられ、そこにカミーユが立っていた。

「カミーユ!」


 カミーユを見た途端、張り詰めていた集中が切れ、自分の中に押し込めていた感情が一気に溢れ出した。

 気が付いたら駆け出していた。

 全速力でカミーユの元に駆け寄ると体を投げ出すようにして思い切り抱きついた。

「えっ、リーファ」

 カミーユは驚きながらもリーファの体当たりに近い抱擁を後ずさりながらもしっかり受け止めた。


 カミーユの胸に顔を埋め力の限りぎゅっと抱きしめる。

「会いたかった。カミーユ」


(カミーユの匂いがする)


 カミーユはリーファの積極性に戸惑いを感じながらも髪を優しく撫でる。

「何故、君が船に?」

 そして思い出したように声を張り上げる。

「医務室を抜け出して今までどこに行ってたの? ってか、大丈夫なの? 体は?」


 一気に捲し立てられてたじろいでしまう。

「それは...」

「心配したよね。ごめんなさい」


 リーファはカミーユの手を取るとそっと包み込むようにして握った。

(そんなに心配してくれたんだ)

 再びカミーユをぎゅっと抱きしめる。


 感動に浸りながら肩の力を抜いて憂いの帯びた声で耳元に囁く。

「カミーユ。私ね。あなたに秘密にしていることがあるの」

 反応はなかった。言葉にはしないが全身から「分かってる」と言葉にならない言葉が伝わってくる。

(そうよね)

 リーファは顔を上げて真っすぐにカミーユを見た。

「折角会えたけど、私、行かなきゃ」

「全部終わって無事戻ってきたら、私の話聞いてくれる?」


 カミーユの体が強張るのが分かった。

 一瞬の逡巡の後、肩から力が抜けていく。それと同時に首を縦に振って短い返事をしてくれた。

「ああ」


 真実を知りたいという気持ちと知らないでいたいという気持ちの両方があって、その両方の間で気持ちが揺れ動いているように感じられる。何となくだけれどそんな感じがする。

 それは分かる。私も同じだから。

 そして何となく察しているのだろう。

 秘密を知った先では今までと同じ関係ではいられない、ということを。


 カミーユは私を心配してくれていた。本当は聞きたいこともいっぱいあって、今すぐにでも本当のことを知りたいんだろうけど、そうは言わず私を気遣い、意思を尊重してくれている。


 顔を上げるとカミーユと目が合った。

「ありがとう。大好き」


 モヤモヤしたまま納得した微妙な表情のカミーユをその場に残して、リーファは全力でカミーユの元を駆け去る。

「リーファ。あまり無茶すんなよ」

 背中越しにカミーユの声が響く。

 振り返らず全力で駆け抜け、そのまま海に飛び込んだ。


 水泡が浮かび上がる中、人間の姿から人魚へと変身する。


 全てを話す。私の全てを。

 後悔はしない。

 いずれ話さなければならないことだもの。

 その先にあるものは「永遠の別れ」かもしれないけど、何かを隠したままでいるより、真実を知ってそれを受け止める。きっとそれが二人にとってのベストだと思う。


 ただ、その前にやらなければならないことがある。


 リーファは人魚へ変身すると、猛スピードで海中深く潜っていった。

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